2013年8月2日金曜日

復興庁は被災者生活支援法を参院選以降に先送り

 
 昨年6月27日に「子ども・被災者支援法」が施行されてから1年余りが経過しました。
 生活支援法には、「国は、被災者生活支援等施策を総合的に策定し、実施する責務を有する」とうたわれ、被災者の居住・避難・帰還を選択する権利の尊重や、放射線による健康への影響に関する調査、医療の提供など、健康への影響を未然に防ぐ策を講じることが明記されています。

 山形県が昨年10月に行ったアンケート調査によれば、避難している母子家庭の生活費は月額5万円未満の世帯が6・7%、5万円以上10万円未満が34・2%となっています。遠隔の地域で暮らす不便に加えてきわめて不自由な暮らしぶりが想像されますが、生活支援法の適用範囲である「支援対象地域」(=線量基準)が決まっていないために、同法による被災者支援はいまだに何も具体化されていません。

 毎日新聞の調査によると 同法を所管する復興庁が3月に、支援策作りの大前提となる「線量基準」の検討をどこが主導するか曖昧にしたまま、7月の参院選後に先送りすることで関係省庁と合意していたことがわかりました。
 要するに参院選に悪影響がなくなる時期まで放置しようというわけです。これでは一日千秋の思いで待ちわびている避難者たちに、救いの手など届きようがありません。

 安倍首相は「福島での第一声を」を参院選の売りにして確かに過半数を獲得しましたが、その陰にはそれとは裏腹な計算が潜んでいました。狡猾にして犯罪的な不作為というべきです。
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復興庁被災者支援 先送り密議 暴言ツイート裏付け
毎日新聞 2013年8月1日
◇3月時点で「参院選後に」
 東京電力福島第1原発事故に伴い、放射線量が一定基準以上の地域住民への支援を定めた「子ども・被災者生活支援法」を巡り、同法を所管する復興庁が3月、具体的な支援策作りの大前提となる「線量基準」の検討をどこが主導するか曖昧にしたまま、7月の参院選後に先送りすることで関係省庁と合意していたことが国の関係者の証言で分かった。昨年6月の同法成立以降、基準は一向に決まらず、被災者らから早急な支援策作りを求める声が上がっているが、これを無視するような申し合わせが秘密裏になされていた。
 
 復興庁の当時の参事官が短文投稿サイト「ツイッター」上で暴言を繰り返していた問題で、元参事官が3月8日に「懸案が一つ解決。白黒つけずに曖昧なままにしておくことに関係者が同意」と書き込んだのは、この合意を指すとみられる。支援の対象範囲をどう線引きしても批判が予想されることなどから、参院選への影響に配慮したとみられる。実際、合意から約5カ月たった現在も線量基準の検討は始まっていない。
 
 国の関係者によると、復興庁は2月、被ばく線量の基準を審議する放射線審議会を所管する原子力規制委員会に対し、支援法の線量基準をまとめるよう打診したが、規制委側は「科学的に決める問題ではない」として反発。双方と帰還準備担当の内閣府原子力被災者生活支援チームなどの担当課長・参事官が約1カ月間協議したが、基準作りをどこが引き受けるかは結論が出なかったという。
 
 担当課長・参事官の会議は2月以降、復興庁主導で開かれ、元参事官が所属する「福島班」の担当参事官が毎回出席していた。この会議で線量基準の検討を参院選後に先送りすることが合意されたという。元参事官が「懸案が一つ解決」と書いた3月8日にも会議は開かれていた。その後も除染担当の環境省も加わり、月2回程度開かれている。
 
 国が定める一般人の被ばく限度は年間積算線量1ミリシーベルトだが、政府は事故後、20ミリシーベルトを目安に避難指示区域を設けた。一方、昨年6月21日に成立した支援法は、線量が「一定基準」以上なら避難指示区域ではない地域からの自主避難者も支援の対象に含めるとした。線量基準として、被災者支援の市民団体などは「1ミリシーベルト」を主張するが、対象範囲が広ければ国の財政負担は大きく、基準の検討には政治判断も絡む。検討結果によっては被災者らの強い反発も予想される。
 3月7日の原子力災害対策本部で、根本匠復興相は線量基準について「客観的な根拠に基づく国民の理解が必要」と述べ、検討の期限は示さなかった。その上で「線量基準に応じた防護措置の検討」に触れ、避難者の帰還に向けてまとめる被ばく低減策については、同本部で年内をめどに見解を示すとした。
 
