2016年11月3日木曜日

03- 「原発再稼働」はもう諦めるべき 新潟県知事選で明確に

  脱原発を単一争点とした新潟知事選結果の総括についてはこれまでも関連する記事を紹介して来ました。
 知事選で示された新潟県民の判断は、柏崎刈羽原発ひとつの動向にとどまらず国の原発政策にも影響を与えているといわれているので、重なる部分はあるにしても見つかったものは出来るだけ収録したいと思います。
 
 現代ビジネスの記事:「原発再稼働はもう諦めよ! 新潟県知事選でハッキリしたこと」を紹介します。
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「原発再稼働」はもう諦めよ! 新潟県知事選でハッキリしたこと
いつまでその場しのぎを続けるの? 
現代ビジネス 2016年11月02日
週刊現代 11月5日号  
「政府の避難計画は絵に描いた餅だ。いや餅にもなっていない、米だ」
そう唱えた候補が選挙で勝った。福島の事故以来、政府や電力会社に国民が抱えてきた違和感と怒りは、もう抑えられない。
 
総理が電話したのに負けた
新潟県知事選を制した米山隆一氏が言う。
「今回の選挙では、柏崎刈羽原発の再稼働に反対する県民のみなさんの気持ちがハッキリと現れたのだと思います。しかもみなさんの思いは、決して『原発恐怖症』のような、極端なものでない
我々が不安に感じているのは、安倍政権が福島第一原発の事故原因をキチンと調査しないまま、『惰性』で再稼働に向かっているように見えること。だからこそ新潟では、県民の6割超が柏崎刈羽原発の再稼働に反対しているのです」
 
巨大な白い軀体を持ち、世界最大821万kWの発電量を有する東京電力・柏崎刈羽原発。これを動かすか、動かさないか――その一点で争った選挙に勝ったのは、共産党、社民党などの推薦を受け、再稼働に慎重な姿勢を示す医師の米山隆一氏だった。
約52万8000票を獲得し、自民党推薦の森民夫前長岡市長に6万票以上の大差をつけた。
新潟県民は、政府与党と経済産業省、そして電力会社が進める「惰性」のような原発再稼働政策に、強烈なNOを突きつけた形だが、この県民の判断は、柏崎刈羽原発というひとつの原発の動向にとどまらず、国の原発政策にも影響を与え始めている
 
そもそも今回の選挙は、原発再稼働を目指す自民党にとって、「決して負けることが許されない戦い」だった。自民党のベテラン議員が言う。
「今年の7月、現在稼働中の川内原発を抱える鹿児島県知事選で、原発停止を求める三反園訓氏が当選しています。原発立地自治体で連続して再稼働推進派の候補が負ければ、政府の原発政策の根本が揺らぎかねません。
とはいえ、当初の予想では自民党が有利と見られていました。米山氏は過去に出た4度の国政選挙ですべて負けているうえ、今回の選挙戦への出馬表明も告示の直前。準備の時間もそれほどなかったですから」
自民党にとっては「余裕の戦い」のはずだった。しかし、その甘い予想は裏切られることになる。ベテラン議員が続ける。
「告示の日に自民党新潟県連が調査を行うと両者は拮抗していたのです。まさかの事態に党内には衝撃が走りました。予想以上に県民の原発への反発が強かったということ。
自民党は慌てて、まるで『総力戦』のように知事選に注力しました。二階(俊博幹事長)さんが自ら新潟に入り、観光業界の会合など県内を11ヵ所も回った。あまりに予定を詰め込んだために電車に乗り遅れそうになる場面もあったほどです。
安倍総理自身も、直々に現地の県議や市議に電話をかけ、『なんとか頑張ってほしい』と発破をかけたらしい」
 
自民党支持者も原発反対
きわめつけに二階氏は、「禁じ手」とも言える、安倍総理と現職の新潟県知事・泉田裕彦氏との会談をセッティングした。
「泉田さんは柏崎刈羽原発の再稼働に反対し続けてきており、ずっと政府と反目する関係にありました。しかし、二階さんは、その『泉田票』を自陣営に取り込もうと会談を設定したのです。
そもそも、総理が自治体の選挙に関わることが異例中の異例。前回の都知事選ですら安倍さんは自民党公認の増田寛也候補の応援には立たなかった。しかも今回は、もともと意見を異にする相手。のちのち安倍総理が批判されるリスクも大きい。
二階さんは『ヘッドスライディングで滑り込みでもいいから勝ちたい』と言っていましたが、それだけ新潟を落としたくなかったということです」(前出・ベテラン議員)
 
安倍総理は投開票日の16日、東京10区の補選(23日投開票)の応援演説をわずか40分ほどで切り上げて帰った。新潟県知事選の結果をいち早く確認するためだった。だが新潟県民は、政府・与党の方針に明確に反対を表明した。
米山氏の応援に入った新潟県議会議員の高倉栄氏は、「空気の変化」を肌で感じたという。
「選挙中、米山さんへの支持が急速に広がっていくのがわかりました。告示後2週目から、メディアで見た米山さんの声を実際に聞きたいと、街頭に多くの方が集まってくれた。
しかも動員ではなく、新聞を読んで、若い人や小さな子供を連れたお母さんたちが演説を聞きに来てくれるのです。柏崎刈羽に真摯に向き合う気運が高まっていることは明らかです」
 
