今回の小出裕章ジャーナルは、「原発の40年→最高60年運転延長」がテーマです。
原子炉容器は中性子を浴びて劣化するため当初は30年運転を想定した筈ですが、それが40年に延長され、今度は最長60年まで延長しようとしています。
そのため40年目に特別点検をおこなって原子炉容器や原子炉格納容器などの最長20年延長時の健全性を確認することが必要ですが、一体どんな点検をおこなえばそんなことが分かるというのでしょうか。
小出氏はそんな延長は安全性を考えればあり得ないし、経営判断としてもあり得ない選択だと述べています。
追記 文中の青字箇所は原文の太字強調個所を示します。また原文では小出氏には「さん」がついていましたが、この紹介文では外しました。
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原発の運転延長
〜第153回小出裕章ジャーナル 2015年12月12日
「当初予定していた40年という寿命がもう来てしまうわけです。そんな原子炉をこれから再稼働させるというようなことは、こんな愚かな選択はあり得ないと私は思います」
矢野宏: 関西電力が来年11月に運転開始から40年を迎える美浜原発3号機について、20年間の運転延長を原子力規制委員会に申請しました。原発の運転期間は原則40年間と定められているのに、規制委員会が認めれば1回に限り20年間延長できるというものですが、これ大丈夫なんでしょうか?
小 出: 大丈夫かと聞かれてしまえば、大丈夫でないとお答えするしかないわけですし、私はもともと原子力発電所というのは機械であって、壊れない機械はない。そして、運転してるのが人間で、人間は神ではないわけですから、必ず間違いを犯すし、原子力発電所にしても大きな事故を起こす可能性は必ずあると訴えてきまして、大きな事故が起きる前に原子力発電所は止めたいと思ってきたのですが、残念ながら福島第一原子力発電所の事故が起きてしまったわけです。
それまでも原子力発電所というのは、厳重な安全審査をして安全性を確認して認められているんだから大きな事故なんて決して起きないと言われてきたにも関わらず、福島第一原子力発電所の事故が起きてしまいました。その事故は未だに継続しているわけですし、事故現場に行くことすらできない。どんな原因で壊れたのかすらが確定できないという状態なのであって、それができないならば、新たに原子力発電所を運転するなどということは初めから論外だと私は思ってきました。
しかし残念ながら原子力を進めてきた人達は、新しい規制基準をつくって、それに合致したらばもういいんだというようなことを言い出したわけです。しかし新しい基準を作った原子力規制委員会自身が、新しい基準に合致したからといって安全だとは申し上げないということを言ってるわけですから、到底安全などということは言えません。
特に今、聞いて下さったように美浜原子力発電所というのは、すでに当初予定していた40年という寿命がもう来てしまうわけです。そんな原子炉をこれから再稼働させるというようなことは、私から見れば全く馬鹿げたことだし、こんな愚かな選択はあり得ないと私は思います。
矢 野: そうですよね。美浜原発の3号機というのは、これ2004年の8月に大変な事故を起こしてますねえ。配管の破断で蒸気が噴出して、11人の死傷者を出した。
小 出: そうです。管理も全くできていない状態で、熱水が流れているパイプがいつの間にか薄くなってしまって突然破れてしまう。そこで作業をしていた人達が、熱湯を浴びて焼け死んでしまうというような事故を起こしました。
本当に原子力発電所というのは油断も隙もない、どこかでちょっとした油断があれば、それが大事故につながってしまうというそういうものなわけですから、特に寿命を尽きたような原子炉というのはその段階で諦めるというのが、本当の選択だろうと私は思います。
矢 野: そうですよねえ。美浜原発の場合は小出さんおっしゃったように、1号機と2号機はもう廃炉になると。3号機しかないのに、敢えてその3号機を再稼働させる。なぜ必要なんでしょうか?
小 出: それも私はよくわかりませんが、とにかく形があるし、造った時に何千億円かかけているわけですから、形のあるものは、動かした方が金儲けになるという判断を多分したんだろうと思います。それからもうひとつは、これはよくわかりませんが、いわゆる立地自治体である美浜町が原子力発電所がなくなってしまうと、交付金などが得られなくなる、「なんとか動かしてくれ」というような政治的な思惑というのがあったかもしれないと思います。
矢 野: なるほど。例えばですよ、今度この4号機を造るということになった場合に、美浜にそういう恩を売っていたら、関西電力の側からですね、恩を売っておけば、また4号機を造ることができるんではないかというような思惑もちょっと私は見え隠れするような気がするんですけど、どうでしょう?
小 出: はい、あるかもしれませんね。敦賀の場合も1号機はもう廃炉になりましたし、2号機もたぶん廃炉になると思いますけれども、そうなると今度は3号機、4号機を造るというような話があるわけですし、美浜の場合にも1号機、2号機はもうダメだけど、3号機を動かすことで4号機を踏み台に使うということはあり得るだろうと思います。
矢 野: しかしこの美浜原発だけではなくて、高浜1号機、2号機ももう40年近いですよね。もちろん40年超えてますよね。これをまた再び動かそうという運転延長申請もしてます。こんな老朽原発を動かして再稼働させて果たしていいのかなあと私は思うんですが。
小 出: はい。私としては、そんなことは安全性を考えればもちろんあり得ないし、経営判断としてもあり得ない選択だろうと私自身は思います。
矢 野: これからその原子力規制委員会の判断に委ねられるわけですけれども、もしかすると、これは20年の運転延長というのが認められる可能性もありますよね?
小 出: はい、可能性もありますけれども、でも来年の11月というのが美浜3号機の場合には、最終的なタイムリミットになってしまうわけで、それまでに老朽化した原子炉が新しい規制基準に合致するように関西電力の方できちっとした準備をしなければいけないわけで、その準備が間に合わないという可能性はかなり私はあると思いますので、美浜3号機に関しては、結局再稼働できないという可能性もかなり高いだろうと私は思います。
矢 野: そうですか。それだったら、ちょっと安心なんですけれども。
小 出: 油断はできませんけれども。
矢 野: ですね、はい。我々はこの関西電力のこうした再稼働の動きに対して、どんな行動をすべき、どう声をあげていけばいいのかなというふうに私は今迷ってるんですけれども。どうでしょうか?
小 出: はい。私はずっと41年間原子炉実験所という所で働いてきましたし、その間も原子力発電所というのは一刻も早く止めなければいけないと発言を続けてきました。しかし私の発言などは、国家が進めようとした原子力、巨大な電力会社、巨大な原子力産業、マスコミ、学会、裁判所まで、全てがグルになって進めてきたわけで、私の声などは簡単に掻き消されてきてしまったわけです。
しかし福島第一原子力発電所の事故が起きて、ほんとに悲惨なことが起きるということが事実として示されているわけですから、やはり多くの人に、この事実に気がついてもらって、お一人お一人の方が声をあげて下さるようになる。このラジオフォーラムという番組もきちっとその情報を伝えて下さるようになってるわけですから、それを受けてお一人お一人の方がやはり気がついてくれると、それになければ、やはりダメなんだろうなと私は思います。
矢 野: やはり、諦めずに声をあげ続けるということが大事なわけですね。
小 出: はい、この番組がずっと続いてくださったことは有難いと思いますし、地道な努力を積み重ねる以外にはないんだろうと思います。
矢 野: わかりました。小出さん、どうもありがとうございました。
小 出: こちらこそ、ありがとうございました。