経産省の有識者会合「長期エネルギー需給見通し小委員会」は1日、2030年に必要な電力の20~22%を原発、22~24%を再生可能エネルギーで賄うとする報告書案を大筋で了承しました。複数の委員から反対意見が出されましたが、最終的に委員長一任を取り付けました。2日から1カ月間意見公募を実施し、7月には正式に決定します。
まず問題になるのは再生可能エネルギー(以後「再生エネ」と略します)の比率の低さで、すでにある水力発電を除くと、風力発電と太陽光発電だけの合計は2030年の段階で僅かに9%弱に過ぎません。
これは再生エネの割合が2014年度上半期で、ドイツ30%、スペイン50%、イタリア40%、デンマーク40%など、欧州の現状に比べて異常に低い値です※。中国でも現在ものすごい勢いで再生エネの比率が伸びています。
※ 5月27日 自然エネルギー発電が決定的に遅れている日本
現状は、全原発が停止中でも電力は十分に賄えているのですから、コストメリットもなく危険で問題山積の原発は当然ゼロになるべきものです。それを敢えて20~22%という高比率にするために、再生エネの比率を世界の趨勢に反して異常に抑制したものと思われます。
そもそも経産省の提案は、政府が昨年4月にまとめたエネルギー基本計画:「可能な限り原発への依存度を引き下げ、再生エネを拡大する」にも反する「公約違反」のものです。
東京理科大の橘川武郎教授と名古屋大大学院の高村ゆかり教授は経産省の提案に反対を表明しましたが、同省がメンバーを選んだ小委員会なので多勢に無勢で押し切られました。
ところで原発の運転期間の限度を40年にすれば2030年には自然に比率が15%程度に下がるのに、なぜ20~22%なのでしょうか。それは40年を超えた原発を次々と20年延長させて運転することを想定しているからです。このままいくと2030年段階では、運転期間が40年超の原発が1/3を占めているという数値になります。
中性子アタックに曝されている超高圧容器=原子炉を40年間も使い続けるということですら危険な綱渡りなのに、それを60年運転を常態にしようというのですから常軌を逸しています。規制委はどんな根拠でそれを認めようというのでしょうか。
経産省は原子力ムラの利権を維持するために住民はおろか国自体を危険に晒そうとしているのに、有識者会議である小委員会もそのことを阻止できないという構図になっています。
老朽原発を使い続けるのではなく原発の新設、増設を視野に入れたものという見方もあります。それもまた何のメリットもない原発を、「ムラ」の利益の維持のために敢えて作り続けようという話にほかなりません。
北海道新聞の社説を紹介します。
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電源構成案 原発優先は「公約違反」
北海道新聞 2015年6月4日
経済産業省の長期エネルギー需給見通し小委員会が、2030年の電源構成比率で、原発を20~22%、再生可能エネルギーを22~24%とする政府案を了承した。
意見公募を経て、7月中にも正式決定される。
原発維持を優先したエネルギー政策の将来像が、このまま決まってしまうのは納得できない。
東京電力福島第1原発事故の反省を踏まえ、原発に頼らぬ社会を目指す民意にも反している。
一部委員は、再生エネの導入を最大限加速し原発依存度を可能な限り低下させるとうたった安倍晋三政権のエネルギー基本計画との食い違いを指摘し、「公約違反」と批判した。正論である。
そもそも、原発比率20~22%という想定自体がおかしい。原発の運転期間を原則40年に制限するルールを厳密に適用すれば、30年には比率は15%程度に下がる。
1回に限って最大20年の延長が認められるが、原子力規制委員会の田中俊一委員長は「相当困難」との見方を示した。
あくまでも例外である40年超の運転を前提とした政府目標は、福島の事故の教訓から独立性を与えられた規制委の審査に対して圧力となる恐れもある。
政府は、電力各社が安全対策を強化することで、過酷事故の発生確率は低下すると主張する。
だが、政府の想定通りであれば、30年には多くの老朽原発が稼働することになる。そんな状況で、なぜ事故リスクが減るのか、国民は理解に苦しむだろう。
規制委の有識者調査団は、北陸電力志賀原発(石川県)の敷地内に活断層がある可能性を指摘した。評価が確定すれば、活断層認定は3例目で再稼働は困難だ。
こうなると、原発比率の目標達成を理由に、経産省が近い将来、原発新増設を持ち出してくるのは想像に難くない。
再生エネの比率は原発をわずかに上回っただけだ。固定価格買い取り制度で電気料金に上乗せされる賦課金の負担を抑えるため、太陽光と風力が抑えられた。
しかし、20年間の買い取り期間が終了すれば、賦課金は減少していく。輸入に頼る化石燃料とは異なり、国産の再生エネに投じられた資金は、自治体や地域住民を含む国内事業者に回る。
政府案は、こうした可能性にあえて背を向けている。
最初から「原発ありき」の審議会方式で、エネルギー政策の議論を終わらせてはならない。