原則40年、最長でも60年とされている原発の運転期間の延長について、経産省資源エネルギー庁の審議会で検討が進められています。
経産省は今月、運転期間の延長に向けて法整備を検討する方針を明らかにしたのに対して、原子力規制委の山中伸介委員長は「利用の在り方に関する政策判断」だとして「規制委が意見を述べる立場ではない」と容認しました。
この運転年限の削除は岸田首相が打ち出した原発推進政策に基づくものですが、老朽原発を酷使しようとするもので危険極まりなく全く合理性もありません。
しんぶん赤旗が報じました。
原子炉等規制法は福島原発事故後の12年に、それまで定めのなかった原発の運転期間を原則40年とし、規制委が認めた場合1回に限り最長20年の延長を認めるとされました。
運転期間の導入は原発の安全にかかわる問題で、制定の当時は20年延長するのは例外的措置と思われていたのですが、現実には悉く延長が認められるという事態になっています。
原発の原子炉は核分裂時の高エネルギーの中性子を浴びて激しく劣化します。どんな金属も極低温下(マイナス数十℃)では靭性を失い脆くなるもので、その境界温度は脆性遷移温度と呼ばれ、原子炉では本体の劣化を示す指標となります。原子炉は、その程度を確認するために炉の内壁に金属の試験片を装着してその脆性遷移温度を定期的に測定しています。
九電・玄海原発1号機では、2009年(運転開始34年後)に脆性遷移温度が+93℃にまで急上昇しました。井野博満・東大名誉教授(金属材料学)が、これでは緊急冷却時に原子炉が破裂する危険性があると指摘した結果、知事や町長が危険性を認識し、紆余曲折を経て2015年に廃炉が決まりましたが、その後原発側は「脆性遷移温度」のデータを公表しなくなりました。 ⇒(18.9.10)老朽原発の再稼働はあまりにも危険すぎる
原発の老朽化問題に詳しい井野教授は、「原子力規制庁とのヒアリングなどで、規制庁は審査で元データを確認していないし、評価の仕方も事業者まかせということが分かりました。いいかげんな審査です。非常に危ういです」と指摘します。
実際に九電は川内原発1、2号機の20年運転延長を申請しましたが、運転延長に必要な特別点検を検証する鹿児島県原子力専門委員会分科会の委員からは「原子炉容器の説明が不足している」という不満が続出しました。
⇒(10月18日)鹿児島県専門委の分科会で委員から不満 川内原発運転延長申請に
(試験片は年限30年程度を想定していた筈なので、最近の定検では試験片テストは行われていないのではないかと思われます)
万一運転中に破裂事故などを起こせばその被害は福島事故の比ではありません。電力会社が採算の観点から長く使いたいというのは単なる希望に過ぎないので、原子炉の強度の保障が得られないままで延長を認めるべきではありません。経産省は米国は80年を認めていると言いますが、実際の長期運転は最長でも50年超です。そもそも地震国の日本がそんな米国の冒険を参考にすべきではありません。
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原発60年超運転延長検討
リスク増、不安定な供給源 寿命が近づけばトラブル増える
しんぶん赤旗 2022年10月24日
原則40年、最長でも60年とされている原発の運転期間の延長について、経済産業省資源エネルギー庁の審議会で検討が進められています。運転期間の延長は原発の新増設などとともに岸田文雄首相が打ち出した原発推進政策の一つです。エネルギーの安定供給や気候変動対策を理由にした老朽原発の酷使は、危険で全く合理性もありません。 (松沼環)
経産省は今月、運転期間の延長に向けて法整備を検討する方針を明らかにしました。
これに対し、原子力規制委員会の山中伸介委員長は、原発の運転期間について「利用の在り方に関する政策判断」だとして「規制委が意見を述べる立場ではない」と、経産省の方針を容認し、原則40年とする原子炉等規制法の規定を削除する可能性にふれています。
しかし、原発の運転期間の定めは、東京電力福島第1原発事故の教訓として定められたものです。第1原発1号機は、東北地方太平洋沖地震が発生した2011年3月に稼働から40年になる予定でしたが、同月12日に建屋が爆発。その後、2~4号機でも炉心溶融や建屋が爆発する事態となりました。
原子炉等規制法は12年に改定されました。原発の運転期間を原則40年とし、規制委が認めた場合1回に限り最長20年の延長を認めるとされました。当時の民主党政権と自民・公明党が合意し、それまで定めのなかった原発の運転期間が導入されたのです。
当時、野田佳彦首相は、「経年劣化等によりその安全上のリスクが増大することから」「リスクを低減するため」運転期間を制限したと答弁(12年5月)。40年としたのは、原発の設計上の評価が40年の使用を想定して行われていることが多いことなどを理由としました。運転期間の導入は原発の安全にかかわる問題です。
「投資の回収厳しくなる」
原発の運転期間が導入されると、電力業界や財界は、その撤廃を繰り返し要求してきました。