 復興庁広報班は毎日新聞の取材に対し「(3月8日のツイートに関わる)当該施策の内容は、回答を差し控えたい。3月7日以降、関係省庁の課長、参事官をはじめ関係者が不定期に打ち合わせをしているが、元参事官は参加していない」としている。【日野行介、袴田貴行】
 
◇ことば【興庁幹部の暴言ツイッター問題】
 復興庁で「子ども・被災者生活支援法」を担当していた参事官が昨年8月の着任以降、同法の推進を求める国会議員や市民団体などを中傷するツイートを繰り返していた。同法は、原発事故の影響で放射線量が一定基準を上回る地域の子どもをはじめとする住民、避難者に対し、国が医療や生活を支援すると定めた理念法。しかし「一定基準」が決まらないため、成立から1年以上たっても基本方針が策定されていない。

復興庁密議:被災者無視の時間稼ぎ「責任押し付け合い」
毎日新聞 2013年8月1日
 「懸案が一つ解決。白黒つけずに曖昧なままにしておくことに関係者が同意」。復興庁元参事官のツイート(書き込み)通り、同庁は「子ども・被災者生活支援法」の土台をなす放射線量基準の線引き作業に、いまだ着手すらしていない。短文投稿サイト「ツイッター」で繰り返された暴言は、一官僚の見識にとどまらず、庁全体として原発事故の被災者支援に後ろ向きな姿勢を浮かび上がらせた。【日野行介、袴田貴行】
 
 暴言ツイッター問題発覚後の7月3日、元参事官の上司に当たる伊藤仁統括官が、支援法の基本方針を早期に決めるよう求めてきた市民団体と面談した。団体が3月7日に開いた集会に出席した元参事官は「左翼のクソどもから罵声」とツイートしていた。面談では次のようなやり取りがあった。
 
    復興庁の回答にある「複数の省庁にまたがるある施策」とは何か。
  伊藤氏 回答にある通りで、支援策を先送りするという意味ではない。具体的な施策について特定するのは差し控える。
     元参事官の話だと「(基本方針は)線量基準ができないとどうにもならない。それは原子力規制委員会待ちだ」ということだった。
伊藤氏 線量は支援法だけでなくいろんなものがあり、それについて(規制委に)検討をお願いしているところだ。
 
 伊藤統括官は団体に謝罪し、問題のツイートについて元参事官への事情聴取を基に説明した。だが「懸案」の具体的内容には言及せず、一貫して元参事官の個人の問題だと強調。庁として線量基準の検討を主導する姿勢も示さなかった
 
 国の関係者によると、実際、復興庁は2月に線量基準作りを原子力規制委に打診して紛糾。どこが検討を主導するのか曖昧にしたまま、近づく参院選に配慮して先送りした可能性が高い。
 一方で、同庁は3月15日、支援法の基本方針とは別に「被災者支援施策パッケージ」を公表した。だが「自主避難者を対象とする高速道路無料化」のほかはこれまでの施策を並べただけだとして、支援法の推進を求める国会議員や被災者らから「骨抜きだ」と批判を受けた。パッケージ公表の背景について、国の関係者は「復興庁は6月で支援法成立1年を迎えるのを気にしていた」と指摘する。
 
 7月3日の面談に同席した島薗進・上智大神学部教授(宗教学)は「復興庁は、暴言ツイッター問題を元参事官個人の問題に矮小(わいしょう)化していたが、庁全体の消極姿勢が鮮明に表れた」と厳しく指摘する。福島県富岡町から東京都江東区に避難している元同町職員、小貫和洋さん(65)は「福島県内外で、避難者が先の見えない不安を覚えながら暮らしている。法律に沿って一日も早く支援の手を差し伸べてほしいのに、省庁の責任の押し付け合いに時間が浪費されていたとは許せない」と無念そうに話した。