2017年5月20日土曜日

20福島山林火災 放射性物質流出は「ない」と林野庁 しかし・・・

 林野庁は18日、17~182日間、福島県浪江、双葉両町で発生した山林火災の現地調査を行った結果、一帯の空間放射線量は毎時08~12マイクロシーベルトで、周囲と変化はなかったと発表しました。放射性セシウムは土壌に吸着するため流出の恐れはないと判断したということです(河北新報)
 
 周囲とは具体的にどの範囲のことで、そこの数値がどうであったのかが明らかでありませんし、たった2日間の調査で放射能物質の流出がないと結論づけるのは乱暴です。
 火災中は風が強かったということなので、調査の範囲を超えたところを汚染した可能性もあります。
 また空間放射線量毎時08~12マイクロシーベルト(=年間被曝量 7.0~10.5mシーベルト)と、通常の空間放射線量の0.05マイクロシーベルト/時 をはるかに上回る地域での増減を調査したようなので、火災による増加が吸収された可能性もあります。
 いずれにしてもこの調査結果を、森林火災によって放射能汚染が広がったという指摘を「デマ」とする論拠にしようとするのは間違っています。
 
 原子力及び放射線問題に詳しい武田邦彦教授は、森林火災で放射能汚染が拡散するのは自明のことで、その指摘を「デマ」だと呼ぶことの方こそが「デマ」だと述べています
※ 5月16日  福島の山林火災で汚染は広がったか音声ブログ 武田邦彦教授
動画 URL :https://youtu.be/J8JzXIer_IE
 
 またグリーンピースの鈴木かずえ氏は報文:「山火事と放射能 - チェルノブイリの学び」の中で、「59日に福島県が発表したデータでは、周辺の大気浮遊じん(ダスト)の測定結果が、58日に、急にそれまでの3倍から9倍程度に上昇」していると述べています。
 そして自分たちはまだ火災の影響についての調査をしていないので・・・と控え目ながら、
放射能の拡散は火災の激しさや風の強弱、向きなど条件に左右され、チェルノブイリ周辺での森林火災では放出された放射性物質が上層の大気に入り、長距離を移動する可能性がある
・セシウムは沸点が低いため土壌中に固定されていても、森林火災中に一部が揮発し、煙に混入して運ばれる
・汚染された森林が燃えると、吸入可能な微粒子の形でストロンチウム、セシウム、プルトニウムが放出されるのでストロンチウム、プルトニウムの調査も必要
などと説得力のある報告をしています。
 
 文中、「予防原則に則って対応を」という項目がありますが、それこそは日本の政府において最も欠如しているもので、「予防原則」についてのウィキペディアにおける説明は下記の通りです。
予防原則
 1992年の環境と開発に関する国際連合会議(UNCED)リオデジャネイロ宣言の第15原則には以下のようにまとめられた。
原則15 環境を防御するため各国はその能力に応じて予防的取組を広く講じなければならない。
 重大あるいは取り返しのつかない損害の恐れがあるところでは、十分な科学的確実性がないことを、環境悪化を防ぐ費用対効果の高い対策を引き伸ばす理由にしてはならない」  (ウィキペディア)
 
 報文:「山火事と放射能 - チェルノブイリの学び」と河北新報の記事を紹介します。
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山火事と放射能 - チェルノブイリの学び
鈴木かずえ グリーンピース 2017年5月12日
森林火災と放射能
福島県浪江町で山火事が起きました。火事は4月29日から1週間以上続きました。
浪江町はホームページで「5月10日15時5分に鎮火となりました」と伝えています。
50ヘクタール余りが焼けたといいます。
グリーンピース・ジャパンにも、「火事で放射能が拡散するなどしていないのか」などのお問い合わせをいただきました。
残念ながら、グリーンピースでは、現時点で現地調査を行なっておらず、火事で放射能が周辺まで拡散しているのか、いないのかわかりません。
 
