2017年2月7日火曜日

07- 米山・新潟県知事 脱原発が鮮明 週刊朝日インタビュー

 週刊朝日が、原発再稼働問題で米山新潟県知事にインタビューした記事が「dot.」サイトに載りました。 
 インタビューを通して分かることは、米山知事は派手なパフォーマンスは見せないものの、「原発の再稼働については極めて慎重である」であるということで、これまで政府や電力側が再稼働の根拠にしてきた言い分については、ことごとく明快に且つ完璧に否定しています。
 その点では「原発事故の原因が解明されないことには云々」の一点しか口にしなかった泉田前知事よりは、はるかに反原発志向が鮮明」であると言えます。
 米山知事については、福島事故以降でも一時「原発賛成」の立場を取ったことをあげつらう人たちもいますが、それはそれとして、今では完全に脱原派に転じていることが明瞭に読み取れます。
 読めば安心できるインタビュー記事です。
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米山・新潟県知事 原発再稼働に「規制委『合格』はお墨付きにあらず」
Dot.  2017年2月6日
週刊朝日 2017年2月10日号
新潟県知事 米山隆一(よねやま・りゅういち)/1967年、新潟県生まれ。92年東大医学部卒。放射線医学総合研究所、ハーバード大マサチューセッツ総合病院研究員を経て、2003年医学博士号取得。16年10月新潟県知事選で当選。医師、弁護士(撮影/植田真紗美)   
  
“新潟ショック”と言われた脱原発派知事の誕生から3カ月──。米山隆一・新潟県知事は1月5日、初めて東京電力ホールディングスの会長、社長と会談し、「安全性の検証がされない限り、柏崎刈羽原発再稼働の議論はできない」との意向を伝えた。現在の心境を聞いた。
 
──安倍政権は原発再稼働に突き進んでいる。
「むやみにケンカはしたくないので、政権批判は控えているのですが(笑)。でも、『福島第一原発の事故の原因解明』『事故による住民の健康への影響』『柏崎刈羽原発での事故時に安全に避難できる計画』の3点の検証を私が進めていることは、政権に対する一種のアンチテーゼではあると思います。いまは立ち止まって考えるべきではないですか、と。現状では住民の安全を確保できない、と苦言を呈するのが知事の責務であり権限です。ただし、立場の違いは違いとして、議論の共通の土台を作る必要があると思っています」
 
──東電との会談で得られた感触は?
「落ち着いた話ができたと思います。こちら側の意向はきちんと伝えられましたし、東電側からも住民の安全を第一に考えるというお話をいただきました。また、検証にも協力してくださるとのことでした」
 
──検証のポイントは?
「福島原発事故について、国会、政府、東電、民間の四つの事故調査報告書が出ています。事故原因の技術的な問題について意見の違うところもあるので、しっかりと検証していきたいと思います。健康面で言えば、例えば子どもの甲状腺がんが多発しているという問題では、学術的な意見が分かれています」
 
──知事は医師でもある。増えていると思うか?
「双方の見解にそれぞれ論拠があって、正直わかりません。ただ、事故との因果関係を否定するのは早計です。スクリーニング効果で甲状腺がんの発見が増えているというのであれば、他県でも調査して比較すれば、わかるはずです。それこそ、福島と新潟は隣県で気候条件も似ている。いい比較対象になるはずです」
 
──2007年の新潟県中越沖地震では、柏崎刈羽原発の配管などが損傷した。福島は想定外の津波が主な事故原因とされている。
「福島も地震によってある程度は壊れた可能性があります。国会の事故調では、地震で配管が損傷したのではないかとの指摘もあります。不幸な事態が次々と連鎖的に起きて、あの苛酷(かこく)な事故につながったということを、われわれは教訓にすべきです」
 
