原発事故で福島県から横浜市に自主避難した男子生徒がいじめを受けていたのに、学校や市教育委員会が適切に対応していなかったことが11月に発覚した問題は全国から注目され、以降はそれなりに学校と市教委の対処は進んでいる筈ですが、被害者とその家族の学校と市教委に対する憤りはまだ収まっていません。何故なのでしょうか。
「年の瀬 記者ノート」として、産経新聞が「原発避難者いじめ」の問題を取り上げました。
産経新聞はこの問題に精力的に取り組んでいて、文中にもありますが連日報じてきたと言うことです。記者の思い入れも強いようで、11月25日には「義憤の報道?」もしています。
産経新聞の記事を紹介します。
(関係記事)
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原発避難いじめ…「いままでなんかいも死のうとおもった
…でもぼくはいきる」 その「思い」、大人は守れるか?
産経新聞 2016年12月26日
東京電力福島第1原発事故で福島県から横浜市に自主避難した同市立中学1年の男子生徒がいじめを受けていたのに、学校や市教育委員会が適切に対応していなかったことが11月に発覚した問題。本来、校長や市教委などとの話し合いの中で解決できればと願っていた本人と両親の思いは何度も裏切られ、最終的にメディアを通じて訴えざるを得なかったことが、全国的な反響につながった。
男子生徒は、小学2年で市内に家族で移った後、すぐにいじめが始まり、その後、不登校、復学、さらにいじめ、と続き、男子生徒が心安らかに学校に通える貴重な時間は失われた。
両親は、学校や市教委に何度も掛け合ったが、なかなか動かず、問題を根深いものにしてしまった。代理人弁護士らから説明を受ければ受けるほど、初期段階で解決策を見いだせなかったのか、疑問を抱かずにはいられなかった。
両親の要請で生徒のいじめを調査した市教委の第三者委員会が11月に、学校側の対応を「教育の放棄」と断罪する報告書をとりまとめたことで、男子生徒、保護者にとってようやく一つの区切りを迎えることとなった。
しかし、この報告書の「いじめの経緯」を市教委がなかなか公表しようとしない。男子生徒らが代理人を通じて、メディアに訴えたのは、それが理由だった。
◆直接の取材困難
「いままでなんかいも死のうとおもった。でもしんさいでいっぱい死んだからつらいけどぼくはいきるときめた」
男子生徒は、平成26年に友人に現金で総額約150万円を渡すことになった際の自身の思いを27年7月に手記にまとめ、今後、同じような思いをする人がでないよう、代理人を通じて公開した。ノートに直筆で書かれたメッセージは、胸を打つものがあった。
後日、新潟市で発覚した、同じく福島県からの自主避難者のいじめ事案では担任教諭が謝罪したのに、男子生徒側には謝罪がないということにも「新がたのいじめをテレビで見たけど、あっちは学校の先生があやまっているけど、どうしてこっちはあやまってくれない」と学校に対する不信感を拭えずにいた。
今夏に発生した、「津久井やまゆり園」での殺傷事件も被害者の実名報道ができず、家族などへの接触も困難を極めた。今回のいじめ問題も、代理人などを通じて情報は入るものの、直接、本人や加害者側には接触しにくく、「本当の思い」に肉薄することはかなわず、連日報じながらも、なかなか実感がわかない面があったのも事実だ。
◆子供の味方に
代理人の黒沢知弘弁護士は横浜市教委の対応について、「弁護士の介入があってなお、重大事案にしない、というのは、危機管理の感度が低いといわざるを得ない。他都市の市教委と比べても、表に出そうとしない体質が強いという印象」と話す。
今回、林文子横浜市長が、学校長やスクールソーシャルワーカーらを集め、聞き取り調査を実施するなどの踏み込んだ対応をする中で、林市長は、スクールソーシャルワーカーの増員や適正配置などを検討するとしたが、スクールソーシャルワーカーが本当に子供の味方になれるかどうかも重要だ。
黒沢弁護士も「スクールソーシャルワーカーに関しては、学校ぐるみの隠蔽(いんぺい)を防ぐためにも外部の人間が入り、学校内を常に見て回って、子供のSOSを敏感にキャッチできる人を置かなければ意味がない。対応は当該学校の外部の人間であれば、教育経験のあるボランティアでも良いのではないか」と指摘する。
長期間、問題を放置した学校や市教委の対応の検証や、今後同じような事態を繰り返さないための議論はこれからとなる。
男子生徒が公開した手記に書かれていた「ぼくはいきる」という前向きな思いを、今度こそ、周りの大人が本気で守ることができるか。そして、再発防止に向け、市や市教委、学校現場が本気で対応するような体制にできるか。
今後も取材を通して、しっかり見守っていきたい。(那須慎一)
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いじめ再発防止検討委員会
原発避難いじめ問題で、横浜市教育委員会が学校や市教委の対応を検証するために設置し、12月15日に第1回会合を開催した。検討委は、市教委の教育次長をトップに、市教委事務局の部課長級ら10人のほか、市の担当者らも参加。今後、関係部局や外部有識者の意見をまとめ、林文子市長が主催する「総合教育会議」を開催し、来年3月中に再発防止策をまとめる方針。