福島県はホームページで、5月11日に更新するまで「火災現場周辺の環境モニタリングおいても火災の発生前後で空間線量率に変動はなく、林野庁による過去の山火事調査の結果においても、鎮火後に森林から生活圏へ放射性物質が流出する危険性は極めて低いとされており、現在、周辺環境に影響が及んでいる事実は一切ありません」としていました。
 
「一切ありません」と言い切ってよかったのでしょうか。
5月9日に福島県が発表したデータでは、周辺の大気浮遊じん(ダスト)の測定結果が、5月8日に、急にそれまでの3倍から9倍程度に上昇しています。
データ表あり。非添付
 
チェルノブイリ周辺でも頻繁に森林火災
チェルノブイリ原発事故の影響を受けたブリャンスク(ロシア)では、毎年のように森林火災があり、2016年、グリーンピースは消防ユニットを編成して現地の緊急事態省と協力して住民への消火訓練、防火教育にあたりました。
 
放射能の拡散は火災の激しさ、天候に左右される
どれだけの量か、また、どれだけ遠くに拡散するか、はともかく、放射能が含まれたものが燃えれば、放射性物質は煙などに移動します。
放射能の拡散は火災の激しさや風の強弱、向きなど条件に左右されます。チェルノブイリ周辺での森林火災について、放出された放射性物質が上層の大気に入り、長距離を移動する可能性もあるという論文があります*。セシウムは沸点が低いため、土壌中に固定されていても、森林火災中に一部が揮発し、煙に混入して運ばれると説明されています*。
また、放射能が土壌微生物などに与える影響で落ち葉の分解速度が鈍化し、そのため落ち葉の堆積量が増え(つまり燃やす燃料が増えた)、森林火災の頻度と激しさが増しているといいます*。
 
ストロンチウム、プルトニウムも調査を
「汚染された森林が燃えると、吸入可能な微粒子の形でストロンチウム、セシウム、プルトニウムが 放出され」*ます
国も火事のあったところで放射性物質の広がりや濃度などを確認する現地調査を行うそうです。上記で公表されている調査はセシウムだけですが、ストロンチウム、プルトニウムの調査も必要です。
 
2012年に国の調査が行なわれた福島県の川内村のスギ林の森林全体の放射性セシウム蓄積量は107 万ベクレル/m2(報告書)。5年たって蓄積量は相当量減少したと思いますが、そうした森の一部が燃えれば放射能が部分的に拡散する可能性は簡単に否定できないのではないでしょうか。
森林火災をどう予防するか、火災による放射能拡散への影響を知るにはどのような調査をすべきなのか...チェルノブイリの経験から学ぶことで、得られることは多くあると思います。
 
予防原則に則って対応を
ウクライナ出身の同僚は言っていました。
「ウクライナにとっては初めての核惨事だったために対策が遅れ、避けられたはずの被ばくをしてしまった。でも、あなた方にはチェルノブイリという先例がある。もっと住民を守れるはず」
実際に起きるかどうか現状ではわからないけれど、起きてしまったら元に戻すことができない、深刻な影響があることには、慎重に「予防原則」に則って対応することを求めます
 
 
福島県浪江山林火災 放射性物質流出「ない」
河北新報 2017年5月19日  
 林野庁は18日、福島県浪江、双葉両町で発生した山林火災の現地調査の結果概要を明らかにした。一帯の空間放射線量は毎時08~12マイクロシーベルトで、周囲と変化はなかった。放射性セシウムは土壌に吸着するため、流出の恐れはないと判断した。
 土砂崩れなど二次災害の発生については「木が広範囲に激しく燃焼したわけではない」と否定的な見解を示した。土壌や樹皮のサンプルを収集しており、放射性物質について、より詳細な調査を進める。
 落雷による出火の可能性が指摘されており、調査メンバーは火元とみられる松も確認。幹の上部が焼けた状態で、地上2メートル程度で折れていたという。
 調査は17、18の両日、環境省などと合同で実施された。