2015年9月20日日曜日

原発運転40年ルールについて (小出裕章ジャーナル)

 今回の小出裕章ジャーナルは原発運転の40年ルールについてです。
 
 原子炉の鋼材は強烈な中性子照射を受けるので急速に劣化します。
 しかし中性子劣化の特性はまだ定量的に把握されていない(経験値がない)ので、実際の原子炉内に試験片を置いてその「脆性遷移温度」を測定することで、本体の劣化度を推定しています。
 
 鋼は低温になると延性(靭性)を失い脆くなりますが、新品の原子炉鋼ではその遷移温度はマイナス16℃です。それが中性子を浴びると急速に遷移温度が上昇し、九電玄海1号機での実測によれば、1年後⇒35℃、5年後⇒37℃、18年後⇒56℃、34年後⇒98℃でした。
 
 使用可能限度は業界基準で93℃なので34年後(2009年)で限度を大きく超えていますが、九電は試験片の位置が燃料により近いため実際の缶体はまだ大丈夫だと言うのみで、詳細については40年目の高経年化評価時にデータを公表するとして明らかにしていません。
 なお遷移温度が上昇するということは、緊急冷却で急激に温度を下げた場合、遷移温度に到達すると原子炉圧力容器が壊れる可能性があるいうことなので、何故93℃までなら支障がないのかも不明です。
 
