関電高浜原発3、4号機の運転差し止めを命じた4月の福井地裁仮処分決定(樋口英明裁判長=当時)を巡る保全異議審で、福井地裁(林潤裁判長)は24日、関電が申し立てた異議を認め仮処分を取り消す決定をしました。
これは原子力規制委の新規制基準をクリアした原発の安全性に“お墨付き”を与える結果となりました。
福井地裁樋口英明裁判長(当時)による仮処分決定では、関電の安全対策の不備や規制委の新規制基準の不合理性を指摘し、再稼働の差し止めを命じましたが、保全異議審の今回の決定では、問題となった基準地震動700ガルについては、これを超える地震の発生する頻度は1万年~10万年に1度であって問題はないとし、また住民の避難計画など重大事故後の対応は再稼働の是非の判断要件としないという立場をとりました。要するに新規制基準を間違いのないものとして評価するものでした。
それについて弁護団共同代表の河合弘之弁護士は、今回の決定を「関電の主張をコピーしたもの」と批判し、事故による放射能漏れの危険性を「社会通念上、無視できる程度に管理されている」とし、避難計画を判断基準にしないということに対しては、「世界標準になっている多重防護の思想の否定であり許せない」と切り捨てました。
新規制基準では、多重防護の第5層=最も重要な「住民の避難」の項が完全に欠落しているほか、基準地震動は事実上現有の装置強度でカバーできる範囲内に設定され、コアキャッチャーもないし、ベントフィルターの性能は不十分、原子炉格納容器の対爆撃強度も不十分であるなど、さまざまな点で安全性に欠けるものであることが知られていて、何よりも規制委自身が基準合格が原発の安全を保障するものではないとしています。
また原子炉が暴走した場合その熱で格納容器の気密性が失われる事例(福島原発3号機)をごく最近東電が明らかにしたばかりです。
そうした不十分な新基準に、ここで改めてお墨付きを与えるという考え方が分かりません。
司法が政権や体制側に迎合するものであってはならないことはあまりにも当然のことです。
今回の保全異議審の決定はそういう疑問に耐えるものなのでしょうか。樋口決定のあの説得力のある判断が簡単に覆せるものだとはとても思えません。
【追記 最初の記事において、高浜3、4号機の再稼働差止め仮処分と大飯3、4号機の再稼働差止め仮処分(ともに樋口判事が担当)を混同していました=特にイベントツリーなどで=ので、大幅に書き改めました。お詫びいたします】
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高浜原発3、4号機 再稼働認める判断 福井地裁
毎日新聞2015年12月24日
関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転差し止めを命じた4月の福井地裁仮処分決定(樋口英明裁判長=当時)を巡る異議審で、同地裁(林潤裁判長)は24日、関電が申し立てた異議を認め、仮処分を取り消す決定を出した。原発の運転を禁じた初の仮処分決定から8カ月余りで、司法判断が覆り、高浜3、4号機の再稼働が法的に可能となった。地元同意の手続きは完了しており、関電は25日にも核燃料を原子炉に装着する。
福井地裁は4月14日の仮処分決定で、原子力規制委員会の新規制基準について「適合しても安全性は確保されておらず、合理性を欠く」などと判断、高浜3、4号機の再稼働を禁じた。
関電側は仮処分決定を不服として、民事保全法に基づき同地裁に異議を申し立てた。異議審の担当裁判官についての規定はなく、今回は差し止めを命じた樋口裁判長の後任になった林裁判長が担当。5月以降、関電側と住民側の双方が意見陳述する審尋が4回、非公開で行われた。
高浜3、4号機は新規制基準に基づく安全審査に合格し、再稼働準備の最終段階となる使用前検査まで進んでいる。野瀬豊・高浜町長が今月3日、西川一誠・福井県知事が22日に再稼働に同意。今回の司法判断で事実上、ハードルがなくなったため、関電は来年1月下旬以降の再稼働を見込んでいる。
