2022年10月4日火曜日

トリチウムを検知できない線量計で処理水の安全性を誇張 東電

 東京新聞が、東電はこれまでこれまで視察ツアー参加者などに、放射性物質のトリチウムが検知できないうえに、セシウムについても高濃度でないと反応しない線量計を使い処理水の安全性を強調する宣伝をして来たことを明らかにしました。
 対象者は20年7月から約1300団体・1万5000人に上ります。東電の欺瞞体質はここでも健在です。
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東電、トリチウムを検知できない線量計で処理水の安全性を誇張 福島第一原発の視察ツアーで
                         東京新聞 2022年10月3日
 東京電力が福島第一原発の視察者に、放射性物質のトリチウムが検知できないうえに、セシウムについても高濃度でないと反応しない線量計を使い処理水の安全性を強調する宣伝を繰り返していることが本紙の取材で分かった。専門家からは「処理水の海洋放出に向けた印象操作と言われても仕方ない」と批判が出ている。(山川剛史)
 処理水は、原子炉内に溶け落ちた核燃料の冷却で出た高濃度汚染水を少なくとも2回除染し、基本的には微弱なベータ線を発するトリチウムを含むだけの状態にしたもの。トリチウムは除染設備でも除去できない。
 視察ツアーでは、放出基準の約15倍のトリチウムを含む処理水入りのビンにガンマ線のみを検出する線量計を当てて反応のない様子を示す。東電によると2020年7月から約1300団体・1万5000人に見せている。本紙は先月14日の取材時に説明を受けた。
 担当者は、建屋の高濃度汚染水に含まれる放射性物質のうち、ガンマ線を発するセシウムなどは除去し、処理後の水は周囲の放射線量と同等になっていると説明したが、ベータ線用の測定器を使っていない以上は「線量計を反応させるほど高濃度のセシウムは含まれない」ことがいえるにすぎない。
 元京都大複合原子力科学研究所研究員の今中哲二さんは「トリチウムのエネルギーは弱い。ろ紙などに染み込ませてベータ線測定器を当てても、もっと濃度が濃くないと反応は出ないだろう」と指摘。東京大大学院の小豆川しょうずがわ勝見助教(環境分析化学)は「科学的には全く無意味。ガンマ線はセシウムだと1リットル当たり数千ベクレル入っていなければ線量計は反応しない。セシウムが放出基準(同90ベクレル)の数十倍入っていても『ない』印象を与える」と話した。
 東電は取材に「実演は、外部被ばくで人体に影響を及ぼすガンマ線が低減されていることを説明するのが目的。ベータ線を発するトリチウムが、放出基準値を超えていることも説明している」と主張。実演のあり方については「さまざまな工夫をしながら取り組む」と述べるにとどめた。
【関連記事】汚染水を浄化しても残るトリチウムとは? 世界中の原子力施設で海洋放出、環境への蓄積で内部被ばくの懸念も

◆解説 本当に処理水への理解を得る気があるのか
 東京電力が、福島第一原発の処理水の安全性をアピールする実演で、放射性物質のトリチウムが検知できない線量計を使っていた。東電は以前にもマスコミ向けに非科学的な実演をして問題になった。同じ実演を多くの視察者に見せ続ける東電の姿勢には、本当に処理水への理解を得る気があるのか疑わざるを得ない
 専門家が指摘する通り、東電の実演では、ベータ線についてもガンマ線についても、何ら検証をしたことにならない。確認のため、記者が放出基準の約19倍の放射性セシウムを含む水に、実演で使われたのと同機種の線量計を当ててみたが反応はなかった
 にもかかわらず、こんな手法で処理水の安全性を強調したのでは「印象操作」「うそ」と受け取られても仕方ない。最近の一般向け視察で実演を見せられた福島県南相馬市の女性は、本紙の取材に「東電への不信感がまた強くなった」と話した。

 福島第一原発の汚染水の処理で、東電は漏水事故を繰り返さないよう耐久性のある溶接型タンクを造り、ためている水も現在の技術でできるだけリスクを減らす努力をしてきた。現地で愚直に努力を続ける姿を見せることが、処理水への理解を得る最も近道だろう。(山川剛史)