2022年10月11日火曜日

狡猾な官邸官僚の原発解散戦略 古賀茂明氏が警告

 岸田首相は唐突に8月、これまで認めていなかった原発の新増設について年末までに検討するよう指示しただけでなく、電力不足を煽り安全でクリーンで安価だという触れ込みで「次世代原発」なるものも打ち出していますが、識者によればそれはとても間拍子に合うものではなく、別に安全性が増すというものでもありません。

 そもそも冬は電力が逼迫することはなく、逼迫するとしても一部地域で夏場の数日間起きるかどうかで、火力発電を加勢させるか節電対策を行うかでしのげるものです。
 元経産官僚の古賀茂明氏によれば、岸田首相の首席秘書官に登用された元経産省事務次官の嶋田隆氏が周囲に語った内容から類推すると、嶋田氏はおそらく「電力不足」キャンペーンで国民を騙すことができ、(冬や夏のピーク時に「停電すれば死人が出る」と叫び、緊急事態に限って再稼働を認めるべきだとする法案を出そうとしているのではないかということです。
 そのとき野党が少しでも抵抗すれば、直ちに衆議院を解散することを考えているのではと述べました。そしてこうした官邸の猿芝居に騙されてはならないと警告しました
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9月24日)柏崎刈羽原発の超法規的再稼働 官邸(嶋田隆首相秘書官)が密かに計画
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狡猾な官邸官僚の原発解散戦略
                      古賀茂明 AERA dot. 2022/10/4
                         週刊朝日 10月14-21合併号
 9月9日号の本コラムで紹介したとおり、岸田文雄総理は8月に、これまで認めていなかった原子力発電所の新増設について年末までに検討するよう指示し、原発政策を事実上大きく変更した。
 その後も政府は、電力不足を煽り、安全でクリーンで安価だという触れ込みで「次世代原発」なるものを必死に世の中に売り込んでいる
 こうした原発推進政策は、一般には、「電力不足」への対応だと理解されているが、「不足」と言っても、冬や夏の一部地域の数日間の需要のピーク数時間だけのことである。本気で節電対策などを行えば「停電」などは容易に回避でき、原発にこだわる必要はない
 岸田内閣は、旧統一教会スキャンダルや安倍晋三元総理の国葬への批判、五輪スキャンダル、そして円安とインフレなどで満身創痍状態。支持率は内閣発足後最低水準だ。それにもかかわらず、不人気政策である原発推進の姿勢を鮮明にしているのはなぜだろうか。
 実は、9月上旬、私は岸田文雄総理の首席秘書官・嶋田隆氏が周囲に語った内容を記したメモを入手した。
 そのメモの詳細は省略するが、最大のポイントは、東京電力の柏崎刈羽原発(新潟県)を原子力規制委員会の最終承認や地元新潟県の同意がなくても、国が前面に出て再稼働させるという話だ。そのためには特別の法律が必要になるが、それを国会で通すという。さらに、これを東電にあらかじめ約束する代わりに、東電が来年春に行うと見込まれる電力料金値上げのうち、家庭用の値上げを止めさせる取引を行うという話も書いてある。
 規制委の権限を乗り越えて政府が勝手に原発再稼働を認める法律など言語道断だが、それも「一気に国会に議論してもらう」とメモにはある。経済産業省の事務方トップの事務次官まで務めた大物秘書官である嶋田氏らしい強気の姿勢だ。
 果たせるかな、9月16日に東電は、2023年4月から法人向け標準料金を値上げするが、家庭向けの値上げはしないと発表した。しかも、柏崎刈羽原発7号機の来年7月からの再稼働を織り込んで「顧客の負担軽減」につなげると説明している。メモに書いてあるとおりだ。
 何とも驚きの強引なシナリオだが、そこには、「電力不足対策」という表向きの理由とは別に、二つの隠された狙いがあると私は見ている。
 一つは、東電の取締役も経験し、秘書官就任前は次期東電会長の筆頭候補と噂された嶋田氏の悲願である東電再生である。すでに建設された柏崎刈羽原発を再稼働させれば、燃料費が浮き、経営の大幅改善が可能となるのだ。
 もう一つの狙いは、原発再稼働を国会での争点にすることだ。意外に思うかもしれないが、嶋田氏は、おそらく、「電力不足」キャンペーンで国民を騙すことができると考えているのだろう。冬や夏のピーク時に、「停電すれば死人が出る」と叫び、緊急事態に限って再稼働を認めるべきだとして、そのための法案を出せば、国民の多くは、賛成するという読みだ。野党が少しでも抵抗すれば、直ちに衆議院を解散する。前号で書いた「ジリ貧追い込まれ解散」に比べればはるかに勝利の確率が高まるという計算だ。
 国民は完全に馬鹿にされている。官邸の猿芝居に騙されてはならない。