一方、福井地裁は24日、関電大飯原発3、4号機(同県おおい町)の運転を差し止める仮処分を求めていた住民側の申し立ても却下した。【岸川弘明】
高浜原発3・4号機 再稼働認める判断 福井地裁
12月24日 17時38分
高浜原発3・4号機 再稼働認める判断 福井地裁
NHK NEWS WEB 2015年12月24日
福井県にある高浜原子力発電所の3号機と4号機について、福井地方裁判所は「新しい規制基準の内容と審査の判断は合理的で、住民の生命が脅かされる具体的な危険は認められない」と指摘し、再稼働しないよう命じた、ことし4月の仮処分を取り消し、再稼働を認める判断をしました。これを受けて関西電力は、まず3号機を来月にも再稼働させる方針です。
福井県高浜町にある関西電力の高浜原発3号機と4号機については、福井地方裁判所がことし4月、再稼働を認めない仮処分の決定を出し、関西電力が異議を申し立てたため、別の裁判長が改めて審理を行っていました。
24日の決定で福井地裁の林潤裁判長は再稼働しないよう命じた仮処分を取り消し、再稼働を認める判断をしました。決定の中で、「新しい規制基準は最新の科学的・技術的な知見を踏まえた評価を求めるなど、内容は合理的で、この基準に適合するとした原子力規制委員会の審査の判断に不合理な点はない」と指摘しました。
そのうえで、「関西電力は最大の地震による揺れの想定にあたり、地盤構造を詳細に調査しているほか、福島の原発事故を踏まえて耐震補強工事を行うなどしており、住民の生命が脅かされる具体的な危険は認められない」と指摘しています。
その一方で裁判所は「新しい規制基準に合理性が認められるのは、原子力規制委員会が中立公正な立場で安全性を審査するという枠組みが機能しているのが前提だ。福島の原発事故に対する深い反省と絶対的安全性は存在しないという真摯(しんし)な姿勢の下、継続的な取り組みを怠らないことが求められている」などと、国や関係する自治体を含め、今後も安全への取り組みを続けるよう求めました。
高浜原発3号機と4号機は、ことし2月、鹿児島県の川内原発の次に規制委員会の審査に合格し、これまでに福井県の西川知事が再稼働に同意するなど地元の同意は出そろっています。
24日の決定を受けて関西電力は、まず3号機で原子炉に核燃料を入れて検査を受けるなど、最終的な手続きを進め、来月にも再稼働させる方針です。
一方、住民側は今回の決定を不服として名古屋高等裁判所金沢支部に抗告することにしています。
関電「安全性にご理解いただいた」
関西電力は「高浜原発、大飯原発の安全性が確保されていることに、ご理解いただいた結果だと考えています。今後とも原子力発電所の自主的かつ継続的な安全性向上に努めるとともに引き続き、新規制基準への適合性にかかる審査・検査に真摯に対応し、立地地域をはじめ、社会の皆さまのご理解を賜りながら、安全性が確認された原子力プラントの1日も早い再稼働を目指してまいります」というコメントを出しました。
住民側弁護団「容認できない」
決定のあと、住民側の弁護団の河合弘之弁護士は「非常に残念な結果に終わった。関西電力が言うことに、そのまま対応したようなかたちで容認できない。一喜一憂することなく、闘い続ける」と話しました。
3号機 25日にも原子炉に燃料
高浜原子力発電所の3号機と4号機は、ことし2月、原子力規制委員会の審査に合格し、現在、再稼働の前に必要な検査が進められています。このうち、3号機では、これまでに新たに設置した重大事故対策の設備などの性能の検査が終わり、関西電力は規制委員会に25日以降、原子炉に燃料を入れる作業を始める計画を示しています。
その一方で、関西電力は再稼働を認めない仮処分に対する裁判所の判断を踏まえるとともに、地元の同意を得ないかぎりは、原子炉に燃料を入れないとしてきました。
こうしたなか、今月3日には地元の高浜町の野瀬町長が今月22日には、福井県の西川知事が再稼働に同意しました。
