本ブログの2月13日付記事:「東芝の損失が膨張する米原発“契約”の中身」で、東芝が米国の原発建設に関連して巨額損失を出した経過を紹介しましたが、その損失は、東芝の米原子力子会社、ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)が買収した原発建設会社ストーン・アンド・ウェブスター(S&W)が負っていた損失に起因しています。
ブルームバーグの記事を紹介します。
記事には書かれていませんが、東芝が嵌められたとする見方もあるようです。
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米原発の泥沼に落ちた東芝、工事遅れ巨額損失-背景に米メーカーの影
Jason Clenfield、中村友治 ブルームバーグ 2017年2月13日
東芝はなぜ原子力発電事業で巨額の減損損失を計上することになったのか。原因を探っていくと米南部ルイジアナ州でかつて産業用パイプを生産していたメーカーに行き当たる。
その会社は同州バトンルージュに本拠を置くエンジニアリング大手のショー・グループだ。東芝の米原子力子会社、ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)がジョージア州とサウスカロライナ州で手掛ける4つの原発建設事業の完成時期が遅れ、予算が膨らむ事態となった複雑な背景にショーが大きな影を落としている。
東芝は14日の決算発表に合わせ、WHの原発コスト超過に絡んで最大約7000億円の減損を発表する可能性がある。WHは現在、ショーの資産の大半を保有している。この損失額は東芝が2006年にWHを買収した54億ドル(約6100億円)を上回り、穴埋めとして東芝は虎の子のメモリ事業の一部売却を迫られている。同社は昨年も不正会計問題で資産売却を余儀なくされていた。
原子力ルネサンス
東芝は環境意識の高まりなどから原子力が復権するとの「原子力ルネサンス」に賭けたものの、約束通りの工期と予算で完成させることができなかったという意味でルネサンスは現実のものとなっていない。WHの新型加圧水型原子炉「AP1000」について東芝は、工期と予算の範囲内で建設しやすいものと期待していた。だがその期待は裏切られた。東芝は原発建設事業から完全に撤退し、原発設計とメンテナンスだけに焦点を絞る可能性がある。
米原子力規制委員会(NRC)のグレッグ・ヤツコ前委員長は「莫大な資金が無駄になる恐れがある」とし、「これが東芝を崩壊させる可能性があり、米国での新たな原発建設に終止符を打つのは間違いないだろう」と話す。
東芝の広報担当者はコメントしなかった。同社の綱川智社長は1月の記者会見で、財務強化のために必要であれば保有株式や不動産などの資産を売却するとし、引き続きあらゆる選択肢を検討すると述べた。
東芝がWHを買収した2年後、WHは1979年のスリーマイル島原子力発電所事故後初めてとなる4基の原発建設契約に調印した。2015年にブルームバーグ・ビジネスウィークのインタビューを受けた電力会社サザンのトーマス・ファニング最高経営責任者(CEO)はジョージア州での2基の原発建設について「米国の近代産業史の中で最も成功した巨大プロジェクトの一つになるだろう」と語っていた。
S&Wを買収
ショーの創業は1987年。バトンルージュ出身のジェームズ・バーナード・ジュニア氏が経営破綻した産業用パイプメーカーを5万ドルで買い取り、再生させたのが始まりだ。その後幾つかの合併・買収(M&A)を経て規模を拡大。2000年にはかつては有力エンジニアリング企業ながら経営破綻したストーン・アンド・ウェブスター(S&W)を買収して原子力事業にも参入した。
S&Wの名前はショーに箔を付け、WHの全ての原発建設を受注することになる。かつてショーで原発建設に管理者として関わっていたジェフリー・ケラーマン氏は「彼らは必ずしもプロジェクトを請け負うに足る技量を備えていたわけではなかったが、やってやろうという意欲はあった」と話す。バーナード氏は今回の取材にコメントしなかった。
原発建設は複雑な規制が絡むだけでなく多くの請負業者とのコンソーシアムで作業を進めなければならず、容易な作業ではない。実際、WHに限らず多くの請負企業が工期に間に合わせることができていない。「原発を工期内に予算の範囲で完成させる?そんなことほとんど聞いたことがない」とロバート・W・ベアードの原発アナリスト、アンドリュー・ウィットマン氏は話す。
経験不足
WHは08年に原発建設でショーと契約したが、問題は比較的早く表面化した。12年の早い段階までにNRCの検査官が原子炉下部の鋼材が不適切に据え付けられていたのを発見した。300トンもの原子炉容器が落ちかけていたり、誤った溶接のやり直しが必要だったりもした。ショーが「原子力事業における経験を欠いているのは明らかで、厳格さや細かな点への注意が十分でない」と、州政府から委託を受けた検査官のビル・ジェイコブズ氏は12年後半に当局に報告している。
ショーが手掛けていたジョージア州内のサザンの2つの原発はもともと16年と17年に完成する予定だったが、いずれも19年と20年に後ずれしている。だが、それさえも無理のある目標のようだ。州政府でプロジェクトを監視しているビル・ジェイコブズ氏は昨年、新たな目標を達成するにはWHは作業ペースを加速してこれまでやってきたことの3倍以上の作業量をこなす必要があると述べている。WHは昨年11月、建設作業の33.4%が完了したと発表したが、サザンの関係者は匿名で懐疑的だと話した。
訴訟継続
ショーは12年7月にシカゴ・ブリッジ・アンド・アイアン(CB&I)への身売りに同意した。しかし、そのわずか3年後、CB&Iは事業にほとんど進展が見られなかったことからショーの主要資産だったS&Wを東芝に2億2900万ドルという安値で売却。東芝はその見返りにS&Wが絡む全ての法的責任や負債を免除されることになった。だが東芝は16年4月にショーの資産価値が22億ドルも水増しされているとして再交渉を要求。これに対してCB&Iは契約不履行で東芝を訴え、訴訟は今も続いている。
昨年12月の仮決定では東芝に有利な判断が示され、CB&Iは上訴。同社広報担当のジェントリー・ブラン氏は「われわれに有利な解決策が示されると確信している」とコメントした。
東芝株は昨年末に大幅減損の可能性を明らかにして以降急落、10日時点の時価総額は約1兆円で、この間に8000億円以上の市場価値が消滅した。
原題:Toshiba’s Nuclear Reactor Mess Winds Back to a Louisiana Swamp(抜粋)