2015年10月2日金曜日

02- 何も進んでいない使用済み核燃料問題

 政府や規制委は原発の再稼動には熱心であるものの、その終端の使用済み核燃料の処理・処分の問題は一向に進展していません。
 ビジネスジャーナルが使用済み核燃料の処分問題の現状を取り上げました。
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原発、何も進まない使用済み核燃料問題 
4万本を8千年も地下埋蔵
井手秀樹 ビジネスジャーナル 2015年10月1日
慶應義塾大学名誉教授)            
 原子力発電所で排出される使用済み核燃料の再処理工場設置をめぐるトラブルが続いている。完成が長引くようであれば、わざわざ再処理などせずに使用済み核燃料をそのまま処分、すなわち直接処分することはできないのだろうか。ちなみに、フィンランドやスウェーデン、カナダ、韓国などは直接処分することになっている。
 
 4月に政府は閣議決定で、使用済み核燃料をすべて再処理するとした従来の方針は維持しながら、再処理せずにそのままゴミとして処分する直接処分についても検討すると「エネルギー基本計画」に明記した。また、2011年3月の東京電力福島第一原発事故後、内閣府の原子力委員会は、今後20~30年を考えれば、経済性、核拡散防止など多くの点で、再処理するより直接処分するほうが有利か同等であると評価しているのである。
 
 しかし、直接処分による廃棄物の量は、再処理して処分する場合より4倍も増える。また、放射能レベルの有害度が天然ウラン並みになるまでに、直接処分だと約10万年もかかるのに対し、ガラス固化体にして処分すれば約8000年と約12分の1に低減する。現在のところ、資源を効率的に最大限活用することや、廃棄物の量、廃棄物の放射能の有害度等の観点から総合的に判断すると、再処理は有効だという方針に変わりない。
 
 100万キロワットの原発を1年間運転すると、ガラス固化体は約26本発生する。すでにこれまでガラス固化体2万5000本相当の発電を行っているが、フランス等で再処理したものを青森県六ヶ所村で中間貯蔵しているのは約2200本。最終処分場が決まれば、地表から300メートル以深のところに、4万本以上のガラス固化体を埋設することになる。そのためには約10平方キロメートルの地下施設の建設が必要となる。
 
 地層処分の候補地については、02年12月に原子力発電環境整備機構(NUMO)が公募を開始したが、手を挙げる自治体はなかなかない。福島第一原発事故を目の当たりにしたのだからなおさらだ。07年に唯一、高知県東洋町から正式に応募があったが、その後、賛否をめぐって町を二分する論争に発展し、民意を問うため町長が辞職し、出直し町長選で反対派1821票、賛成派761票で反対派が当選したことにより、応募を取り下げた経緯がある。東洋町以降、長崎県対馬市、福岡県糸島市、鹿児島県南大隅町、秋田県上小阿仁村などが、応募を検討しているとマスコミで報道されたが、正式な応募がないまま現在に至っている。ちなみに、07年11月には公募だけではなく、国の申し入れ制度も開始されている。
 
何も進まないという現状
 諸外国の状況をみると、韓国、ドイツ、イギリス、アメリカなどはまだ候補地が決まっていない。アメリカはユッカマウンテンに一旦決まったが、オバマ政権になり白紙撤回された。ドイツや最大の原発国であるフランスはほぼ候補地が絞り込まれているといった状況だ。他方、フィンランド、スウェーデンは最終処分地をそれぞれオルキルオト、エストハンマルに決定し、20年、24年に操業を予定している。
 
 日本の最終処分場候補地の決定は、先延ばしできない喫緊の問題だ。現在、国主催の自治体連絡会が非公開で行われている。今後、火山や断層破砕帯から離れた場所を選定し、岩盤、地層の強度、地下水の流動などを勘案して、適性が高いと考えられるいくつかの科学的有望地を国が提示するとともに、国が関係地方自治体に申し入れを行う予定だ。しかし、地域に反対されれば何も進まないというのが現状であり、地域住民が社会に貢献しているという意識を持てるような施策が必要だ。
 
 諸外国の用地選定の手法を学ぶとともに、地域の主体的な合意形成に向け、地層処分の必要性、安全性などについて住民が納得できるようなかたちでしっかりと説明していくことが重要だ。それとともに、国が総合的かつ適切な支援措置を検討し、地域の持続的発展のための政策を講じていくべきだ。
(文=井手秀樹/慶應義塾大学名誉教授)