そして今回、福井地裁が高浜原発の再稼働を認めない仮処分を取り消す決定をしたことで、関西電力は、まず3号機で、25日にも原子炉に燃料を入れる作業を始めるとしています。その後、再稼働に向けた準備作業は最終段階に入り、安全上重要な設備の検査や重大事故を想定した訓練を経て、問題がなければ、関西電力は来年1月下旬に3号機を再稼働させる方針です。
おととし施行された新しい規制基準の下では、川内原発の1号機がことし8月、2号機がことし10月にそれぞれ再稼働し、高浜原発3号機が再稼働すれば、これらに次いで3基目になります。
関西電力は4号機も来年2月下旬に再稼働させるとしています。
安全性問う訴え 全国で相次ぐ
4年前の原発事故をきっかけに、原子力発電所を再稼働させないよう求める訴えは全国で相次いでいます。
原子力発電所を巡る裁判は昭和40年代後半から起こされるようになり、福井県にある高速増殖炉「もんじゅ」の裁判や、石川県にある北陸電力の志賀原発の裁判で住民などの訴えが認められました。
しかし、いずれも最高裁判所や高等裁判所で取り消され、「具体的な危険性までは認められない」という司法判断が定着しつつありました。その後、東日本大震災で福島第一原発の事故が起きると、全国で弁護団が結成されるなど改めて原発の安全性を問う動きが広がり、仮処分や集団訴訟の件数はおよそ30件に上っているということです。
去年5月、こうした集団訴訟の判決で、福井地方裁判所は福井県にある大飯原発の3号機と4号機を再稼働しないよう命じました。
さらに、ことし4月には、同じ裁判長が高浜原発の3号機と4号機の再稼働を認めない決定を出した一方、その1週間余りあとの決定で、鹿児島県の川内原発1号機と2号機については、鹿児島地方裁判所が住民の仮処分の申し立てを退けました。
今後も各地で原発の再稼働を巡る仮処分や判決が言い渡される見通しで、司法の判断が引き続き注目されています。
再稼働の審査 全国16原発26基で申請
再稼働の前提となる審査はこれまで、建設中の大間原発を含めて全国の原発の半数以上に当たる16原発26基で申請されています。
審査はいち早く申請された「PWR=加圧水型」と呼ばれるタイプの原発が先行しています。申請のあったPWRの8原発16基のうち、これまでに川内原発1号機と2号機、高浜原発3号機と4号機、それに伊方原発3号機の合わせて5基が審査に合格し、最も早く合格した川内原発の2基は、ことし8月から順次、再稼働しています。
高浜原発3号機と4号機は川内原発に次いで、ことし2月に審査に合格し、8月からは再稼働の前に必要となる検査を受けていて、今月22日までに地元の高浜町と福井県が再稼働に同意しました。
関西電力は3号機は25日以降、4号機は来年1月下旬から原子炉に燃料を入れ始め、安全上重要な設備の検査などを経て、3号機は来年1月下旬、4号機は来年2月下旬に再稼働させる計画を示しています。
今回、福井地裁が高浜原発の再稼働を認めない仮処分を取り消す決定をしたことで、こうした計画に沿って作業が進められれば、川内原発に次いで再稼働することになります。
伊方原発は、ことし10月、地元の愛媛県の中村知事が再稼働に同意し、現在、耐震性など設備の詳しい設計の確認が行われていて、再稼働は早くて来年の春になる見通しです。
このほかのPWRでは北海道の泊原発3号機、佐賀県の玄海原発3号機と4号機、福井県の大飯原発3号機と4号機の審査がおおむね終盤に入っているほか、原則40年に制限された運転期間の延長を目指す高浜原発1号機と2号機、福井県にある美浜原発3号機の審査も進められていますが、いずれも合格の具体的な時期は不透明です。
先月審査を申請した福井県にある敦賀原発2号機は、焦点となっている敷地内の断層の活動性から議論を始めていて、審査は始まったばかりです。
一方、事故を起こした福島第一原発と同じ「BWR=沸騰水型」と呼ばれるタイプの原発は、これまでに8原発10基が申請されていますが、いずれの原発も審査の重要な項目で、耐震設計を決める根拠となる原発で想定される最大規模の地震の揺れが了承されておらず、審査は中盤から序盤の段階です。