31日のJBプレス紙に「米国で一転、急速な広がり見せる原発不要論 安全面でもコストでも全く割に合わない」と題する堀田 佳男氏(ジャーナリスト)の記事が掲載されました。
「米国内では福島の原発事故後、政治的・社会的な反原発の圧力が急速に強まり、原発への規制が強化され、安全対策のにコストが増加した。その一方天然ガスや石炭の価格は下落したので、もう原発にはコスト面でも安全面でもメリットがなく、この先20年間に43基が廃炉になって終焉を迎えるだろう」、というものです。
アメリカは1979年にスリーマイル島原発で「レベル5」の事故を起こしたため、その後約30年間原発の新設を中止しました。それは、いまなお膨大な放射能を海に空に撒き散らしている福島原発のおそらくは10分の1にも満たない規模の事故でしたが、原発推進の本元のアメリカでもそれだけの自制をしました。
それに対して日本は、事故後僅か2年で、まだ事故が全く収束していないにもかかわらず、政・財・官界を挙げて原発の再稼動へと走り出しています。
もしも海外から、「まずは海への流出だけでも止めてからにしたらどうだ」と言われたら一体どう答えようというのでしょうか。
また記事は、ニューヨーク市の東に位置するロングアイランドに、スリーマイル島事故のあとに完成した原発に稼動の許可がおりなかったために、新規の原発が1ワットの発電もすることなく廃炉に向かうことになった例をあげ、対照的に日本の規制委が再稼動の審査に当たり、政財官界の圧力にどれだけ耐えて本当に安全性を第一義に判断できるか疑問であるとしています。
以下に事務局で作成した要約版を紹介します。
原記事には記載のURLからアクセスして下さい。
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米国で一転、急速な広がり見せる原発不要論
安全面でもコストでも全く割に合わない
(事務局要約版) JBプレス紙 2013年7月31日
堀田 佳男 ジャーナリスト
先日、ジョージ・W・ブッシュ政権で官僚をしていた米国の知人から来たメールに、「原発はもう終焉を迎えることになるでしょう。事故を起こした時のコストを考慮すると、原発は割が合いません。天然ガスや石炭の方が今は安価ですから」と書かれてあった。
原発推進から一転、米国の風向きが変わった
採算が悪化し始めたことで、米国の原子力産業は廃れていく運命にある。
米国政府は1979年のスリーマイル島の原発事故で、原発の安全性は完璧ではないということを認識し、以後長期間にわたって新規原発の建設を控えてきた。日本の電力会社が信奉してきた安全神話とは逆の立場である。
しかしスリーマイル島事故から30年目の節目を迎える2008年ころから変化し始め、連邦議会は180億ドル(約1兆8000億円)の原発建設用の予算を計上し、2009年初頭までに米国内の電力会社は31基の新規建設を申請した。ちょうど先物市場が活況を呈し天然ガスや石炭などの値段が急騰していた時期で、原発がコスト的にも割安であると考えられたためである。
今後20年以内に43基が廃炉に
しかしシェールガス革命の到来で事態は一変し、天然ガスの価格は急落し、石炭価格も同じように下落した。さらに福島の原発事故の余波の大きさと復興処理費を見て、原発は「ペイしない」との結論にたどり着いた。
結局、新規建設に踏み切ったのは31基のうち4基だけであり、その4基は州議会が建設にゴーサインを出してもう止められない状況にあった分である。
米国内には福島の原発事故後、政治的・社会的な反原発の圧力が急速に強まった。
事故が発生した時の莫大な処理費は無視できない。それで規制が強化され、安全対策にさらにコストがかかる。一方天然ガスや石炭の価格は下落したので、もう原発にうま味を見いだせなくなってきた。今後20年以内に43基の原発が停止するだろう。
安全性よりも目先の利益しか考えない日本の電力会社
米国が原発の危険性を認識して縮小方向に向かう一方で、日本では7月初旬、東京電力を除く電力4社(北海道電力、関西電力、四国電力、九州電力)が計10基の原発再稼働を原子力規制委員会に申請した。
福島の原発事故がいまだに収束していない中での申請は、安全性よりも目先の利益にすがりついた電力会社の浅薄さと言って差し支えない。申請の審査に数カ月間が必要になるが、原子力規制委が本当に安全性を第一義に判断できるだろうか疑問である。財界の圧力にどれだけ耐え、独立した判断を下せるかは正直なところ分からない。
その点アメリカは違っていた。ニューヨーク市の東に位置するロングアイランドに完成した原発は、1973年に着工され、途中にスリーマイル島事故を挟んだため原発反対の嵐で工期は延びたが、1989年アメリカの規制委員会は稼動の許可を出さなかった。新規の原発は1ワットの発電もすることなく廃炉に向かうことになった。
日本のように再稼働を許可するかしないかという判断ではなくて、6000億円という巨費を使った後、これから発電をするという段階になっての「ノー」である。
7月11日に発表された「世界原子力産業現状報告書」によれば、原発は短・中期的で廃れていくように見える。
シェールガスの埋蔵量は予想以上に膨大で、米国のガス消費量の100年分もあることが分かったが、高圧水を地層に入れ、天然ガスを吸い上げる時に地下水脈を大きく汚染するという問題があり、決してクリーンなエネルギーというわけではない。もしもシェールガス採掘にブレーキがかかれば、新タイプの小型原子炉=小型モジュール炉が脚光を浴びないとも限らない。
しかしいずれにしても放射能汚染で、福島県の15万人が自分たちの家を追われた現実は大きくて、原発はコストと安全性の両面で下降線の途上にある。