今回の小出裕章ジャーナルでは、2006年に東芝が米国のウェスティングハウスという巨大なメーカーを丸ごと買収した経緯、今後の原発の販路は海外向けにしかないこと、アメリカはもう事実上建設にはタッチせずに沸騰水型と加圧水型の全原子炉の特許で稼ごうとしている等の、事情が語られています。
以下に小出ジャーナルの記事を紹介します。
(原文では「小出さん」となっていますが、ここでは「さん」は省略しました)
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原発にこだわる日本企業 「日本を使って実物を造ってですね、売り込んでパテントを握っているので儲ける、米国が日本を逃がしてくれないという構図があるだろうと思います」
第145回小出裕章ジャーナル 2015年10月17日
今西憲之: すっかり季節も秋になりましてですね。大阪で今まで味わっておられた日本酒の味もですね、長野県ではちょっと違うんかなあと思うんですが、小出さんいかがでしょうか?
小 出 : お酒はどこで飲んでもおいしいです。
今 西 : 今日はですね、不正会計問題で大きく揺れてます東芝ですね。原子力部門の会計処理についても注目をされておるのですが、日本では東芝、そして日立、三菱重工の3社がですね、いわゆる原子力事業の中核会社であり、俗に言われるプラントメーカーというようなことなんですけれども、世界的にはもう採算性がよくない、悪い原子力事業から撤退する大手企業がたくさんある中で、日本のメーカーは今も原発に執着し、こだわっているということなんですが、なんで小出さん、そこまで原発にこだわるんでしょうか?
小 出 : 皆さんご存知だと思いますが、日本には2つの形の原子力発電所がこれまで動いてきました。ひとつは東京電力が使っていて、福島第一原子力発電所の原子炉もそうだったのですが、沸騰水型と呼ばれている原子炉です。
もうひとつは関西電力が使っている加圧水型という原子力発電所があるのです。どちらも米国で開発された原子炉で、沸騰水型の方はゼネラル・エレクトリック、加圧水型の方はウェスティングハウスという巨大メーカーが開発した物だったのです。
それを日本では、加圧水型の方は三菱が引き受ける。そして沸騰水型の方は日立と東芝が引き受けるという形でこれまでやってきました。ほとんど沸騰水型と加圧水型、同数が日本ではできたのですが、世界全体を見ると加圧水型の方が圧倒的に優勢だったのです。
そういう状況をずっと見てきた東芝が2006年になりまして、このままゼネラル・エレクトリックと結びついて沸騰水型を続けていると、海外に売り込むことができないと考えたわけです。
今 西 : そこはそうするとですね、要するにもう日本ではこれ以上、原発の数を増やすのが難しい、海外にマーケットを求めないといけないというようなやはり計算もあったということなのでしょうか?
小 出 : もちろんです。1970年から敦賀、美浜というように沸騰水型と加圧水型の原子力発電所ができたのですが、1990年までは毎年1基を三菱が加圧水型を造る。沸騰水型の方は、日立と東芝が1年交代ずつで造っていくという、そんなペースで1990年ぐらいまでは来れたのですが、もうそれ以降は、日本の中で原子力発電を建てていくということができないということがわかってしまいまして、建設できる数もどんどんどんどん減ってきてしまったのです。
そこで、とにかく海外に売り込まなければいけないということで、三菱も日立も東芝も何とか頭を捻っていたわけですが、そのうちの東芝が2006年に奇策に打って出ました。沸騰水型をこれからやろうとしたらダメなので、自分としては何としても加圧水型を海外に売りつけたいと思ったのです。
それでどうしたかと言うと、加圧水型というのを造ってきた米国のウェスティングハウスという巨大なメーカーを丸ごと買収してしまうということをやったのです。それまでウェスティングハウスと結び付いていたのは三菱だったわけですけれども、三菱はそのおかげで弾き出されてしまいまして、仕方がなくてヨーロッパの加圧水型メーカーであるアレバという会社とくっついて、世界に売り込みを図ろうという形になったのです。
2006年の頃は、まだ日本では原子力立国計画なんていう計画があって、これからガンガン原子力をやるんだとふうに言っていたわけですし、東芝はウェスティングと結び付くことで、とにかく金儲けができると思ってしまったのです。
しかし残念ながら、世界ではあまり原子炉の数が増えませんし、福島第一原子力発電所の事故が起きてしまいましたので、もうほとんど海外に原子炉を売るということすらができなくなってしまって、東芝は原子力部門で大幅な多分赤字というのを抱えてしまった。それを粉飾決算でなんとか言い逃れようとしたわけですけれども、それが発覚して苦境に陥っているということです。
今 西 : なるほどなるほど。要するに原子力事業が今回問題になっていますデタラメな不正会計の原因のひとつというようなところにつながっていくかなあと思うのですが、今世界的に見ても、冒頭に申し上げた通り、原子力事業から撤退する会社が多々あるわけですねえ。そういう中でですね、日本の東芝であり、日立、三菱ですね、日本勢は世界の原発の勢力図から見ていくと、今や最大勢力になりつつあるっていうことなんですが、なんで日本の原子力関連会社がそこまで原発に執着するのか?おまけに、福島第一原発でこれほど大きな事故を起こしてるのにということで私、小出さん、不思議でならんのんですが。
小 出 : 米国という国が、世界の原子力を牽引してきました。ゼネラル・エレクトリックとウェスティングハウスなのですが、しかしその米国ではもう四半世紀以上にわたって新しい原子力発電所の建設がないということで、ウェスティングハウスもGEも生産ラインも何も全てもう失ってしまっているのです。
今 西 : もう何もないんですか?
小 出 : そうです。ですからGEやウェスティングハウスが原子力で金儲けをしようと思うと、日本を使って実物を造ってですね、売り込んでパテントを握っているので儲けるという、そういう方法しかないわけで、米国が日本を逃がしてくれないという、そういう構図があるだろうと思います。
今 西 : ただですね、そういう背景にはですね、どうなんでしょうか? 日本も今、安倍総理大臣自らがトップセールスをかけて、海外に原発を売り込みを展開していますよね? トルコですとかベトナムなんかではですね、優先交渉権も獲得しています。やはりそういう国策というものが、さきほどから出ている原発関連事業の大手3社を後押ししている部分もあるんでしょうか?
小 出 : もちろんあります。日本では、原子力発電というのは平和利用と言われてきて、ほとんどの方もそうやって聞いてきているはずなのですが、実は日本の国というのは、平和利用と言いながら、核兵器を造る潜在的な能力を持ちたいんだということで、原子力発電をやり続けてきたわけです。
今でも原子力を放棄してしまうと、核兵器を持つという点でマイナスになってしまうので、原子力は放棄できないというようなことを自民党の首脳達がいまだに言っているわけですし、原子力からもう抜けることはできないと思っているわけです。そして、安倍さんなんかはとにかく経済最優先ということで、金儲け金儲けと言ってるわけですから、原子力も使って金儲けをしたいという、そういうことになっているわけです。
今 西 : なるほど。日本は世界唯一の被爆国であり、世界最大の原発事故を起こした国なんですが、相変わらず反省がないんですねえ。
小 出 : 安倍さんなんていうのは、反省という言葉すら知らないというような人ですから、たぶん今後もダメだと思います。
今 西 : 分かりました。小出さん、ありがとうございました。