経産省は27日基本政策分科会を開き、原発の再稼働が遅れれば家庭の電気料金は今より25%上がるという試算を公表しました。
民主党が定めた「2030年代に原発の稼働ゼロ」を覆そうというのが狙いです。
会合では原発の耐用年数40年をさらに延ばそうという意見も出されたということです。現行の40年という決定すら異常なのにそれをさらに延長しようというもので唖然とします。そうした検討は政策分科会などですべきことではなくて、「原子炉鋼材の強度劣化」という材料物性・材料力学の領域で決められるべき問題です。
日本はもともと発電用燃料の自給率はゼロであり、国内での石炭採掘がコスト的に太刀打ちできない以上、海外への依存度を減らす余地などありません。そして原発の殆どが停止している現在 化石燃料の比率が上がるのはごく当然のこと(水力発電は頭打ちで、太陽光・風力発電は未普及)です。
何よりの欺瞞は、経産省が原発の発電コストが火力発電よりも安いとしたことです。多分核燃料の購入価格をベースにしたものなのでしょう。円安が燃料代を押し上げている点は核燃料も同じです。むしろ核燃料の方が早晩品薄になり、価格が高騰し、ついには枯渇するといわれています。
※ 7月14日 「2020年代、高騰する核燃料で世界中の原発が崩壊」
原発立地市町村への交付金、使用済み核燃料の崩壊熱除去の仮保管、処理費、少なくとも数百年間に及ぶ保管費用、東電1社だけでも500億円といわれる莫大な広告費(殆どは原発の宣伝)、大学その他の原子力村の維持に要する固定費、さらには福島原発事故の補償費(またはそれ用の保険金)等々を正式に加算すれば、原発の発電コストがLNGや石炭が主力の火力発電を上回ることは、原発に関心を持つ人たちの間では知れ渡っていることです。
さらに現行のLNGの購入価格は諸外国に比べると極めて割高という問題があります。それはこれまでコスト意識を持つ必要がなかった電力会社の責任であり、それを黙認してきた経産省の責任でもあります。その点を今後改善すれば火力発電のコストの優位性はさらに高まります。
それにしても何もかも承知している筈の経産省がこうした欺瞞を演じるのは、「電気料25%アップ」の見出しが躍れば再稼動やむなしの機運が生じるというのが目論見なのでしょう。電力・財界と一体になった再稼動へ向けた世論誘導です。
以下に、日経新聞の記事を紹介します。
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原発再稼働遅れれば料金25%上昇 経産省試算
日経新聞 2013年8月27日
経済産業省は27日、エネルギー基本計画をつくる基本政策分科会を開いた。原子力発電所の再稼働が遅れれば家庭の電気料金は今より25%上がると試算。原発1基が1年間に発電する電力量を住宅用太陽光パネルで賄うには、東京都内のほぼ全ての戸建て住宅に相当する175万戸に導入する必要があると指摘した。
政府は年内に新しいエネルギー政策の枠組みをつくる方針。民主党政権が打ち出した「2030年代に原発の稼働ゼロ」をゼロベースで見直し、現実的な計画を示す。
27日はエネルギーを巡る国際情勢や経済への影響などを中心に話し合った。「原発の安全性を確保したうえでエネルギー構成のバランスをとる必要がある」(西川一誠・福井県知事)、「20~30年後を見据えた場合、原発は本当に40年の運転制限でいいのか」(山名元・京大原子炉実験所教授)などの意見が出た。
米国や欧州など先進国では2000年前後からエネルギーの輸入量が増え、燃料の自給率が徐々に低下していると指摘。原発を活用すれば自給率は10%改善するとした。
日本の12年度のエネルギー構成をみると、石炭や石油、液化天然ガス(LNG)など化石燃料の割合は86%。第1次石油危機が起きた1973年度の74%を上回る高水準になった。電力各社の13年度の燃料費は東日本大震災前と比べ、原発停止分だけで3.8兆円膨らむ。国民1人当たり約3万円の負担増になる。
原発1基(出力100万キロワット)の年間発電量をほかの代替燃料で賄うにはどれだけ必要か、との試算も示した。LNGだと95万トン、石油だと155万トン、石炭だと235万トンになる。一方、国内の民間在庫はLNGが13日分、石油が67日分、石炭が33日分にとどまり、海外への依存度をいかに減らすかが課題になる。
茂木敏充経産相は27日の閣議後の記者会見で「今までは月1回程度の開催だったが、9、10月で3回ほど開きたい」と、年内の計画策定へ議論を速める考えを表明した。