──避難計画は?
「安全な避難計画は、事故原因と健康への影響の検証を考慮して作らなければなりません。一番困るのは、パニックが起きて大渋滞が起きることです」
 
──検証は数年かかる?
「それぞれの項目を検証し、分野ごとにシンクタンクやNPOなどに調査を依頼すれば、通常はそのくらいかかるのではないかと思います。2、3年はかかると言うと驚かれますが、むしろ、事故後こうした検証をしてこなかったことこそを反省すべきです。不幸にも原発には100%安全という“安全神話”がありました。電力会社は、『原発は絶対に安全だ』と絶対にあり得ないことを言ってきた。半信半疑ながら多くの人がそれを信じていたが、事故が起きてその安全神話は崩壊した。では、事故の危険性はどのくらいで、どう対処したら良いのか、行政は、その問題にいままで真面目に向き合ってこなかった
 
──電力会社はいまも地球温暖化対策や経済合理性などで原発は有効と言うが。
「それは筋違いな話だと思います。温暖化対策というのなら、ほかにいくらでも施策が考えられます。風力も太陽光も技術革新が進んでいます。国内だけでなく、海外で自然エネルギーを開発して売るという方法だって考えられます。LEDの普及で日本の電気需要も減っています。論理的につながらない話で、別次元の問題を混同しないでほしいと言いたいですね」
 
──経産省の試算では、福島第一原発の事故処理費は21.5兆円にまで膨らむ。柏崎刈羽原発6、7号機を稼働させれば年間2千億円の利益になるとされ、事故処理費の原資としたい東電側の意向もうかがえる。
「その理屈も通りません。賠償の話と、今後いかに安全に動かすかはまったく別の議論です。どのみち賠償は国の責任でやっていくのでしょうから、そういった話をするのであれば、例えば海外で援助している1千億円、2千億円をお使いになればいかがですか、と言いたくなってしまいます
 
──事故処理費が電気料金の値上げで国民負担になっていることを引き合いに出されたら?
電気料金に上乗せしたのは政府の判断です。別の手段だって考えられたのにあえてそうしたのですから。それは関係ありませんよと言わせていただきます。再稼働するか否かは最終的に国民が判断することです」
 
──佐賀県の玄海原発のように、原子力規制委員会の安全審査に合格すれば、運転再開を認める可能性もあるのか?
「規制委の判断は、JISマークを通っているということと同じです。規制委を合格したらハイOKと言うつもりは全然ありません。安全基準を通ったら事故は起きないというのなら、なぜ福島原発事故は起きたのか。三つの検証がなされない限り応じられません」
 
──お墨付きではない?
そもそも安全にお墨付きなんてものはないのです。安全確率100%なんてあり得ない。99%でも、100基あったら1基が事故を起こすことになります」
 
──鹿児島県の三反園訓知事が公約を破り、川内原発再稼働を事実上容認した。
「他県のことにコメントするのは控えたいと思います。ただし『知事に再稼働させるかどうかの権限はない』というのはどうでしょうか。確かに、稼働中の原発に知事が乗り込んでいって、スイッチOFFなんてできるわけありません(笑)。原発立地県は電力会社と安全協定を交わしており、電力会社はこれを順守しなければなりません。自治体は安全が確保されていなければ防災対策が組めない。知事は協定違反を指摘できるし、それに基づいて法的手段も打てる。県民の安全を守るための権限があるという認識でいいと思います」
 
──“原子力ムラ”と対立することで何か圧力は?
「私自身はまったく感じていないですね。鈍感なだけかもしれませんが。ないとは思いますが、合法的な範囲ならご自由に、でも違法なことはしないでくださいね、と思います(笑)。幸い今の日本にはメディアもありますし、SNSもあります。何であれ私は、自分の意見を発信し続けていきます」
 
──もし、規制委の「合格」を理由に再稼働を強引に推し進めようとしたら?
「三つの検証がなされ、県民の命と暮らしが守られない以上、私はノーと言います。それを無視して再稼働が行われたら、司法や世論に訴える方法もあります」
※週刊朝日 2017年2月10日号