岸田首相は8月の「第2回GX実行会議」で、原発の活用に前向きな姿勢を示し、今冬には最大9基の原発を再稼働することも表明しました。
経営コンサルタントの大前研一氏は、福島第1原発事故当時の担当大臣であった細野豪志環境相に頼まれ、原発事故の原因を独自調査し200ページ以上の報告書をまとめました。そのなかで“原子力ムラ″の傲慢と怠慢を指摘しましたが、現状の政府主導の“いい加減な原発再稼働”にも警鐘を鳴らします。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
原発再稼働の前にやっておかなければならない「福島第一原発事故の3つの総括」
大前研一 マネーポストWEB 2022/10/22
週刊ポスト2022年10月28日号
岸田文雄・首相は8月の「第2回GX実行会議」で、原子力発電の活用に前向きな姿勢を示した。首相は電力不足解消の手段として、今冬には最大9基の原発を再稼働することも表明しているが、経営コンサルタントの大前研一氏は、現状の政府主導の“いい加減な原発再稼働”に警鐘を鳴らす。再稼働する前に必要な、2011年3月11日の東日本大震災で起きた福島第一原発事故の「3つの総括」について、大前氏が解説する。
* * *
1つ目は「政府説明の嘘」である。福島第一原発を建設した際、政府は地元の地方自治体に対してどのような説明をしたのか、そのどこが虚偽だったのか、実態はどうだったのか、自治体との関係をどう直すのか、ということを明らかにしなければならない。
2つ目は「東京電力の嘘」である。当時、東京電力は事故の状況を毎日発表し、枝野幸男官房長官が鸚鵡返しで記者会見していたが、それは真実ではなかった。では、どこに嘘があったのか? 東京電力に聞くと「正直に発表していたのにマスコミが伝えてくれなかった」と言い訳した。しかし、それが本当だという証拠はなく、本当だとしても十分ではなかった。したがって、万一同様の事故が起きた時にどういう発表の仕方をするべきなのか、という総括が必要なのだ。
そして3つ目は「政府・自治体と地元住民とのコミュニケーション」である。政府・自治体と地元住民のコミュニケーションは適切に行なわれていたのか、住民の避難は何に基づいて判断したのか、という問題だ。適切でなかった場合は、その原因を追究し、適切なコミュニケーションのルールと判断基準を明確にした避難方法を定め、住民の安全を担保しなければならない。
私は福島第一原発事故の原因を独自調査した。当時の担当大臣でもあった細野豪志環境相に頼まれたからである。その報告書は200ページを超え、英文でも公表している。また、著書『原発再稼働「最後の条件」』(小学館/2012年)には写真や図も盛り込んで一般の人にもわかりやすくまとめた。その中では、津波による全電源喪失を想定していなかった“原子力ムラ(原発利権によって結ばれた政治家・企業・研究者の集団)”の傲慢と怠慢を指摘し、実施すべき安全対策や必要なアクシデント・マネジメント(事故対応)体制などを提言している。
11年眠っていた旧車で高速走行?
しかし、政府と東京電力は事故から11年以上経過しても前記3つの問題を総括していないため、まだ大半の国民は原発に対して恐怖感や忌避感を持っている。真摯な総括・反省をしない限り、再稼働に進んではいけないのだ。
私が再稼働に反対するもう1つの理由は、元・原子炉設計者から見て工学的なリスクが非常に高いと思うからだ。原子炉は稼働から40年以上経過しているものが多数あり、それが11年以上も止まっていたわけだが、もし40年前に製造されて車庫に11年間眠っていた自動車を動かし、フルスピードで高速道路を走ったらどうなるか? どんなトラブルが起きるか、わかったものではないだろう。
しかも、原子炉は“配管の化け物”だ。極めて複雑な構造で、自動車とはわけが違う。にもかかわらず、政府は運転期間を30年から40年に延長し、さらに原子力規制委員会の認可を受ければ1回に限り60年まで延長できるようにした。耐用年数ではなく運転期間だから停止していた期間は差し引かれるが、それで大丈夫かどうかは何のテストも実証もされていない。ましてや11年以上も止まっていた原発を再稼働した例は、世界にないのである。
さらに、電力会社と原子炉メーカーに建設時の責任者やエンジニアはもういない。福島第一原発事故当時にいた人たちも11年間で代替わりし、“原子力ムラ”(※原発利権によって結ばれた政治家・企業・研究者の集団)は無責任体制のままである。
もし私が首相だったら、3つの総括をして原子炉の工学的な安全性とリスクを国民に説明する。その上で2年ごとに担当が代わる役所の旧弊を廃止し、責任を持てる原子力行政の確立を誓って国民に理解を求める。
“ど素人”の岸田首相が再稼働したければ、すればよい。だが、総括も説明もないまま、なし崩しに再稼働することは危険であり、許されない。しかも、万一事故が起きた時に首相官邸で指揮を執るのは誰なのかさえ決まっていない。そんな状況で前に進んだら、地元住民をはじめとする国民の理解は得られないだろう。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2022-23スペシャル』(プレジデント社刊)など著書多数。
原発運転30年超は、10年おきに認可も
共同通信 2022/10/21
原子力規制委員会の山中伸介委員長は21日、共同通信の単独取材に対し、運転開始から30年を超える原発については、10年おきに認可をする新たな制度が想定されるとの考えを示した。