J-CASTニュース 2017年5月29日
東京電力ホールディングス(HD)の新しい再建計画がまとまった。2017年5月11日、筆頭株主である原子力損害賠償・廃炉等支援機構と連名で「新々・総合特別事業計画」を、経済産業相に認定申請した。福島第1原発事故の対策費用を安定的に確保するため、収益の大幅アップを図り、そのために原発事業の再編などを進める、というものだ。ただ、柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働一つとっても、計画通りに進めるのは容易でなく、机上の空論に終わりかねない。
福島第1原発事故対応の費用が、3年前に再建計画を策定した時点の11兆円から一気に約2倍に膨らみ、従来計画では賄えなくなったことから、練り直しを迫られていた。対応費の総額21兆5000億円のうち東電は15兆9000億円を負担することになり、今後30年にわたって年間5000億円(廃炉3000億円、賠償2000億円)を払う必要がある。
想定と実際の再稼働は「まったく別」」
そのための柱の第1が柏崎刈羽の再稼働で、2019年度以降に順次、再稼働する複数のケースを想定。7基のうち、原子力規制委員会が審査中の6、7号機をまず動かし、残りも段階的に稼働させ、10年間、毎年平均1600億~2150億円の経常利益を生み出すと弾く。
第2の柱が送配電や原発部門の他電力との事業再編や統合。大手電力は2020年に発電部門と送配電部門を切り離す「発送電分離」を義務づけられていることを踏まえ、送配電部門は20年代初頭に他社と「共同事業体」を設立するとした。原子力事業の再編は20年度をめどに、原子炉の技術面など「協力の基本的枠組みを整えていく」。具体的には、まず建設が中断している東通原発(青森県)で提携相手を募るが、「隣接地に原発を持つ東北電力が有力候補」(経産省筋)。
このほか、送配電事業の合理化の徹底などで2000億円の資金を安定的に確保することを目指す。
だが、計画実現は容易ではない。柏崎刈羽の再稼働について、米山隆一・新潟県知事は「再稼働の議論を始めるのに3、4年はかかる」と厳しい姿勢を示し、地元の同意を得られる見通しは立っていない。東電の広瀬直己社長も「いつ動くのかは不確実性が残る」として、今回の計画が描く想定と実際の再稼働は「まったく別」と認めている。
「再編を考えるニーズもない」(関西電力)など、他電力は再編に否定的だ。東電に飲み込まれかねないほか、福島の事故の負担を押し付けられるとの懸念が根強いのは、当然だ。火力について、東電と中部電力の事業統合に進んでいるが、原発事故とは明確に切り離すことで、やっと実現した話。とりわけ、原発部門の再編となるとさらにハードルは高く、東通原発で再編相手と目される東北電力は「全く念頭にない」(原田宏哉社長)と、取り付く島もない。
日経は「危い二兎追い」と指摘
事故対応費のうち4兆円の除染費は、再編などを通じた企業価値の向上、つまり株価の上昇で、国が持つ東電などの株式売却益で賄うことになっているが、「絵に描いた餅に終わりかねない」。
東電問題の新聞報道は、各紙の原発へのスタンスを色濃く映す。脱原発の「毎日」は5月12日朝刊解説記事に「原発事故処理 提携に壁」「柏崎再稼働も見通せず」の見出しが躍り、同じく「朝日」も「多難の再建計画」「見通せぬ再稼働」「再編に他電力反発」と書く。
一方、原発推進の「読売」は「原発で連携強化」「柏崎刈羽メドたたず」とは報じるが、東電の計画の内容解説中心で、計画通りに進まなければ、「新たな国民負担につながる可能性もある」と指摘した程度。また、同じ原発必要論でも「日経」は「収益力向上と賠償・廃炉 危い二兎追い」「『机上の案』続く難路」と、計画の実効性に大きな疑問符をつける解説記事を掲載した。
社説(「産経」は主張)で直接取り上げたのは「産経」(13日)と「朝日」(14日)。「産経」は電力料引き下げの視点の必要を主眼とし、「高止まりする電気料金の引き下げに努めることを忘れてはならない。それは、電力の安定供給と並び、同社に課せられた使命だ。その実現には、運転が長期にわたって停止している柏崎刈羽原発の早期再稼働が欠かせない」として、「政府は再稼働を東電任せにせず、新潟県への働きかけを強めるべきだ」と、政府にも発破をかける。
これに対し、「朝日」は「安全対策の徹底が先決であり、再稼働に頼らず必要な資金を稼ぎ出す方策を考えるべきだ」と主張し、「東電がその責任を果たせないなら、国がさらに前に出るしかない。(略)東電と政府は、国民の厳しい目を忘れてはならない」とくぎを刺している。
両紙は同じ国の責任を論じるのでも、方向は正反対だ。