原発から出る高レベル放射性廃棄物の地層処分についての国の政策に「理解」を求めるため行われている説明会で、パネリストの一人が、「自宅の近くに処分場が出来ることに反対」と「最終処分場で大事故が起きる心配がある」人は「知識高」よりも「知識中」の人に多いと説明したことについて、会場から差別発言だとの抗議が出て一時紛糾したということです。
レイバーネットの報告者は、この発言をしたパネリストの母体組織のNPO「パブリック・アウトリーチ」は、様々な問題を抱えたところであるとして、政府がみずからは手を汚さずにそうした御用NPOを先兵にしていることを問題視しています。
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「国策に反対する者はバカで非常識」?~
パネリストの差別暴言でNUMO説明会紛糾
黒鉄 好 レイバーネット 2017年5月29日
「全国の原発から出る高レベル放射性廃棄物の“適正”な処分を推進する」という国・原子力ムラの政策に「理解」を求めるため行われているNUMO(原子力発電環境整備機構)主催の一般向け説明会。筆者も参加した「全国シンポジウム いま改めて考えよう地層処分」と題されたシンポ形式の説明会(5月27日、札幌会場)では、パネリストのひとりから恐るべき「差別暴言」が飛び出し、一時紛糾した。
NUMOは発言を陳謝したが、発言したパネリストは撤回せず、NUMO側は「(問題となった)資料はいったん保留としたい」としたものの、こちらも撤回表明はないまま、逃げるように立ち去った。福島第1原発事故以降、さんざん市民を欺き、ウソ、隠蔽、ごまかし、はぐらかし、脱原発を求める市民への誹謗中傷の限りを尽くしてきた原子力ムラのことだ。資料が「保留」となることで、このままこの許しがたい差別暴言がなかったことにされる恐れがある。誰かがこの事実を告発しなければならない。
前置きが長くなったが、発言はパネリストのひとりで、科学技術についての “対話” “情報提供” を目的としているNPO法人「パブリック・アウトリーチ」理事の木村浩から飛び出した。論より証拠だ。問題となった資料をご覧いただこう。
●資料「高レベル放射性廃棄物処分に関する人びとの意識」全体版(PDF)
●問題となった部分(4ページより抜粋)
資料は、2014年に原子力文化財団が実施した調査結果をまとめたものである。原子力を推進する側にとっては確かに興味深い結果を示すものではあろう。木村はこの資料を説明。「自宅近隣に処分場計画されたら反対」の項目で、放射性廃棄物の処分に対する知識量が「高」の人より「中」の人の方に、また「最終処分場で大事故が起きないか心配」の項目で「高」より「中」「低」の人に反対が多かったことをやり玉に挙げ、「知識のない人による誤解が見られる」と発言した。
この発言に会場は一時騒然となった。発言の指名を受けた男性が「国策に反対するだけでこんなことを言われるのか。許せない」と怒りの発言をすると、「そうだ!」というヤジが飛んだ。木村はその後、「誤解があったとすれば申し訳ない。この会場におられる皆さまは社会性の高い方だと思っています」と「釈明」したが、この発言がさらに怒りを呼んだ。後列から、「そういう問題じゃないんだよ!」という声が確かに聞こえた。
筆者は、後方から聞こえたこの声に全面的に同意する。文字通りそういう問題ではない。政府や公的機関が、国の重要政策に関する一般市民向け説明会という公の場で、公然と市民をランク付けし、見下す言動をとること自体が差別なのだという「差別の基本」を、この木村なる人物はまったくわかっていない。
怒りの収まらなかった筆者は、「木村の発言は差別であり、撤回と謝罪を要求する」とアンケート用紙に記載して退場した。解散後も、メディアを相手に怒りを表明する参加者の姿があちこちに見られた。
筆者はNUMOの説明会に過去2回参加し、2回とも指名されている。前回、2016年11月の説明会では、「この説明会をなぜ福島で開催しないのか。事故の最大の被害者である福島県民の中に飛び込みもしないで何が対話活動か」と資源エネルギー庁・NUMO側を質した。これに対する回答は「仙台では開催しており、福島からも多くの方の参加をいただいている。処分地が正式に決まったら改めて福島を含め、各地で説明させていただく」というものであった。
この回答に筆者は納得していないが、再質問を認めない形式でありそれ以上の追及はできなかった。今回の説明会も、全国9会場に福島は含まれておらず、指名を受ければ改めてこの点を質す予定にしていた。原発事故の最大の被害者である福島県民の中に飛び込み、対話し、寄り添う姿勢もなく、「言いたいことがあるなら仙台まで来い」という「対話活動」で、放射性廃棄物の処分に対する国民の理解が得られるとは思わない。
この説明会は、今後、高松(6/3)、仙台(6/4)、名古屋(6/11)、広島(6/17)、大阪(6/18)の5会場が残されている。もしこの記事をお読みの方で、参加予定の方がいるなら、このような不見識極まるパネリストを徹底的に追及してほしい。
そもそも、木村の所属する「パブリック・アウトリーチ」なるNPO法人は福島原発事故後に設立されている。研究員は木村含め2名いるが、驚くことに、もうひとりはあの斑目春樹氏だ。3・11当時、内閣府原子力安全委員長だった斑目氏は事故に対して何ら有効な手が打てないまま、支離滅裂な言動を繰り返し、インターネットを中心に「デタラメハルキ」と呼ばれたことをご記憶の方も多いだろう。現在は、漫画で原子力に関する情報発信を行っている。漫画がすべて悪いなどと言うつもりはないが、事故当時、国の原子力政策の中心にあり、事故の被害を拡大させた最高責任者のひとりでもある斑目氏が採るべき手法でないことは明らかだ。このような人物を「対話と理解活動」の中心に据えていること自体、「御用NPO」の思慮の浅さを物語っている。
パブリック・アウトリーチでは、このほかにも関村直人のような許しがたい原発御用学者が理事を務めている。関村は、東日本大震災発生翌日の2011年3月12日に出演したNHKで、1号機の原発建屋が水素爆発する映像を見た直後、「爆破弁の操作」によるベントであり問題はないという、歴史に残る「迷解説」で御用学者の地位を確固たるものにした人物だ。その後、原発メーカー・電力関連企業から学者への献金としては最高額となる研究費、計3277万円を受領していたことも判明。献金していたのは三菱重工業と電力関係団体の電力中央研究所だ。学者として最高額の献金を受け取った御用学者が、支離滅裂の珍解説をしてまで原子力ムラを必死に擁護しようとしていたことを、筆者は決して忘れていない。
同時に、今回の木村の発言を聞いて、共謀罪法案の成立を先取りした「非国民あぶり出し」政策がいよいよ始まったことを肌で感じた。政府がみずからは手を汚さず御用NPOを先兵にしていることも、町内会や隣組を使って非国民をあぶり出した戦前を想起させる。人権を蹂躙し、生命を危険にさらす国策に対し「黙らない」「屈しない」「あきらめない」の姿勢が今後はますます重要になるだろう。
(後 略)