 以下に小出ジャーナルの記事を紹介します。原文では「小出さん」となっていますが、ここでは「さん」は省略しました。
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原発運転40年ルールについて「正確な科学的な根拠というのはもとからなかったし、今でもないのです」
第141回小出裕章ジャーナル 2015年09月19日
谷岡理香: 原発の運転に関して、原則40年とするルールが見直される動きが出てきました。自民党の原発推進派議員で作っています電力安定供給推進議員連盟っていうのですが、この議員連盟が、原則40年の原発運転期間が妥当なのかどうか。再検討すること等を求める提言案をまとめました。理由がですね、運転期間の化学的な根拠が不透明、不明確だからということなですがどうなんでしょうか? 今日は、この原発運転40年のルールについて、小出さんに伺います。
    小出さん、宜しくお願い致します。
小 出 : よろしくお願いします。
谷 岡 : 早速ですが、この原発運転40年ルールの見直しを小出さんはどう受け止めておられますか?
小 出 : はい。もともと原子力発電所の原子炉が何年間使えるものなのか、実は科学的にはわからないことだったのです。原子力発電所を動かしていくと、原子炉圧力容器という原子炉の中心部分が中性子という放射線を被ばくし続けますので、どんどんどんどん私達、消費者脆化と呼んでいるのですが、脆くなっていってしまうのです。
    皆さんわかって頂けると思いますが、身の周りにある物で、例えば原子力発電所の原子炉もそうですけれども、金属というのは叩いたらへっこんだり、ギュッと曲げれば曲げたりすることができるわけですけれども。ガラスのように、バリンって割れてはしまわない物なんですね。そういう物を私達、延性、延びる性質と呼んでいます。ガラスのような物は脆性、脆い性質というふうに呼んでいるのですが、どんな物でも温度を低くしていくと、もともと延性だった物も脆性に変わってしまうという、そういう性質を持っています。
    原子力発電所の原子炉も含めて、鋼鉄というのは通常の状態であれば、通常の温度であれば、延性という状態なわけですけれども、原子炉が運転されて中性子に被ばくされていくと、どんどんどんどん脆性に近づいていくという、そういう性質を持っていて、常温で脆性になってしまう、ガラスのような状態になってしまうということになるということがわかっていたわけです。
    しかし一体、どれだけ中性子に被ばくをすると常温でガラスになってしまうのかということが、実はわからなかった。原子力発電所をやりながら、実際の原子力発電所を使ってテストをしているという、そういう状態で今日まで来ているわけです。ただ、原子力発電所を運転しようと思った当初は、たぶん40年だろうと思ったのです。
    ですから米国などは、初めから原子力発電所の寿命は40年と決めてずっとやってきました。そして、運転しながら、どこまで脆性に近づいてきたかという事をテストしながらきたわけです。そして米国では、なんとかまだもう少しはいけるだろうというように考えるようになって、40年を超えた原子力発電所もさらに20年間運転を続けてもいいというようなルールをつくって、確かもう10年ぐらい前だと思いますけれども、次々と40年を超えた原子力発電所の運転期間を延長するということをやっていたのです。
    日本の場合は、米国の私は属国と言ってますけれども、米国のやるようにやってきたわけですけれども。でも40年という数字を明確には決めていなかったのです。しかし福島第一原子力発電所の事故を受けて、原子炉等規制法を手直ししまして、原発の運転期間は基本的には40年と記しました。そして1回に限って、20年以内であれば運転延長を認めてもいいというような書き方にしたのです。むしろ、米国がもともとやっていたものに近づけたということになっています。
    たぶん、このまま私は続くと思いますけれども、今後また原子力をすすめるという勢力がどんどん巻き返しを図ってきて、例えば1回に限り、20年以内の延長ができるというような記載をもっと多数回にわたって運転延長ができるというようなことに書き換えるかもしれませんし、「20年以内ではなくて、いや、30年でもいいだろう」というようなそんな話にもなるかもしれないと、私は警戒しています。
    現に、経済産業省が4月に2030年の電源構成で原子力発電所が20%〜22%を占めるというような案をまとめたわけですけれども、それをもし実現しようとするならば、40年で原子力発電所を廃炉にするなんていうことでは到底できませんので、どんどんどんどん運転の延長を認めていくということになるだろうと、私は思います。
谷 岡 : ですけれども、その何となく40年のその見直しの理由として、科学的根拠が不明確っていうのは、小出さんはどういうふうに見ておられますか?
小 出 : はい。要するに、科学的根拠はもともと不明確なのです。
谷 岡 : ですよね。はい。
小 出 : 実際の原子力発電所を使って、どこまで脆くなっていくかということを実験してきているわけで、正確な科学的な根拠というのはもとからなかったし、今でもないのです。だんだんだんだん脆くなっていくという、その脆くなっていく程度を調べながらきてきましたし、これからもそうやっていくことになるわけです。
    ただし、確実に脆くなっていくということだけは確かなのです。ですから、どこまで脆くなれば我慢して運転していいのかということになってしまいますので、それも科学的な判断というよりは、むしろ社会的な判断、あるいは、政治的な判断で決まると思って頂くのがいいと思います。 
谷 岡 : まさに、その最後の政治的判断という言葉が重くこちらにのしかかってきましたが、その科学的じゃないっていうのであれば、まずは、科学的に原発の安全性について議論してもらいたいっていうのが、私達の気持ちですよね?
小 出 : そうですね。当然、原子力発電所がどこまで安全なのか、あるいは危険なのかということは、きちっと科学的に議論をしなければいけなかったのですが、福島第一原子力発電所の事故が起きるまでは、「とにかく原子力発電所だけは安全だ」と国も電力会社も言い続けてきたわけです。
    挙句の果てに、福島第一原子力発電所の事故が起きてしまったわけで、本当であれば科学的な議論をして、その科学的な議論の上に、どこまでなら本当に許容できるのかというような議論までする。そして科学的なテクニカルな議論だけではなくて、原子力というものに手を染めることによって、その他の社会的な問題、あるいは世代間を超えた危険の押し付けの問題とか、倫理的な問題がたくさんあるわけで、そういう問題というものも、この日本という国できちっと本当は考えるべきものだと私は思います。
谷 岡 : はい。小出さん、どうもありがとうございました。
小 出 : はい。ありがとうございました。
谷 岡 : 私達の暮らしや命を実験材料に使われたら、本当にたまったもんではありません。やはり当事者として声を挙げていかなければって思いますね。
    小出裕章ジャーナルでした。