経団連は19年、原発の運転期間を最長60年より延ぱすことや、審査などによる停止期間を運転期間に含めないよう求める提言を発表しています。
電力各社でつくる電気事業連合会(電事運)は、原発を再稼働させるための投資の「回収見通しが厳しくなる」と、運転期間制度の見直しを要求していました。
経産省も今月の規制委の会合で、運転機関の制限が再稼働の妨げになるのは「よろしくない」と推進の立場を押し出しています。
老朽化した原発の原子炉は、高エネルギーの中性子を浴び続けたことで粘り強さを失い、もろくなります。もろくなった原子炉に事故などにより緊急炉心冷却装置(ECCS)が作動した場合、冷却水が一気に注水される衝撃で、原子炉がガラスのように割れる危険性が増大します。
また、運転による放射線や温度、圧力変化で配管や機器は腐食や疲労が発生し、劣化します。04年に関西電力美浜原発3号機で、老朽化が原因でタービン建屋の配管が破断する事故が起き作業員5人が死亡、6人が重傷を負っています。
運転していなくても、コンクリートやケーブルの被覆などの劣化が進みます。
古い原発は設計の古さも問題です。規匍委の田中俊一元委員長は「40年前の設計は、やはり今これからつくろうとする基準から見ると、必ずしも十分でない」(12年9月)と発言しています。
評価の仕方も事業者まかせ
現在の規制では、運転開始40年を前に、事業者が特別な点検を実施し、延長期間の耐震性などを評価。それを元に規制委が審査をしています。しかし、特別点検では実際には確認できない箇所もあります。
原発の老朽化問題に詳しい井野博満・東京大学名誉教授(金属材料学)は、「原子力規制庁とのヒアリングなどで、規制庁は審査で元データを確認していないし、評価の仕方も事業者まかせということが分かりました。いいかげんな審査です。非常に危ういです」と指摘します。
老朽原発を酷使すれば、事故の危険性が高まります。政府は電力の需給ひっ迫を運転延長の理由に挙げていますが、老朽原発は事故・トラブルも多くなり、電力の供給源としてはより不安定になります。
老朽原発が何らかの原因で停止した場合のバックアップの電源として火力発電の維持が前提となるので、気候危機対策にも貢献しません。
再生可能エネ普及の妨げに
米国では、米原子刀規制委員会(NRC)が、多くの原発で60年運転を承認し、一部の原発の80年運転を承認していると経産省は資料を示しますが、実際の長期運転は最長でも50年超です。原発の老朽化対策にコストが掛かる一方、メンテナンスや工事によって稼働率が低下するため、多くの老朽原発が経営的な判断で停止・廃炉となっているのです。
日本は地震などの危険性が高いためよりリスグがあると考えられます。更田豊志・前規制委員長は「高経年化に関していうと、必ずしも海外の事例が直接参考になるわけではない。例えば、地震一つをとっても置かれている状況が全然違う」(22年8月)と発言しています。
原発依存は、気候危機対策や電力の安定供給にとって急がれる再生可能エネルギーの大量普及の大きな妨げにしかなりません。
元東芝の原子炉格納容器設計者、後藤政志さんは
「規制委は原発の寿命40年と決めたのが科学でなく、政治的に決めたと言っています。しかし、設計する立場から言えば、何年持たすのか決めなければ、設計できません。原発は最初30年、それが40年寿命で設計されてきました。寿命はピタッと決められませんが、寿命が近づけば、機器のトラブルが増えリスク増大しでいく、これは科学です。古い炉は設計思想も古く、よりリスクが高い。使い続けるべきではありません」と話しています。
原発の運転期間延長、規制委・山中委員長「規制緩めぬためにきちんとした制度設計必要」
読売新聞 2022/10/24
原子力規制委員会の山中伸介委員長が読売新聞のインタビューに応じ、政府が議論を進めている原子力発電所の運転期間の延長について「規制を緩めないためには、きちんとした制度設計が必要だ」と述べた。現在は「原則40年、最長60年」の運転期間が「60年超」となった場合の新たな安全規制の策定に、意欲を示した。
原発の運転期間を巡っては現在、原子炉等規制法で原則40年と定められており、規制委が認可した場合は1回に限り最長20年の延長ができると規定している。一方で規制委は2020年、運転期間について「政策で定められたもので規制委が意見を述べる事柄ではない」との見解も公表している。
山中氏は「我々が意見を申すことができない(運転期間に関する)利用政策側の規定と、きちっと守っていかないといけない高経年化(した原発)の安全規制の定めが(炉規法の)同じ条項の中に入っていること」が課題だと指摘した。
その上で新たな制度設計が必要だとし、運転期間が「60年超」になった場合は定期的な原発の安全性の確認が重要で、その期間については「委員の間で議論をしないといけないが、10年が一つの目安」と述べた。
山中氏はまた、「高経年化した炉に対しても当然(新しい知見を)適用していく」と強調。安全性の立証に責任を負う電力会社にとって規制のハードルが高くなるとの見通しを示した。