2015年10月13日火曜日

東電は市町村の損害賠償には1割強しか応じていない

 東電は、福島原発事故に伴って地方自治体が受けた損害賠償において、都・県・政令市からの要求については総額563億6000万円に対して362億9000万円を認めました(支払比率64.4%)が、その他の市町村からの要求については、総額628億8000万円に対して86億5000万円(支払比率13.8%)しか認めていません。
 そもそも県と市町村で支払比率が著しく異なるというのはおかしな話で、東電は相手の規模が小さいほど居丈高になる傾向が読み取れます。
 賠償金の支払を加害者の東電が実質的に決めるというのも極めておかしな話です。
 
 自治体側の手段としてはあとは原発ADRの調停に頼るしかありませんが、ADRが基本的に東電寄りであることは良く知られています。
 
 かつて芝が放射能で汚染されて営業が出来なくなったゴルフ場が東電に損害賠償を求めた裁判で、東電側は「放射能は無主物(=所有者のいない物質⇒東電は放射能についての責任を負っていない)である」と主張して、損害賠償を拒否しました。
 東電という超大企業が絡むと、司法まで含めてなぜこんな世間常識とは全く異なる展開になるのでしょうか。
 
 毎日新聞の記事を紹介します。
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福島第1原発事故:東電と6県1市係争 損害賠償など
毎日新聞 2015年10月12日
 東京電力福島第1原発事故後、福島県を含む17都県と7政令市が放射線検査の経費など総額563億6000万円を損害賠償請求したところ、200億円余について東電が応じず、6県1市が原発ADR(裁判外紛争解決手続き)で係争中か近く申し立てる方針であることが分かった。住民や法人と比べて補償の枠組み作りが遅れているためで、自治体担当者は「国がもっと具体的に関与する必要がある」と指摘している
 毎日新聞が全都道府県と政令市を対象に取材し、8月末時点の請求額や内容をまとめたところ、東北、関東地方は全ての都県と政令市が賠償請求、三重県や島根県も放射線測定の機器購入費などを請求していた。
 
 自治体関係者によると、東電は(1)水道、下水道など公営企業の減収(2)学校給食や農畜産物の放射線検査費(3)放射性物質を含む廃棄物の処理・保管費−−など計362億9000万円分について賠償の対象と認めた。だが、項目によっては期限を切っている上に、福島県の住民税等減収分▽秋田県の風評被害対策費▽群馬県の被害者支援費などは応じていないという。
 
 こうした東電の姿勢に不満で迅速な賠償が必要として、青森、秋田、山形、宮城、千葉の5県が原発ADRを申し立て、群馬県と仙台市も近く申し立てる。岩手県は既に2億5000万円の支払いで和解した
 
 東日本大震災の被災3県(岩手、宮城、福島)によると、県とは別に大半の市町村が賠償請求しており、総額は628億8000万円。このうち東電が賠償に応じているのは86億5000万円分にすぎなかった。3県以外の市町村も請求しているケースがあり、自治体請求は全国で1200億円を超えるとみられる。
 東電は取材に対し「原子力損害賠償紛争審査会の中間指針などを踏まえ、必要かつ合理的な範囲を賠償している」とコメントした。【土江洋範、五十嵐和大】
 
◇例がない広がり
 吉村良一・立命館大法科大学院教授(環境法)の話 
   自治体による企業への損害賠償請求としては金額、広がりともに過去に例がない規模で、原発事故の特質をよく表している。天災でも人災でも住民が困っていれば対応するのは自治体の本来業務だが、今回は長期に負担がかかり、本来業務を超えている