工学倫理の武田邦彦教授による「原発の『安全神話』が間違いだった理由」シリーズは、第2弾として「多重防御の欠如」を取り上げました。
第1弾では、原子炉は固有安全性(=自己安定性)を持たないいわば暴走型原子炉であったということでした。
第2弾は、多重防御になっていなかったという話です。
多重防御で思い出されるのは、原子炉の核燃料は「5重の壁」で守られていて、万一の事故があっても放射能が外界に漏れ出ることはないという宣伝で、ある東大教授は原発の深刻事故は1億年に1回しか起こらないと豪語していました。
5重の壁とは、燃料ペレット(ウランを数mmの円筒形ガラス状に焼成したもの)、燃料被覆管(ジルコニウム製金属管)、原子炉圧力容器、原子炉格納容器、原子炉建屋のことですが、福島の事故ではホンの数時間で核燃料が溶融し圧力容器の下部から溶け出し、建屋の下部は地震により、建屋の上部は水素爆発やその他の爆発によって一瞬の内に破壊されました。いわば極めて脆弱な壁であったわけです。
では規制委の認可のもとに再稼動される原発の安全性はどうなのでしょう。
原子炉に固有安全性はありません。全く従来どおりです。5層の深層防護といわれる最新の防護策も取られていません。第4層の格納容器損傷防止+放射能大量放出の防止策もとられていない従来のままの格納容器ですし、第5層の住民避難策に至っては規制委は全く関与せずに放置しているという有様です。
結局これまでどおりの安全神話(=どうせ深刻な大事故は起きない)が継続された状態で再稼動に移るわけです。
今回もブログの冒頭に多重防御の内容を簡単に図解したものが載っています。
コピーが出来ないので原記事を参照して下さい。
(いつものように音声ブログがついています)
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原発の「安全神話」が間違いだった理由(2) 多重防御の欠如
武田邦彦 2015年09月25日
音声ブログのURL ↓
第一回目は「固有安全性の欠如」という整理をしましたが、政治的には「国民が納得してくれれば良い」ということで「堤防を高くすることで原発は安全になる」という考え方で再開をしていますが、技術的には「これまで原発が安全だとされたことが正しかったのか?」という見方が必要です。
第二回目は「多重防御(時に深層防御と言うことがあるが、概念が二つ含まれているので注意)」です。多重防御とは、1)どれか一つの機械が壊れても、予備の機械で全体が正常に動くようにする(例:主電源、予備電源、非常用ディーゼル発電機、バッテリー)、2)一つの安全が敗れてもそれが大きな事故にならないようにする(例:原子炉から放射性物質が漏れても直接、大気に出ないようにする)、というもので、「種類と深さ」と言うことになります。
福島原発事故が起こってみると、確かに電源は4つありましたが、すべてが同じ地下にあり、海水で浸水するとすべて機能しなくなったとか、バッテリーのコードがつながらなくなった(未確認、不詳)などが分かったのです。つまり、表向き「多重防御、深層防御」と言っておいて、実際には電力会社がコストなどの理由から実施していなかったのです。
福島事故が起こってから「現場の作業に必死になって頑張った」と一部に賞賛する人がいますが、このような重要な間違い(ウソとも言える)があったのですから、責任を追及するべきですし、また技術サイドは「なぜ、言っていたことと実際の安全状態が異なっていたのか」を調べる必要があります。
私も昔から「非常用電源は原発から2キロほど離れた高台にある。原発が損傷しても電気の供給は続く」と説明されていて、それが「ウソかも知れない」と思って設計図を調べたこともありませんでした。
ちょうど今、フォルクスワーゲンの排ガスのウソが報じられていますが、アメリカの大学が実際に走っている車の排ガスを調べて分かったことで、一般人はカタログとか公的な試験結果、あるいは大きな会社の場合はカタログに正しいことが書いてあると思わないと車も買うことができません。
福島原発事故で明らかになったのは、電源だけではなく、炉内に強い放射性物質がたまって圧力が上がったとき、「そのまま大気に放出するしかない」という構造になっていました。また取水口には予備がなく、テロの工作員が取水口をふさいだらそれで終わりという設計です。さらには東海第二原発では地震の時に原発の運転はしていないので、堤防に工事のための穴を開けていてそこから海水が浸入して原子炉は爆発寸前まで行きました。
東海第二の例などは事故後、ほとんど報道もされないという状態で、設備も保守や運転方法も、「原発は安全である」という説明と全く違っていましたし、再開に当たっても改善されていません。「固有安全性」と「多重防御」という原発の安全性の基本中の基本が、1)どのような状態だったのか、2)どうして事実と反する説明がされていたのか、3)どのようなことが起こったのか、4)改善はどうするのか、が闇の中で再開されようとしています。
このようなことが原発賛成派、反対派の感情的な対立を生んでいます。どんな技術でもそうですが、技術サイドが誠実でないと、一般人をごまかすことが簡単ですが、それは原発の推進にはならないということを技術者が分かっていなければなりません。
また、技術者は経営者の命令に従うのではなく、技術として守るべきことを崩さないというのが「専門家」というものです。医師が金が儲かると言って、不必要に高い薬や検査をするのと同じになります。主として文化系、経済の人は原発再開と言っていますが、実はまだ、原発は再開できるような技術的な議論はされていないのです。 (執筆 平成27年9月25日)