原発避難いじめ「氷山の一角」 大人の偏見、子に影響
東京新聞 2016年11月22日
東京電力福島第一原発事故で福島県から自主避難した子どもが横浜市立小学校で数年間にわたり、いじめを受けていた問題が波紋を広げている。東京都内に自主避難する複数の母親が本紙の取材に応じ、子どもがいじめに遭った経験を打ち明けた。避難者団体にも同様な訴えがあり、親たちからは「横浜の問題は氷山の一角」との声も聞かれる。(中山高志)
二〇一四年夏ごろ、福島県いわき市から一家で自主避難した女性(46)は、当時小学生だった長男の胸元に、同級生に蹴られたという靴跡を見つけた。訳を聞くと長男は「『東京にただで住んでいるのか』って言われるのツラいよね」とつぶやいた。
住居は、原発事故の避難者を対象に、福島県が家賃を負担している「みなし仮設住宅」。放射能への不安から、仕事などこれまでの生活を断ち切り避難した一家にとって、無償の住宅は命綱に等しい。理不尽さを感じつつ、女性にできたのは、息子を抱き締めてやることだけだった。
横浜市のケースでも、「賠償をもらっているだろう」と同級生からゲームで遊ぶお金を負担させられた。「賠償や自主避難の意味が、大人にも子どもにも分かってもらえていない」。女性は悲痛な表情で語る。
いわき市から自主避難した別の一家は、小学生の長女、長男が感情的に不安定になったため、いったん転入させた小学校から学区外の学校に転校させた。
四十代の母親が長女から「ママ、学校を代えてくれてありがとう」といじめ被害を打ち明けられたのは、転校から数年後だった。「○○ちゃんって、中学生になれば死ぬんじゃない」「放射能を浴びたから長くは生きられない」などの陰口を言われていたという。中学生になった長女は最近、母親の財布から現金を持ち出した。同級生から「避難者でお金に困っている」と思われたくなくて、友人にお菓子などを配っていたという。
長男は実際、前の学校で「貧乏人だから帽子を取った」と同級生から言い掛かりをつけられた。
各地の避難者らでつくる「ひなん生活をまもる会」が、横浜のいじめが発覚した後の十六日、メールを通じいじめ被害について会員に尋ねたところ「いじめと縁を切るため転校したいと言っている」「金を取られた」などの訴えが、五件寄せられている。代表の鴨下祐也さん(48)は「周囲が傍観者にならず支えてほしい」と訴える。
◆正しい認識持って
避難した子どもの心のケアをしている福島大の本多環(ほんだたまき)特任教授(教育学)の話 福島から避難した子どもがいじめられる例は全国的にあり、過去には「おまえが給食当番をやると放射能が入る」と言われたなどの相談があった。いじめが起きるのは、放射能について大人が正しい認識を持っていないから。大人が持つ偏見が、子どもにも影響している。福島の子だからといって特別な配慮は必要ないが、学校などでは差別的言動をその都度注意し、困っている子に手を差し伸べることが大切だと思う。