2017年5月24日水曜日

米山新潟県知事を日刊ゲンダイが直撃インタビュー

 日刊ゲンダイが、原発の再稼働に安易に同調しない米山新潟県知事を「再稼働阻止の防波堤」と呼んで直撃インタビューをしました。
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注目の人 直撃インタビュー  
原発再稼動阻止の防波堤役 新潟県知事・米山隆一氏を直撃
日刊ゲンダイ  2017年5月22日
「新潟県は国とは別に安全を検証させていただきます」
 昨年10月の新潟県知事選から7カ月。「柏崎刈羽原発」の再稼働に慎重だった泉田裕彦前知事の路線を引き継いだ米山隆一氏は、どこかの知事とは違って、その姿勢に揺らぎがない。東京電力トップとの初面談で「(原発再稼働の議論開始の前提条件である)福島原発事故の検証に数年間はかかる」と明言。県独自での検証を強化するため、4000万円の新年度予算も議会の承認を得た。再稼働を阻む“防波堤役”としての存在感がますます高まっている。
 
■国が責任を持つから事故が起こらないわけではない
――知事に就任して7カ月。この間、世耕弘成経産大臣や東京電力のトップと会って「福島原発事故の検証には3年から4年かかる」と明言。柏崎刈羽原発の再稼働は、今後数年は困難となりました。嫌がらせや圧力はありませんか。
 ないです。県民の民意に沿った正論を言っているので、陳情に行って面会を拒否されたこともない。県の予算が決まると同時に国直轄の予算が決まるのですが、人口相当の予算規模で減ることはありませんでした。
 
――全国的には原発再稼働は加速しています。九州電力の玄海原発の再稼働に対して周辺自治体の首長が「避難計画が不十分ではないか」と反対の声を上げたにもかかわらず、佐賀県の山口祥義知事は4月24日、「国が責任を持つ」という言葉を根拠にして再稼働に同意しました。どう思われたでしょうか。
(国が)責任を持つということと(原発事故が)起こらないということは全く別です。国が責任を持つからといって、原発事故が起こらないわけでも、(原発事故時に住民がきちんと)避難できるわけでもない。安全であるかどうかは、新潟県は(国とは)別個で検証させていただきますし、避難計画に関しても「安全だ」というところまで作り込ませていただきますということに尽きます。避難計画は具体的でないとダメです。訓練をすることで実行できる体制になっていくかどうかも検証していきます。計画を立て試行し問題点を明らかにし、それを計画にフィードバックしていくためには時間がかかります。
 
――原発事故時の避難計画に関しては、選挙中から「バスの運転手の確保ができないのではないか」と訴えていました。この問題は労働関連の法整備が必要だと思いますが、放射能被曝のリスクがある業務に就く人への業務命令をどうするのか、健康被害が出た場合の対応など、国や政党や全国知事会で問題提起されるのでしょうか。
 まさに法整備について問題提起をすることになると思います。ただ単にその問題だけを言っても説得力が足りないと思いますので、(原発事故時の住民避難用バスの運転手確保が困難という)アンケートももちろん避難計画にも反映します。そうすると「この状況では最大何万人しか運べません」「何万人の方々がこのくらいの被曝をする恐れがあります」ということが明らかになる。その上で、「法的な対応をお願いします」と国にも政党にも働きかけ、全国知事会でも働きかけたいと思っています。
 
 柏崎刈羽原発の立地場所は地震の揺れが大きくなる軟弱地盤。しかも米山知事は福島原発事故の原因として「地震説」を排除しておらず(東電や経産省は「津波説」を主張)、新潟県が東電のさらなるデータ提示で検証を進めた結果、「地震説が有力」との結論になることも十分考えられる。その場合、津波説が前提の今の対策では不十分で、新たな配管補強などで莫大な費用が必要になり、再稼働は極めて困難となる可能性が高まる。
 
――福島原発事故原因の検証を進める中で、いまだに地震説か津波説かで見解が割れています。今の時点で、感触はどうなのでしょうか。
(どちらの説が有力かの)その感触はなくもないのですが、「専門知識を有する人が答えを出す」というのが正しいと思います。専門家の事実認定を尊重した上で、そこから先の価値判断を政治家がやるべきだと思っています。3、4年の福島原発事故の検証の中で結論が出ると思います。
 