今回の選挙で特徴的だったのは、無党派層はもちろんのこと、自民党の支持層までもが米山氏に投票したことだ。その背景を、元経産官僚の古賀茂明氏はこう解説する。
「出口調査を見ると、自民党支持者のなんと約3割が米山氏に流れています。もはや自民党の支持者からも再稼働反対票が投じられている状況です。
米山さんが明確に『このままでは原発再稼働を認められない』と訴え、自民党支持者のなかの脱原発派の受け皿になれたからにほかならない。
これには民進党の動きが影響しました。今回、民進党は支持母体である連合(電力総連を抱える)に配慮し、『自主投票』としましたが、もし同党が推薦していたら、米山氏はここまで明確に再稼働反対を主張できなかったでしょう」
 
原発推進では選挙に勝てない
国民はもう誰も原発を望んでいない――選挙結果を受けて、ほかの自治体でもこうした感覚が広がっている。川勝平太静岡県知事は投開票日の翌17日の定例記者会見で、
「(鹿児島と新潟で)脱原発派の勝利が2回続いています。政府はいま、原発政策について見直しを迫られている状況。おそらく、来年の夏にある静岡県知事選でも、浜岡原発が争点となると思う」
と述べた。
小泉純一郎元総理も、18日に松本市で行った講演で、
「(新潟県知事選は)予想外の番狂わせでしたね。原発が危ない、安全でないと、国民が分かって来たのではないでしょうか。次回の衆院選で野党が統一候補を立て、『原発ゼロ』を争点とした場合には、自民党もどうなるかわかりませんよ」
と述べている。
 
実際、原発推進を掲げると選挙に勝てないという危惧は、すでに一部の自民党の国会議員にさえ共有されつつある。
「ある原発立地自治体選出の議員は、『原発推進派と見なされれば、地元の県議、市議も離れていく。選挙のときには原発を争点にしない、自分の態度を隠すといった努力をしないと負けてしまう。そんな既定路線ができてしまった』と嘆いていました」(前出・ベテラン議員)
現実的に考えれば、政府・与党も経産省も、そして電力会社も、原発再稼働を諦めるべきなのは間違いない。
しかし、政府中枢はまだまだその「覚悟」ができていないようだ。菅義偉官房長官は、新潟県知事選を受けて、
「安全最優先のなか、地元の理解を得て原発の再稼働を進めていく考え方に変わりはありません」
と述べた。「一度進みだしたものは止まらない」とばかりに、相も変わらず現在も原発再稼働の道を探っている。
 
だが一方で皮肉なことに、彼らが原発を進めようとすればするほど、逆に原発政策の「無駄」「コスト」「リスク」が浮き彫りになっていく。
その筆頭が高速増殖炉「もんじゅ」である。
今年9月、政府は、原発政策の核にあった「もんじゅ」の廃炉を検討し始めた。元東芝の原子炉技術者・後藤政志氏が言う。
「もんじゅは、発電に用いた以上の燃料を生み出す『夢の原子炉』として核燃料サイクルの中心に位置づけられ、'60年代に研究が始まりました。これまで約1兆2000億円もの血税が投入されてきましたが、結局、稼働したのはわずか250日ほどにすぎません。
ずいぶん前から失敗は明らかでしたが、再稼働に約6000億円がかかるという試算が出て、政府も廃炉を検討し始めたということだったのでしょう。青森・六ヶ所村の再処理工場とともに、完全に絵に描いた餅に終わってしまいました
 
福島の廃炉費用は5兆円
しかし、政府はこの期に及んで、もんじゅの「再利用」を目論んでいるというから驚きだ。しかもそのリスクは大きい。後藤氏が続ける。
「いま政府は、もんじゅを廃炉にするかわり、その運営主体だった日本原子力研究開発機構に、フランスと共同で『高速炉』を研究する計画案を出そうとしています。
高速炉は、高速増殖炉とは使用する燃料が異なりますが、高速増殖炉と同様、冷却材にナトリウムを使っています。ナトリウムは扱いが非常に難しく、もんじゅでは'95年に発火事故が起きている。結局リスクの大きな技術。決してこれを認めさせてはいけません
 
また、政府が行う「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」「東京電力改革・1F問題委員会」などではいま、原発事故の巨大なコスト、そしてそれが国民に与える負担があらためて明らかになりつつある。原発のコスト計算に詳しい立命館大学の大島堅一教授が言う。
「こうした会議で話し合われているのは東京電力の救済策です。福島第一原子力発電所の廃炉費用は表向き約2兆円と見積もられていましたが、具体的に廃炉費用を計算すると、4兆~5兆円に膨れ上がる可能性がある。これでは東電が債務超過になってしまいます
そこでいま政府は、東電が、他社が送電線を使う際に徴収している『託送料金』を廃炉費用の資金源にできないかと企んでいるのです。これは最終的には国民が負担することになる。国が進めてきた原発政策のツケを、国民が払うことになりかねないのです」
振り返れば、'11年の福島第一原発の事故以降、政府は原発政策を根本的には議論せず、その場しのぎの弥縫策でやりすごしてきた。
 
原発を描いた『神の火』などの著作がある作家の髙村薫氏が言う。
「原発政策は合理性を欠いています。たとえば現在、経産省の長期エネルギー需給見通しでは、2030年に原子力発電が全体の発電量に占める割合は約20%になるとしていますが、この数字に信憑性があるとは思えません。いまの日本では新しい原発をつくることはできない。
しかも運転開始から40年を迎えた原発は廃炉にしていかなければならず、今後10年間で40年を超える原発は15基にのぼる。それで20%を目指すのはきわめて難しいと思います。こうした基本的な政策すら現実感を欠いているのです。
結局、政治家、有権者を含めて、原子力政策を真剣に考えていないということ。本来なら、自民党のエネルギー政策を白紙にしなくてはならない。必要なのは、すべてを一から見直すことです」
 
再稼働は諦める――原子力ムラの選択は「この道しかない」。
「週刊現代」2016年11月5日号より