柏崎刈羽原発6・7号機の再稼働に向けた審査が終盤を迎える中で、重大事故時の対応拠点である免震重要棟について、平成26年に耐震不足を示すデータが社内にあったにも関わらず東電が公表してこなかった問題で、産経新聞がやや詳しい記事を載せました。
なお他所の原発では免震棟はこれから作るものであるため柏崎刈羽原発も同様と思いがちですが、同原発では2007年の中越沖地震で大きな被害があったために、当時の泉田知事の提案等があってすでに免震棟を建て終わっているものです。
その免震棟が、建物上屋変位量75センチを超える地震力に対しては強度が持たないというもので、それまでは耐震計算条件7ケースのうちの5ケースがそれに当たるとされていて、対応拠点として免震棟と既設の5号機原子炉建屋内の一画をどのように使い分けるかが議論になっていたのでした。
2月14日の審査会合で東電は、7ケースとも地震に持たないことを、
「・・・どういった地震までもつ設備かは免震重要棟につきましては建物上屋変位量75センチ未満の地震力に対し機能を喪失しない設計といたします」
という一度聞いただけでは理解できないような(あるいは聞き流してしまいがちな)説明で、初めて明らかにしたのでした。
それにしても水平振幅が75センチとはただならぬ変位量で、よくそんなところに原発を建てたものです。
それこそが識者たちが「豆腐の地盤のうえに建てられた原発」として再稼働に反対している所以です。
建設済の防潮堤の地盤の一部が地震時に流動化することも先般規制委は認めています。要するに柏崎刈羽原発は建ててはいけないところに建てられた原発なのです。
規制委の田中委員長が珍しく、「東電の(審査に)出すものが信用できるか疑義がある。それを確認しないとそれ以上先に進めない」と明言しましたが当然のことです。
東電は社内的には情報共有化の徹底を、対外的には隠蔽体質からの脱皮を図るべきです。
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規制委も「かなり重症」と危惧する東電の悪しき体質
柏崎刈羽審査終盤で蘇った福島の“悪夢”
産経新聞 2017年2月25日
東京電力柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)の再稼働に向けた審査会合が終盤を迎える中で、東電が再び信用を落とす事態に陥っている。重大事故時の対応拠点である免震重要棟について、平成26年に耐震不足を示すデータが社内にあったにも関わらず公表してこなかったためだ。背景を取材すると、東電に隠そうという悪意はなかったようだが、代わりに悪しき体質が露見。再稼働への影響も懸念される。
突然示された調査結果
問題は14日の審査会合で発覚した。
「これまでの説明とは著しく異なる。これを知ってて、これまでの説明をしてきたのか」
規制委の更田豊志委員は、東電の担当者にそう詰め寄った。
更田委員が指摘した「これまでの説明」とは、東電が25年に実施した調査結果だ。7パターンある地震想定で調べたところ、5つのパターンで免震棟の耐震性の不足が確認された。
耐震不足が確認されたため、東電は重大事故の対応拠点には耐震性の高い5号機原子炉建屋内と免震棟を併用して使う案を規制委に提案。審査では両施設をどう使い分けるかなどが焦点となっていた。
そんな審査の最中、東電が突然、14日に示したのが7パターンすべてで耐震性が不足するという調査結果だった。しかも、調査は3年前の26年に実施したもので、東電の唐突な説明に、更田委員の冒頭の発言につながった。審査の前提が覆されたことで、規制庁幹部も「もう一度審査をやり直さなければならなくなった」と憤りを隠さない。
情報隠蔽か、取材を進めると…
東電が不都合な情報を隠蔽しようとしたのか-。そんな憶測も飛び交ったが、23日の審査会合で、東電が経緯を説明すると、肩すかしを食らうようなお粗末な内容だった。
26年のデータは、免震棟の耐震性を調べる際に、深い地層のデータがなかったため、1号機の地層データを代わりに使って試算した信頼性の低い代物だったのだ。そのため、東電も当時は公表するものではないと判断していたという。
それではなぜ、東電は今になって公表したのか。東電によると、昨年夏に着任した担当者に、信頼性が低い情報であることが伝わっていなかったのだという。
あきれた理由だが、実は根深い問題をはらんでいる。情報共有は長年、課題として指摘され続けてきたからだ。
東電に染みついた根深い問題とは…
原発を安全に運転するには原子炉の設計を行う部署と、地震や津波対策を担う部署は、緊密に連携することが不可欠だが、規制庁の幹部は「別会社のような組織だ」と証言する。
審査会合でも規制委の担当者が「昔からプラントと土木の仲が悪いといわれている。今回だけの問題ではない。一体どうなっているのか」とまくし立てた。
実は福島第1原発事故でも、東電の情報共有の問題は指摘されている。
東電は平成20年に15・7メートルの津波を社内で試算しながらも対策を講じず、事故を防げなかった一因とされている。これについて、政府の事故調査・検証委員会は、15・7メートルの津波について社内でワーキンググループが立ち上がったが、「当時の小森明生原子力・立地副本部長(原子力担当)にはワーキンググループの存在自体が報告されていない」と指摘。その上で「東京電力社内で重要な問題として認識されていた形跡はうかがわれない」と問題視している。
原発再稼働に影響する可能性も
原発の審査では、設備面だけでなく原発を運転する事業者としての適正もみている。それだけに規制委の田中俊一委員長も東電の体質について「かなり重症だ」とあきれた様子で語り、「東電の(審査に)出すものが信用できるか疑義がある。それを確認しないとそれ以上先に進めない」と明言。東電の体質改善が確認できない限り、審査には「合格」させない意向を示している。
柏崎刈羽原発を再稼働させるには地元同意も不可欠だが、今回の問題で地元自治体の信用も大きく揺らいでいる。
新潟県の米山隆一知事は「事実と異なる説明をしていたのでは安全確保はできない」とした上で、原因や経緯を報告するよう求める要請文を東電に提出した。原発再稼働について条件付き容認の立場だった柏崎市の桜井雅浩市長も「再稼働を認めないという立場に考えが変わる可能性もある」と言及している。
事故から6年。東電はさまざまな改革に取り組んできたが、巨大企業の体質改善は、言葉で言うほどたやすいものではないようだ。