――東電は「検証に協力する」と明言していますが、以前に比べてデータを積極的に出してきた実感はお持ちでしょうか。
 今のところはありません。いま話題になっている「地層の問題」(柏崎刈羽原発の敷地内外の断層が活断層と見なされる可能性のある問題)などはきちんと情報を出していただく必要があります。
 
 泉田県政継承を訴えて当選した米山知事は、原発テロ対策の不十分さについての危機感も共有。霞が関官僚が書いたベストセラー小説「原発ホワイトアウト」(2013年9月出版)は、泉田裕彦前知事がモデルの伊豆田清彦知事が原子力ムラの画策で逮捕された直後、原発テロが起きてメルトダウンに至る結末。泉田氏は「リアリティーがある。日本の原発テロ対策が不十分」と警告していた。
 
■テロ対策は市民生活とのバランスが大事
――泉田前知事は「原発テロ対策が不十分だ。テロゲリラがマシンガンで襲ってきたときに警察で対応できるのか。自衛隊との連携が不十分ではないか」と言っていたのですが、泉田前知事の考えと現状については?
 事実としてはおっしゃるとおりだと思います。私も柏崎刈羽原発に行ってきましたが、相当程度の方々(テロリスト)が突っ込んできたら、どうにもならないと思います。原発は、襲われていろいろなことがテロリストの思いどおりになった場合に、極めて大きなリスクを出す機関ですから、非常にその対策というのは必要なのだと思います。(テロ対策のために)鉄壁の守りみたいなものをしていくと、警察国家になってしまうと言いますか、市民生活とのバランスが大事なので、いろいろなバランスの中で決めていくことなのかと思います。
 
――原発テロ対策強化を十分にしないまま、安倍晋三首相は「テロ防止には共謀罪が必要で、五輪開催には不可欠だ」と言っているのですが、泉田前知事を含めて「共謀罪がテロ対策に必要」といった話を聞いたことがありますか。
 特段、泉田さんから聞いたことはありません。「テロ抑止に対して有効かどうか」というよりも、むしろ自由主義社会における言論の自由、思想の自由、行動の自由は尊重されるべきではないかという文脈で、語られるべきだと思います。
 
――元検事の若狭勝衆院議員(自民党)は、いわゆる共謀罪について「今の政府案だと断固反対だ。今の共謀罪は効果が乏しい。やるのなら、テロに特化した、テロ未然防止法を作るべきだ」と言っているのですが。
 個人的意見としては、まず共謀罪という形で(対象の範囲を)漠然としておいて、その対象を決めていくということは、自由社会における市民の自由を過度に制限する可能性は高いと思いますので、そこはよくよく考えるべきだと思います。
 
――「原発が動いていなくても、使用済み核燃料プールがテロの対象になるリスクを抱えている。(空冷式の)乾式貯蔵に変えることもテロのリスクを減らすことになる」と専門家から聞きましたが、これも政府は未着手です。
 乾式貯蔵の方がいろいろな意味でテロに限らず、災害対策に関しても望ましいのは間違いない。明らかにリスクは低い。(国にも)「乾式貯蔵の方が望ましい」という話はしたいと思います。
 
――鹿児島県では川内原発が稼働していますが、バスの運転手が本当に確保できているのか疑問です。三反園訓・鹿児島県知事との意見交換や他の原発立地自治体の首長との連携については、どうお考えでしょうか?
 自然にできていくと思います。全国知事会などで自然に意見交換がなされると思いますので。
 
――米山知事が「『避難計画が不十分だから原発再稼働はできない』と突っぱねることができる」とノウハウや知識や経験を伝えれば、三反園知事もまた、脱原発を望む県民の期待に応えるようになるのではないか。
 もちろん三反園知事が「一緒にやりましょう」と言えば、一緒にやりますし、そこは三反園知事のご判断で決めればいいのかなと思っています。 (聞き手=ジャーナリスト・横田一)
 
▽よねやま・りゅういち 1967年、新潟県湯之谷村(現・魚沼市)生まれ。新潟大教育学部付属長岡中を卒業後、灘高校を経て東大理科3類(医学部)に入学。東大大学院を経て司法試験にも合格。医師と弁護士の活動を続ける一方、国政選挙で4度落選。新潟5区の民進党候補者だった去年10月に離党、新潟県知事選に立候補して初当選。趣味は散歩。特技はバク宙。実家は肉屋。