東電、賠償費用の転嫁に強まる異論 原発事故前の費用「過去分」として徴収
東電委委員長「納得できないかもしれないが…」
産経新聞 2016年12月14日
福島第1原発事故(1F)の賠償費用を電気託送料金に転嫁する経済産業省の方針に異論が強まっている。事故前に集めるべき費用を「過去分」と定義し、事後に徴収する今回の理屈は唐突で理解が得にくいためだ。経産省は20日の「東京電力改革・1F問題委員会」で正式決定する見通しだが、国民負担に直結する内容を、2カ月超の短期決戦で強引に結論づけることには批判の声も上がる。
14日の委員会終了後に会見した伊藤邦雄委員長(一橋大大学院特任教授)は「理屈上は納得できないかもしれないが、(福島第1原発事故という)国難を国民全体の理解をもって解決していくことが大切だと思う」と述べ、過去分の国民負担に対し理解を求めた。
経産省は福島第1原発の事故処理費用が想定以上に膨らんだことから、大手電力に加え新電力にも新たな負担を求める方針を示している。ただ、制度上の不備で2兆4千億円の積み立て不足が生じたとして事後に徴収する理屈は、商品原価に入れ忘れた費用を、販売後の客に追加請求するのと実質的に変わらない。
経産省は上乗せ額を40年間で回収した場合、標準的な使用量の家庭で毎月18円程度の負担増に相当すると説明する。電気料金の値上げは防ぐ方針だが、値下げの原資の“先食い”は否めない。ある新電力幹部は「金額の多寡は関係がない。国は負担増を決める前に、当事者にきちんと説明すべきだ」と批判する。
また「今回の数字では収まらないのではないか」(自民党の河野太郎衆院議員)と負担の拡大についても懸念が根強い。経産省は今回の上乗せ額が上限だと明記せざるを得なかった。
委員会では序盤から、事故処理費用や国民負担の規模を早期に提示するよう求める声が出ていた。にもかかわらず、経産省が22兆円という総額を示したのは、議論が大詰めに差し掛かった前回会合の9日だった。
世耕弘成経産相は「国民、消費者の納得は重要な要素だ」と強調したが「結論ありき」の議論が国民を置き去りにしたとのそしりは免れない。(古川有希)