それにもかかわらず、最もリスクを抱える地元から再稼働を願う声が上がるのはなぜでしょうか。その背景を探るべく、新潟日報は柏崎刈羽地域の企業100社に、地域経済と原発との関係を詳しく聞きました。
原発の再稼働が企業にどのように影響するかは決して一様ではありませんが、柏崎刈羽原発と地元企業との関係は概して薄く、福島事故を受けて柏崎刈羽原発が長期停止しても、地元企業へのダメージは限定的でした。
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柏崎原発の恩恵、見詰め直す 柏崎刈羽100社調査
新潟日報 2015年12月14日
東京電力柏崎刈羽原発が立地する柏崎刈羽地域の経済界で、再稼働を願う声が強まっている。地元経済団体は今年6月、柏崎市と刈羽村の議会に早期再稼働を求める請願を提出した。東電福島第1原発事故から5年がたとうとしているが、いまだに多くの住民が避難生活を送っている。柏崎刈羽原発の安全性を確認する国の審査も途上だ。それにもかかわらず、最もリスクを抱える地元から再稼働を願う声が上がるのはなぜか。1号機が運転を始めた1985年から今年で30年。柏崎刈羽地域の企業100社に、地域経済と原発との関係を詳しく聞いた。
■Q、1号機が稼働した30年前に比べ、会社の規模や業績はどう変化した?
<30年で規模「縮小」42社>
柏崎市が原発を誘致した最大の狙いは、地元活性化だった。しかし、30年前と比べて経営規模や業績が「拡大した」と答えた企業は35社にとどまった。
一方、「縮小した」という企業は42社。理由として多かったのは「時代の変化」や「景気の影響」だ。
写真店はデジタルカメラの普及によって現像の仕事を、小売店は郊外型の大型店の進出によって顧客を失ったという。製造業では、市内有数のメーカー「小松エスト」が1999年に撤退したことや、2008年のリーマンショックを理由に挙げる企業が多かった。
そもそも地域の人口が減っていることの影響を指摘する声も複数あった。
柏崎市の人口(05年に合併した地域を除く旧市域)は9月末現在で8万162人。原発全7基完成前の1995年をピークに減少へと転じ、今では30年前より5千人近く少ない。
柏崎市の民間事業所数も90年代をピークに減っており、合併地域を合わせた数でも30年前より300社以上減った。
「ここに原発が来ると聞いて創業した。構内企業の車の修理、整備の仕事を受けることで業績が伸びた」(自動車販売業・65歳)
「公共投資が減って縮小した。東電はうちみたいな中小・零細に発注しない。受注できるのは一部の企業だけだ」(建設業・60歳)
■Q、地元に原発ができたことによって、間接的な売り上げ増はあった?
<波及効果が「ある」43社>
原発立地による間接的な効果が「ある」と答えた企業は43社に上り、原発立地による波及効果を感じている企業が一定程度あることが示された。一方、「ない」という企業も半数近くあり、波及効果が地域経済全体をどこまで押し上げたかは不透明だ。
原発全7基が完成する1997年までの建設期、柏崎刈羽地域は多くの建設作業員でにぎわった。建設期が終わった後も、東電の記録が残っている2005年度以降、東電社員や定期検査の作業員らが少なくとも月4千~5千人規模で原発構内に入って働いていた。
このため、飲食・宿泊を中心としたサービス業や小売業から「社員や作業員が客として来てくれた」との声が多く聞かれた。建設業でも、東電の社員寮や作業員用のアパートのメンテナンスの仕事が増えるなど、波及効果は多岐にわたっていた。
ただ、その波及効果は多いときでも年間売上高の「数パーセント程度」「わずか」と答えた企業が多かった。
「原発の下請け会社が東電を接待するのに、うちの店を使ってもらっている。多い年で原発関連が15%になった」(飲食業・50歳)
「原発から離れているので関係ない。原発とか社員アパートとかの近くなら影響があるかもしれないが」(理容業・80歳)
■Q、柏崎刈羽原発が再稼働すれば、自社の売り上げが増える?
<売り上げ増「期待」5割>
全体の半数に当たる50社が「再稼働効果」に一定の期待を寄せる一方、残りの50社は自社の売り上げにとってプラスにはならないとの見方を示した。
原発再稼働が売り上げ増に結び付くと明言したのは23社。ほかに27社が「間接的効果があるかもしれないが分からない」と答えた。
ただ、売り上げが増えるとした企業でも、その半数近い11社は「原発が動いて景気が良くなれば地域に金がまわるだろう」などの漠然とした期待だった。原発の仕事を定期的に受注しているという14社を見ると、再稼働効果を見通しているのは5社にとどまった。
再稼働による売り上げ増を否定した企業には、もともと原発関連の仕事を受けていない社のほか、「原発というより、景気が良くならなければどうにもならない」などと波及効果に懐疑的な見方も目立った。
現在、原発の安全対策の仕事を受注している企業の中には「再稼働すれば、むしろ仕事は減り、売り上げも落ちる」という社が複数あった。
「風が吹けばおけ屋がもうかる…ではないが、原発が動けば柏崎の経済が動く。恩恵があると期待する」(サービス業・64歳)
「再稼働したからといって店の売り上げが上がることはない。人口が減っていることが原因なのだから」(酒小売業・70歳)
■ Q、柏崎刈羽原発の安全性が確認されたら、再稼働してほしい?
