新潟県は16日、柏崎刈羽原発で重大事故が起きた際の放射性物質拡散シミュレーション(予測)を公表しました。それによると事故発生後、格納容器の破損を防ぐため蒸気を外部に逃がすフィルター付きベントを使用した場合の外部被ばく線量は、使わない場合に比べて約6分の1に低減するのみであることが分かりました。
当然ベントを使っても、防護措置が必要とされる原発から半径30キロ圏を大きく超えて放射性物質が拡散することも明らかになりました。
このフィルターは住民を被ばくさせないために設置するものなので、この程度の除去率では話になりません。外国のベント用フィルターは5階建てのビルほどの容量を持っているとしてその除去性能も1万分の1とか、10万分の1くらいにまで除去できるといわれます。
それに対して柏崎刈羽に新設されるベント用フィルターは、地下1階のフロア―の1画に収まるという程度のチャチな形だけの代物です。それにしても昨年の段階でも除去性能は1000分の1=99.9%除去といっていたのに、それがどういう経過でわずか6分の1になったのでしょうか。あとの大半の放射性物質はフィルターに掛からないものだというのであれば、99.9%などと提示するのは詐欺です。とても見過ごすことはできません。
(関係記事)
2014年8月28日 柏崎刈羽原発 フィルターベントの性能はこれでよいのか
2013年8月29日 チャチなベント・フィルターでいいのか 柏崎刈羽原発
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原発ベントでも30キロ圏外に拡散
県が公表 放射性物質の拡散予測
新潟日報 2015年12月17日
(新潟) 県は16日、東京電力柏崎刈羽原発で重大事故が起きた際の放射性物質拡散シミュレーション(予測)を公表した。事故発生後、原子炉を覆う格納容器の破損を防ぐため蒸気を外部に逃がすフィルター付きベントを使用した場合の外部被ばく線量(最大値)は、使わずに容器が壊れた場合に比べて約6分の1に低減することが分かった。ただ、ベントを使っても、防護措置が必要とされる原発から半径30キロ圏を大きく超えて放射性物質が拡散することも明らかになった。
県は柏崎刈羽原発6号機での事故を想定し、排気からヨウ素やセシウムなどを取り除く機能があるベントの効果に加え、放射性物質の影響範囲などを確認するために実施。4種類の事故想定と気象条件を組み合わせて算出した。各自治体の避難計画との整合性を検討するため、陸域に吹く風(南西、北西、北東)のパターンを示した。
東電福島第1原発事故と同様に、発生から8時間後に格納容器が破損し、ベントを使用しないで放射性物質の放出が72時間続いた場合=図(1)参照=、屋内退避などをせずに屋外にいたケースの外部被ばく線量は最大値で500・9ミリシーベルト。これに対し、同じ気象条件で事故発生から6時間後にベントを行った場合の最大値は88・61ミリシーベルトで、未使用時の約6分の1に抑えられた。
ベントの効果が一定程度確認された一方、ベントを使っても、外部被ばくに影響する希ガスなどの放射性物質の拡散を完全に防ぐことはできず、多くのケースで原発から半径30キロ圏外まで影響が及ぶことも示された。
北西に中程度の風が吹き、雨が降っている場合=図(2)参照=、原発から40キロ以上離れている魚沼市でも72時間で1ミリシーベルトの外部被ばくをする計算だ。これは国際放射線防護委員会(ICRP)が公衆の線量限度とする年間1ミリシーベルトの被ばく線量に相当する。
拡散予測は16日、柏崎刈羽原発の安全性を議論する県技術委員会で示された。会合後の会見で、座長の中島健京都大教授は「防護対策として何を考えるか。(ベントをしても残る放射性の)希ガスにどう対応するか。今後議論したい」と述べた。
16日には東電も独自の拡散予測を公表した。
予測図は下記を参照してください。
12月20日 柏崎刈羽原発 重大事故時放射性物質拡散シミュレーション結果
原発30キロ圏外 困惑と要望の声
県内 放射性物質の拡散予測
新潟日報 2015年12月17日
16日に県が示した東京電力柏崎刈羽原発事故時の放射性物質拡散シミュレーション(予測)では、原発から半径30キロ圏の市町村だけでなく、新潟市や南魚沼市など広範囲に影響が及ぶ可能性があることが明らかになった。関係地域の住民からは「どこに逃げればいいのか分からず不安」「行政は避難対策を示してほしい」などの声が相次いだ。
拡散予測によると、原発事故時に冷却装置が使用不能となり注水もできない場合で、北西の弱い風が吹くケースでは、放射性物質が長岡市から小千谷市や魚沼市、南魚沼市へと広がると想定された=地図(1)=。
