2015年12月7日月曜日

福島原発収束作業の現状 (小出裕章ジャーナル)

 今回の小出裕章ジャーナルは、福島原発で現在行われている事故収束作業に伴う労働者の「放射能被ばくとがんの発症」がテーマです。
 その中で小出氏は、「もっと悲惨なのは、労働者自身が自分の被ばく量をごまかさなけばいけないという状態になっていることだと思います。なぜならば、現場でほんとに被ばくしてる労働者は最底辺の労働者でして、彼らは被ばく限度に達してしまうと、すぐにクビになってしまって、生活自身を奪われてしまうということになるわけです」と述べています。
 
追記 文中の青字箇所は原文の太字強調個所を示します。また原文では小出氏には「さん」がついていましたが、この紹介文では外しました。
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収束作業の現状 小出裕章ジャーナル
〜第152回小出裕章ジャーナル 2015年12月05日
 「もっと悲惨なのは、労働者自身が自分の被ばく量をごまかさなけばいけないという状態になっていることだと思います」
 
谷岡理香: 今日は「放射能被ばくとがん発症について」、お話をお伺いします。9月20日、東京電力 福島第一原発事故後の作業で、放射能被ばくした後に白血病になった元作業員の方に労災保険が認定されました。事故終息作業に伴う白血病の発症で、労災が認められたのは初めてです。小出さん、今後もこのようなケースは増えてくるでしょうねえ。
小 出: はい。福島第一原子力発電所の事故収束作業というのは、未だにものすごい過酷な被ばく環境の中での作業が続いています。これまでにすでにに2万人近い人達が、累積で5ミリシーベルト以上の被ばくをしてしまっていますし、これからもどんどんそれが増えていくだろうと思います
そして、被ばくによる労災の認定というのは、これまでは年5ミリシーベルト以上の被ばくをしたという場合の白血病の発生については労災を認めるということだったのです。では、その年5ミリシーベルトという被ばくはなんで出てきたかと言いますと、その基準が決められた1976年の時に、一般の人々の被ばくの許容限度というのが年5ミリシーベルトだったのです。
    それを超えたということは、一般の人ではなくて労働者として被ばくをしたことになるのだから、白血病が出たのであれば労災を認めようという考え方なのです。もともと被ばくによってさまざまながん、白血病が出るということは学問の定説になっていまして、一般人の被ばく限度以上に浴びるのであれば、やはり労災を認めるというのが、ごく当たり前の考え方だったのだと思います。
    それが今回も、5ミリシーベルトを超えたからといって認められたわけですけれども、でも現在の一般人の許容限度というのは年1ミリシーベルトにすでになっているわけで、私としては年1ミリシーベルトを超えて被ばくをしたような労働者が白血病になった、あるいは、その他のがんになったと言うならば、労災として取り扱うべきだと私は思います。
    そういう労働者はたくさんもういるわけですので、今後、多数の労働者に対してきちっと労災を認めてほしいと願います。
谷 岡:  今も福島原発事故の収束作業は続いているわけですけれども、現在の放射線量とかその基準とか、どういうふうになっているんでしょうか?
小 出: はい。これから溶け落ちてしまった炉心の撤去作業というようなものもやらなければいけないわけですし、それより前に1号機、2号機、3号機の中に使用済み燃料プールがもちろんあるわけで、そのプールの中にある使用済み燃料の取り出しという部分もやらなければいけません。大変被ばくの多い作業にならざるを得ませんし、従来以上に労働者が被ばくをしていくということになるだろうと私は思います。
谷 岡: そういう危険な高線量の現場にその線量計を持たないで入って行ったりとか、あるいはわざわざ線量計に鉛カバーでしたでしょうか、その線量を低く見せかけたりする、つまり被ばく線量をごまかして働かせているという問題がありますねえ。
小 出: そうですね。被ばく線量を低めに見せるというようなことは、例えば雇用者側からも必要なことであって、なるべく自分は雇っている労働者の被ばく量を少なめに見せたいと思って、今おっしゃって下さったように、線量計にわざわざ鉛のカバーを付けさせて、被ばく量を少なめに出させるように強制したというような事例もありました。 ただ私自身は、もっと悲惨なのは、労働者自身が自分の被ばく量をごまかさなけばいけないという状態になっていることだと思います。なぜならば、現場でほんとに被ばくしてる労働者は最底辺の労働者でして、彼らは被ばく限度に達してしまうと、すぐにクビになってしまって、生活自身を奪われてしまうということになるわけです。
    被ばく作業にあたってる労働者は、例えば東京電力の社員であれば、限度に達すれば別の部署にむしろ配置転換になるというだけであって、クビを切られることもないし、生活が脅かされることもないわけですけれども、現在ほんとに苦しい現場で働いてる労働者達は、被ばく限度に達してしまうと首を切られてしまって、今度は生活ができなくなるということになってしまうわけで、自分から被ばく量をごまかして、被ばく限度にまだ達していないというような状態にしなければならなくなってしまっているわけです。ほんとに厳しい労働なんだなと私は思います。
谷 岡: もうこういうことが繰り返されないためには、その過酷な現場であるからこそ、しっかりと労働環境の整備をすることが必要だと思いますし、それから私達もずっと見ています、私達は忘れていないですよということをどっかでいろんなとこで発言して、作業員の方のケアを十分にしていくようにすることが必要ですよね。 
小 出: そうです。おっしゃる通りで、まずは労働者が被ばくするような条件をなるべくなくすという、労働現場の管理ということが一番大切なわけですし、先程も聞いて頂いたように、被ばく限度に達してしまった労働者の生活をどうするかということを考えることも、また、とても大切なことだと思います。 
谷 岡:  事故現場では未だにと言いますか、むしろこれから長い時間をかけて収束に向けての作業が続いていくわけです。先程も申し上げましたけど、労働者の方々のほんとに健康が心配ですし、周りにいる私達ができることは、私達はずっとウォッチしてますよということ、メッセージを発信し続けることが大事かなと改めて思いました。小出さん、今日もどうもありがとうございました。  
小 出: ありがとうございました。