2015年6月15日月曜日

避難指示地域の解除・損害賠償の打ち切りは認められない

 政府は12日、「居住制限区域」と「避難指示解除準備区域」の避難指示を2017年3月までに解除し東電による損害賠償を打ち切るとともに、16年度までの2年間、被災者の自立を集中支援するという閣議決定を行いました。
 現に避難指示が解除された他所でも帰還が殆ど進んでいない実情があるし、商圏自体を失った企業の再建や、避難に伴い住民がばらばらになったコミュニティーの再生は容易ではないのに、予め時期を区切って一方的に損害賠償を打ち切るというのは極めて身勝手な話です。
 それにもかかわらずこの問題を新聞やTVで殆ど取り上ません。あたかも政府や東電に理があるような扱いになっています。
 
 河北新報がこの件に関して3人の識者の意見を聞いています。
 13日、14日2人の指摘を紹介していますが、どちらも政府の態度を厳しく批判しています。
 賠償の打ち切りは簡単に実施されて良いようなものではありません。
  (15日に(下)の記事が公開されると思いますので、後刻追加します) 
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<原発賠償と分断>一律終了、理屈通らず
河北新報 2015年6月13日  
◎(上)福島大准教授・丹波史紀氏(41)
 
 東京電力福島第1原発事故の賠償指針などを盛り込んだ新たな福島復興指針が12日、閣議決定された。精神的賠償を一律に延長するなどの新方針をめぐり、避難区域では歓迎と反発が交錯、さらなる地域の分断を懸念する声もくすぶる。賠償と自立に向けた支援はどうあるべきか。専門家ら3人に聞いた。
 
 -新たな福島復興指針で賠償格差がさらに広がる懸念があります。
<不公平感生じる>
 「慰謝料は本来、避難に伴う精神的苦痛に対する賠償であり、帰還時期と無関係に支払われるなら理屈が通らない。分断が生じないようにとの配慮かもしれないが、理屈が成り立たないだけにかえって不公平感が生まれてしまう恐れがある」
 「慰謝料の支払いが始まった当初は、被災者の生活補償金としての性格もあった。本来なら補償金と慰謝料は別にすべきだった。事故から4年がたっても見直されず、矛盾が生じている。政策的な不作為の結果だ」
 
 -賠償格差による不満を縮小する手だてはありますか。
 「南相馬市では、市が自主避難を呼び掛けた原発30キロ圏外の住民に義援金などが支払われず、住民の不満が高まった。市は独自の見舞金を支給し、住民間のあつれき解消を図った事例もある。独自の支援策は選択肢になりうるが、金銭的賠償だけで地域の復興は進むとは思えない」
 
 -遅くても2017年3月までに帰還困難区域以外の避難指示を解除する目標が設定されました。
 「政府は放射線量が下がれば避難指示をすぐに解除できると考えている節がある。被災者が帰還できる環境が整わなければ避難指示を解除すべきではない。地域社会の再建をきちんと進めなければ、賠償を打ち切るための目標設定と受け止められても仕方がない」
 
 -事業者の自立支援を集中的に実施する施策も盛り込まれました。
<使い勝手が悪い>
 「復興庁によると、事業主の7割以上が60代以上で、全体の8割が事業再開できていない。避難先に住み続けるか、古里に戻るか見定められない人が多くいる。個人事業主にとって従来の支援メニューは使い勝手が良くなかった。営業損害賠償はあくまでもマイナスをゼロにするだけで、自立や再開は被災者任せにされてきた。ゼロからプラスに発展できる支援策が必要だ」
 「除染やインフラ復旧が進んでも、各種サービスを提供する事業者が帰還しなければ住民も戻らない。商工業者は、町内会や防犯活動など地域社会で果たしていた役割も大きかった。経済的な損失を補償するだけにとどまらず、事業者の公共的な役割に注目し、支援することが地域再建につながる」
(聞き手は福島総局・横山浩之)
 
[新たな福島復興指針] 居住制限、避難指示解除準備の両区域の避難指示を2017年3月までに解除し、住民に精神的賠償(慰謝料)を18年3月分まで一律に月10万円支払う。商工業者については15~16年度の2年間を集中的に自立支援施策を展開する期間と位置づけた。
 
[たんば・ふみのり]2004年3月から福島大行政政策学類准教授。専門は社会福祉論。同大うつくしまふくしま未来支援センターの地域復興支援担当マネージャーとして、福島県大熊町や浪江町などの復興計画策定に携わった。
 
<原発賠償と分断>一律終了、理屈通らず
河北新報 2015年6月14日
◎(中)元水俣病京都訴訟弁護団事務局長・尾藤広喜氏(67)
 
 -慰謝料の支払いを2018年3月分までとする新たな福島復興指針をどう評価しますか。
<指針目標ありき>
 「国が企業を守り、補償を少なくしようとする構図が水俣病と似ている。水俣ではチッソに補償問題が及んで操業に影響が出るのを避けるため、国は漁獲を禁止しなかった。福島は放射線量によって避難指示を3区域に分けたのに、今回の指針では目標ありきで、解除に当たっての線量評価が抜け落ちている」
 「早期の避難指示解除を目指す姿勢に、東京電力の負担を減らそうとする国の思惑を感じる。国は原発再稼働も推し進めようとしている。経済のためなら国民の健康や生活の犠牲は仕方ないとする国の姿勢は今も昔も変わらない
 
 -避難指示の解除時期にかかわらず慰謝料が一律になり、自治体間で分断が生まれています。
<国の意図感じる>
 「国が意図的に分断を生み出しているのではないか。官僚時代の経験からそう感じている。水俣では当時、地元住民が訴訟を起こそうと盛り上がっていた。敗訴を恐れた国が考えたのが住民同士の分断だ。旧厚生省が水俣へ入り、『国に一任すれば短期間で補償金を受け取れる』とあっせんに乗り出した。地元は『一任派』と『訴訟派』に分かれて対立した」
 「今回の指針では(田村市都路地区東部など)既に慰謝料が終了した地区で支払いが復活する。非常に不自然だ。国は一方を優遇し、他方を冷遇する構図を意図的につくり出している。損得感情が生まれると被害者は一致団結できなくなり、国へ働き掛ける力を失う」
 
 -東電は県内の商工業者に対する営業損害賠償を16年度までとし、その後は個別に対応する方針を示しました。
 「これも分断の一環に思えてならない。個別対応は使い古した手だ。交渉能力が低い力の弱い人は諦めてもらい、声が大きい人にだけ応じるということだ。納得できなければ裁判を起こしてもらい、負けたら支払うということではないか」
 「加害企業と国の行動パターンは常に同じだ。住民を押さえ込む方法を知っている。残念ながら被害者は初めての経験なので太刀打ちできない。福島は今が踏ん張りどころだ。県や自治体が意図的な分断に気づき、一体となって東電や国と対峙(たいじ)していかなければならない」
(聞き手は福島総局・桐生薫子)
 
 [水俣病] 熊本県水俣市のチッソ水俣工場からメチル水銀を含む廃水が海に排出され、生物濃縮された魚介類を住民が食べて神経疾患を発症した公害病。1956年に初めて被害が確認された。熊本、鹿児島両県が認定した患者は2277人(3月末現在)。現在も認定を求める裁判が続いている。
 
[びとう・ひろき1970年旧厚生省入り。水俣病をめぐる同省の対応に疑問を持ち退職し、75年京都弁護士会に登録。水俣病や原爆症の認定訴訟、生活保護関連訴訟などに関わっている。