2022年10月10日月曜日

劇作家・谷賢一さんが双葉町に移住 新作12月上演へ

 19年に原発誘致から事故までの半世紀をを描いた作品「福島三部作」を書き上げ年間最優秀作を選ぶ「鶴屋南北戯曲賞」新人劇作家の登竜門「岸田国士戯曲賞」をダブル受賞した石川町出身の劇作家谷賢一さん(40)今月、東京都から双葉町に移住しました。

 12月に移住後初の新作を南相馬市小高区で上演する予定です
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双葉で描く新物語 劇作家・谷賢一さん移住、新作12月上演へ
                            福島民友 2022/10/9
 東京電力福島第1原発事故を題材にした演劇作品を送り出した石川町出身の劇作家谷賢一さん(40)は今月、東京都から双葉町に移住した。作品の舞台となった町で取材を重ねるうちに「双葉が好きになった。演劇屋として何ができるか、ワクワクしている」。ゼロから立ち直る町から演劇を発信し、双葉に多くの人が集まるきっかけをつくる。12月には移住後初の新作を南相馬市小高区で上演する予定だ。

 谷さんは小学校入学前まで石川町で暮らし、その後は千葉県柏市で育った。母は浪江町出身、父は福島第1原発など全国各地の原発で働く技術者だった。幼少期、出張帰りの父から「原発には最先端の技術があるんだ」と聞かされ「原発ってすごいんだ」と感じた。
 しかし、原発に対する良い印象は複雑に変化していく。高校生の頃、茨城県東海村の核燃料加工会社で作業員が死亡する臨界事故が起きた。父も仕事で出入りしており「親父(おやじ)も死んでいたかもしれない」と思った。大学在学中に劇団を旗揚げし、2007(平成19)年にはチェルノブイリ原発事故を扱った作品を書いた。
 11年3月11日、福島第1原発で起きた事故はなおさら人ごとに思えなかった。「僕も親父が稼いだ原発マネーで育った」からだ。なぜ福島に原発ができたのか、なぜ事故は起きたのか―。まだ立ち入りが制限されていた双葉町に何度も入り、取材を重ねた。
 19年に原発誘致から事故までの半世紀を巡る政治、経済、人々の姿を描いた作品「福島三部作」を書き上げた。6時間に及ぶ超大作は新人劇作家の登竜門「岸田国士戯曲賞」と、年間最優秀作を選ぶ「鶴屋南北戯曲賞」をダブル受賞した。
 作品完成後も双葉町に足を運んだ。「双葉を放っておけなかった。実際に住んでみて大変なこと、楽しいことを体感したい」。一部の避難指示が8月30日に解除され、JR双葉駅西側に町営住宅ができると知り、移住を決断。都内に妻子を残し、単身で移り住んだ。
 早速、新作に取りかかった。12月に予定する初上演は、南相馬市小高区に住む作家柳美里さんが主宰する演劇ユニット「青春五月党」の協力を得る計画だ。

若者受け入れ準備
 双葉町に人を集めるため一般社団法人「福島ENGEKI BASE」の設立準備も進めている。演劇に関わる若者が集い、稽古と宿泊ができるよう受け入れ態勢を整えていく考えだ。
 「今の双葉に演劇は求められていないのかもしれない。飲食店の方が欲しいでしょ。でも、僕は演劇しかできない。たくさんの人が集まって、楽しんで、双葉に活気が戻る姿は見せられるはず」。再起した双葉から、新たな物語が始まろうとしている。(渡辺晃平)

 たに・けんいち 石川町出身、千葉県柏市育ちの劇作家、演出家、翻訳家。明治大文学部で演劇学を専攻。英国に留学し、ケント大で演劇学を学んだ。帰国後、明大在学中に劇団「DULL‐COLORED POP(ダル・カラード・ポップ)」を旗揚げした。古典悲劇からミュージカルまで幅広い作品を手がけている。  谷さんの写真 
 https://news.yahoo.co.jp/articles/cb78ce5e1abeebb82cf247c01eb7ff2000651ddc/images/000 

富岡町3・11を語る会 演劇祭を初開催へ
 NPO法人「富岡町3・11を語る会」は来年1月20~22日の3日間、富岡町の文化交流センター学びの森で「富岡演劇祭」を初めて開く。谷さんも参加する。演劇を通じて交流人口を拡大し、地域のにぎわい創出につなげたい考えだ。
 近く出演団体の募集を始め、5団体を選ぶ見通し。演劇祭の2日目には「演劇は町を元気にできるか」をテーマにシンポジウムを開き、谷さんのほか、ふたば未来学園中・高の活動を応援している劇作家平田オリザさんが登壇する。
 同NPOは、人と人とのつながりを生む機会をつくろうと、2017(平成29)年から演劇キャンプを毎年開催するなど、芸術文化を通じた東日本大震災と原発事故の伝承活動に取り組んでいる
 代表の青木淑子さんは「復興には人のつながりの輪を広げることが大切。その良い機会になってほしい」と期待する。
 問い合わせは同NPO富岡事務所(電話0240・23・5431)へ。