30キロ圏外に位置する南魚沼市浦佐の区長代表を務める小沢義篤さん(66)も「住民が安心できるよう行政は避難対策を説明してほしい」と求めた。
魚沼市の小幡誠副市長は「風向きによっては魚沼まで影響が出ると思っていた」とした上で「避難には冬季の道路確保や関係機関との調整も必要。県が主体となり広域的な避難計画を考えてほしい」と注文した。
農家も不安を募らせる。30キロ圏に含まれる小千谷市の農事組合法人代表理事、佐藤正さん(65)は「農地が放射能に汚染されればいつ農業を再開できるか分からない」と懸念した。
一方、北東の弱い風のケースでは、放射性物質が海上を通って上越市に到達するとされた=地図(2)=。上越市の市民団体代表、増田和昭さん(68)は「やっぱりそうかという思い。地域として避難方法を考える必要がある」と語った。
これに対し、9月に避難計画をつくった上越市は冷静に受け止める。同市の宮崎悦夫防災危機管理部長は「今回の拡散予測はフィルター付きベントの性能を確かめるために行われたもの。今回の結果で、直ちに計画を変えなければいけない状況ではない」と話す。
南西の中程度の風のケースでは、放射性物質は北へと広がり、新潟市秋葉区に達する可能性がある=地図(3)=。秋葉区出戸町内会の土屋雅晴会長(71)は「ここまでは来ないと思っていたのに」と困惑を隠せない様子。
4歳と6歳の子どもがいる同区の自営業女性(34)は「不安だが、影響は仕方がない」としながらも「子どもなどを優先的に避難させて」と訴えた。
予測図は下記を参照してください。
12月20日 柏崎刈羽原発 重大事故時放射性物質拡散シミュレーション結果
拡散予測に「ここまで来るのか」
原発30キロ超「避難計画対象外」に不安も
新潟日報 2015年12月17日
東京電力柏崎刈羽原発の重大事故を想定し、県が16日公表した放射性物質の拡散シミュレーション(予測)では、天候によっては原発から30キロ以上離れた長岡市栃尾地域にも放射性物質が到達する恐れがあるとされた。市が15日に決定した避難計画では、栃尾では避難者を受け入れることになっているが、栃尾からの避難は想定されていない。住民からは計画の見直しのほか、県に対策を示すよう求める声も上がった。
長岡市は栃尾を除き、柏崎刈羽原発から半径5~30キロ圏の避難準備区域(UPZ)に入る。市の避難計画では、栃尾を除く市域について避難先を示し、非常時に市民が取るべき行動を示した。栃尾は旧市内の5地域の約1万5千人を受け入れることになっている。
避難計画は、県が7月に示した広域避難先のマッチングを基に策定した。市原子力安全対策室は「マッチングの考え方は、原発から30キロを境に避難する地域と避難を受け入れる地域を分けている。30キロ圏外には影響がない前提になっている」と説明する。
これに対し、栃尾の住民からは避難計画などへの不安が漏れる。一之貝集落の農業男性(76)は「30キロ地点に放射性物質を遮る壁があるわけではない。同じ長岡市なので栃尾についても避難計画で触れるべきだ」と訴える。
金町地区の区長嶋田功三さん(72)は「被ばくする可能性があるのに避難者の受け入れ地区に指定されるのはおかしい。緊急時にどう行動するかを町内でしっかり考えておきたい」と表情を引き締めた。
農業男性(68)は「あくまでも予測で、いたずらに市民を不安にさせているだけだ。予測を基に、どうすればいいのか、県に説明してほしい」と求める。
市は現時点で避難計画の見直しは考えていないとする。谷内1の自営業男性(56)は「今回の避難計画のほかにも栃尾地域の避難を定めた計画を作る必要があるのではないか」と話した。
◎ここまで来るのか 市民に驚きや危機感
真剣な対応が必要
放射性物質の拡散予測では、想定した多くのケースで長岡市内各地に影響が出るとされた。市民からは「長岡まで到達する恐れがあるのか」と驚く声のほか、「事故時の対応についていっそう真剣に考えるべき」といった意見が聞かれた。
2人の子どもを育てる同市住吉3の主婦(44)は「長岡にまで放射性物質が来るとは。危機感が生まれた」と話す。
「拡散予測は住民への意識づけになるのでは」。川崎連合町内会長の小川与志一さん(72)=同市川崎2=は、これをきっかけに備えを真剣に考えるべきだと指摘した。これまでは放射性物質の拡散を「人ごとと考える住民もいた」という。予測が公表され「住民の危機意識が高まれば、町内会で避難について話しやすくなる」と語った。
原発の廃炉を求め活動している「原発ゼロ長岡市民ネット」の矢引光明代表(56)は「天候次第で拡散範囲が変わる中で、どう市民を避難させるのか」と訴える。
放射線量を測定するモニタリングポストは現在、市内に8カ所あるが、避難計画の実効性を高めるため「小学校区単位などで、さらに設置するべきだ」と求めた。