<再稼働「望む」3分の2>
全体の3分の2の66社が再稼働を望む一方、残り3分の1の34社は「いいえ」「判断できない」「どちらでもいい」のいずれかを答えた。地元経済界がまとまって原発の早期再稼働を求めているように映るが、決して一枚岩ではなかった。
再稼働を望む企業のうち32社が、その理由として真っ先に「地元活性化」を挙げた。具体的にどの業種に活気が出るのかを聞くと、「飲食業や宿泊業」と答えた社が多かった。
しかし、調査対象となった飲食・宿泊業6社を見ると、再稼働を望んでいるのは3社にとどまった。全基停止によって「売り上げが減っている」と答えたのは3社だった。
一方、再稼働に反対した16社の理由は多岐にわたった。福島第1原発事故を受け、リスクの大きさを危惧する社もあれば、国や東電に対する不信感を口にする社もあった。
「判断できない」「どちらでもいい」と答えた計18社のうちの多くは、活性化への期待と事故への不安とで揺れる心情を明かした。
「柏崎は原発があることで成り立っている。再稼働は必要だ。建設期の活気は戻らないだろうが…」(自動車部品製造業・63歳)
「原発はない方がいい。あるからといって、飲食店がもうかるわけでもない。ただ、動くだろうと諦めている」(飲食業・63歳)
■調査の方法
柏崎商工会議所の名簿に記載されている会員企業などを対象とし、産業別に計100社をコンピューターで無作為抽出した。10、11月に原則面談で聞き取った(一部は電話取材)。
産業ごとの対象企業数は、柏崎市の産業別就労人口(2010年国勢調査)の割合に応じて決めた。名簿記載の約2千社のうち、柏崎刈羽地区に本社や本店を置き、1985年以前に創業した企業など、約700社から対象を抽出した。
産業別の抽出数は農林水産 4▽製造 24▽建設 13▽卸売・小売 15▽金融・保険 2▽不動産 1▽運輸 4▽情報通信 1▽サービス 36(うち宿泊・飲食は6)。
柏崎原発 長期停止影響は限定的
柏崎・刈羽100社 「関係の薄さ」浮かび上がる
新潟日報 2015年12月14日
新潟日報社が行った柏崎刈羽地域の地元企業100社への聞き取り調査から浮かび上がったのは、柏崎刈羽原発と地元企業との関係の薄さだ。福島事故を受けた3年9カ月にも及ぶ柏崎刈羽原発の長期停止も、地元企業へのダメージは限定的だった。
調査では原発着工から30年以上の間、原発関連の仕事を受注したことが「ない」「記憶する限りない」と答えた社がサービス業、卸売・小売業を中心に全体の3分の2となる計66社に上り、原発立地地域の企業が原発関連の仕事を受注するケースが少ない実情が分かった。
こうした背景があるため、原発の長期停止の影響を感じていないと答えた企業が多かった。
原発全7基停止による売り上げの減少は「ない」と回答した企業も67社で、やはり約3分の2だった。
長期停止の影響を感じていない企業の中には、原発関連の仕事を定期的に受注したことがある14社のうち9社も含まれていた。
影響がない理由について、機械器具製造業の社長(54)は「原発が止まっていても、仕事の発注は止まっていない」と話す。原発構内の仕事がある建設業の社長は「むしろ売り上げが3~5倍に伸びている」と明かした。
残りの5社は、全基停止による影響が「ある」と答えた。ただ、年間売上高に占める売り上げ減の割合は「5%に満たない」(農業)、「1%以下」(建設業)などと見立てており、決して大きくはないようだ。
一方、原発関連の仕事をこの30年間に「定期的に受注」「何回か受注」と答えた企業計34社のうち、多くの社の受注額が年間売上高に占める割合は低かった。原発関連が売上高全体の6割以上という社が3社、1~4割という社が7社あったが、20社は「数パーセント」「わずか」などと答えた。
地域経済に対する原発の貢献度は決して大きいとは言えないにもかかわらず、再稼働を望む企業の多くが「原発が動けば、柏崎が活性化する」と期待する。柏崎市の経済団体が6月に市議会に提出し、採択された請願でも「柏崎地域の今後の振興・発展を望む上で原子力発電所の正常な事業活動は重要である」として早期再稼働を求めている。
しかし、冷めた見方もある。日本経済のために再稼働が必要と考える60代の建設業社長は「原発の稼働で町が活性化するなんてことはない。(経済の疲弊は)単純に人口減少と高齢化が原因だ」と言い切った。