広島県庄原市には、島根原発2号機で原発事故が起きた場合、松江市から約6800人が避難する予定になっています。しかし「受け入れ計画がないので、訓練のしようもない」として、避難訓練は行われていません。
避難者は小学校の体育館や地域のコミュニティー施設など市内22カ所に設置した避難所に向かう計画ですが、「施設を管理する人も避難先の候補に挙がっているという認識はほとんどないのではないか」というありさまで、市の担当者は「マニュアルは市のホームページで公開する。住民説明会などはしない」としており、受け入れ手順を確認する訓練の予定もないということです。
また庄原市が作成したマニュアルは避難期間を1週間~10日間しか想定しておらず、「街一つが引っ越してくることになる。数日なら問題ないが、福島のように数年にも及ぶと、避難所となる施設の本来の機能をどうするのか」という問題が残っています。
毎日新聞が報じました。
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原発避難受け入れ、マニュアル作れど訓練せず 50㎞離れた広島・庄原
毎日新聞 2022/6/29
広島県北東部、島根県境に位置する庄原市は、中国電力島根原発2号機(松江市)から最も近い場所で50キロ。原発事故が起きた場合、松江市から約6800人が避難する予定になっているが、どのように受け入れるのか、具体的には決まっていない。「受け入れ計画がないので、訓練のしようもない」。庄原市東自治振興区の宇山茂之事務局長(58)は肩をすくめる。
【写真】現地の変貌…廃炉なのに建設ラッシュ 福島第1原発
政府は2011年の東京電力福島第1原発事故を受け、翌12年に防災基本計画を改定。事故時に即時避難する5キロ圏内を予防防護措置区域(PAZ)、30キロ圏内を緊急防護措置区域(UPZ)に設定した。
島根県も12年、県外などへの避難手順を定めた「広域避難計画」を策定。14年には重大事故を想定した広域避難計画に関する協定を広島、岡山両県と締結した。広島県内には松江、出雲、雲南各市から約17万人が、岡山県内には松江、安来の両市から約10万人が避難する計画だ。庄原市には、松江市八雲地区の約6800人が避難することになっている。
内閣府は16年、避難者の受け入れ手順を定めたマニュアルの作成などを求める指針を出した。島根県は避難所運営マニュアルのひな型を作り、広島、岡山側に作成を呼びかけた。両県によると、受け入れ先となっている広島県内22市町はすべて、岡山県内27市町村もほぼすべてがマニュアルを作成済という。
庄原市も島根県のひな型を参考に作成。避難者は国営備北丘陵公園(同市三日市町)を経由し、小学校の体育館や地域のコミュニティー施設など市内22カ所に設置した避難所に向かう。だが市の担当者は「マニュアルは市のホームページで公開する。住民説明会などはしない」としており、受け入れ手順を確認する訓練の予定もないという。
市が避難者を受け入れることが住民に浸透しているとは言いがたい。宇山事務局長は「施設を管理する人も避難先の候補に挙がっているという認識はほとんどないのではないか」と考える。施設利用者の間で原発や避難の話題が上がることもない。「議論をしようにも情報がない。ある程度示してほしい」と訴える。
福島の事故で避難が長期化していることを懸念する声もある。庄原市が作成したマニュアルは避難期間を1週間~10日間しか想定していない。市の担当者は「長引く場合は松江市の担当者と協議することになる。状況を見て柔軟に動くしかない」と言う。これに対し、庄原市山内地区の自治振興会の実安裕美事務局長は「街一つが引っ越してくることになる。数日なら問題ないが、福島のように数年にも及ぶと、避難所となる施設の本来の機能をどうするのか」と危惧する。
ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格高騰などを背景に、運転停止中の原発を再稼働するよう求める声は与党や経済団体から上がっている。今回の参院選でも再稼働推進をエネルギー政策の公約に掲げる党がある一方、段階的に依存を減らす、即時廃炉を求める、などに分かれる。
庄原市議会は3月、「島根県の避難計画は、自力で避難が難しい人への支援など実効性に関する課題が山積している」として島根原発2号機の再稼働に反対する決議を賛成多数で可決。だが島根県の丸山達也知事は6月2日、再稼働に同意を表明した。事故発生時の避難計画も受け入れ側の住民の合意形成も不十分なまま、2号機は再稼働に向けて進み続けている。
【岩本一希】