2013年8月24日土曜日

避難者たちは一体いつまで支援を待てばよいのか

 東電福島原発事故に関連して議員立法で成立した「原発事故子ども・被災者支援法」は、付則で成立から1年以内に基本方針を作ることを定めています。昨年6月に成立してから とうに1年以上が経過しているのに、国(=復興庁)はいまだに被災者支援のための基本方針を策定していません。

 22日、福島県などの住民や自主避難者計19人が、国を相手取り、基本方針の早期策定などを求めて東京地裁に提訴しました。
 この提訴で特徴的なことは、損害賠償請求額が原告1人につき1円という点で、それは支援策を実施するよう求める裁判であって、原告の個人的利益のためではないからということです。
 補償額の算定などで時間を消費したくないというのでしょう。

 先に明らかにされたとおり、復興庁が信じられないほどの長きに亘って基本になる線引き(=支援法の対象地域を定める基準線量の策定)をサボってきたのは、なんと参院選前にそれを行うと政権側に不利になるからというのが理由でした。党利党略を最優先にして、避難者たちのことなどは全く眼中になかったわけです。

 原発事故後 国は特定避難勧奨地点の条件を年間線量20mSv(以上)としました。そして線量がそれ以下の地域に居住していた人たちが避難すると、勝手に避難した「自主避難者」として補償の対象から外しました。信じられないような話です。
 それではあまりにも理不尽だからということで、被災者支援法が議員立法で制定されたのでした。

 そもそも政府の決めた年間線量20mSvは、27年前のチェルノブイリ原発事故で、ソ連が定めた居住可能限度=年間5mSv(以下)の4倍という途方もない数値です。
 5mSvまで居住できるとした結果、ウクライナでは被爆者から生まれた子供たちのうち慢性疾患をもつ子供たちの割合が78%(2008年現在)にも達し、事故時には75歳だった平均寿命は、30代~40代で亡くなる人が多いため、まもなく55歳になろうという、まことに悲惨な状況になっています

 そうした実態を考え合わせれば、支援法に求めらる線引きは年間線量1mSv乃至はそれに限りなく近い値でなくてはならない筈ですが、復興庁は一向に定めようとしません。
 
 では原子力規制委員会は頼りになるかといえば、規制委員長の田中俊一氏は就任前には20mSvまで許容できると言い、中村佳代子氏に至ってはかつては100mSvまで許容できると言った人なので、とても期待することなど出来ません。

 避難者の救済をこれほどまでに放置してきた政府・復興庁の不作為を擁護できる理屈などはありません。
 裁判所には、いまこそ被災者の思いに寄り添って、そうした政府の怠慢と不誠実を断罪することが求められています。
 
 これまでの原発運転停止訴訟では、裁判所は一貫して国側の立場を擁護してきました。そしてついに福島原発で空前の大惨事を引き起こし、その惨禍はいまも拡大を続けています。
 そうした自分たちの歴史を判事たちも謙虚に省みて欲しいものです。

 以下に東京新聞の社説を紹介します。
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(社説) 被災者支援法 国の不作為厳しく裁け
東京新聞 2013年8月23日
 「原発被災者支援法」に基づく支援を受けられないのは違法として、ついに被災者たちが国を訴えた。成立から一年以上がたつのに支援は今もないに等しい。司法はこの怠慢を厳しく裁くべきだ。
 
 国や東京電力から何の補償もなく、被ばくの影響を心配しながらの暮らし…。東京地裁に提訴した原告の一人、造園業を営む伊藤芳保さん(50)=栃木県那須塩原市=は我慢の限界だった。
 原発事故から半年がたった頃、地元がホットスポットになっていることを知り、大学の専門家に測定を依頼すると、寝室や高校生の娘の部屋の放射線量が毎時〇・五マイクロシーベルト近くと高い。被ばくの影響を心配し、妻と娘だけでも避難させたいと、線量が低めだった隣町にアパートを借りて住まわせた。家賃など費用はすべて自己負担だ。
 
 本来は国がやるべきことなのに、苦しみばかりが押しつけられる。原告の十九人は事故当時、国が決めた避難指示区域外にある福島県郡山市や福島市、隣県などに住み、事故後も住み続けているか、県外に自主的に避難した人たち。その主張はいたって明快だ。
 被災者の医療や生活を支える支援法は昨年六月に成立した。なのに政府が肝心な「基本方針」を策定しないのは違法であるとし、自分たちが法に基づく支援を受ける立場にあることの確認を求めている。法の付則は成立から一年以内に基本方針を作ることを求めている。訴えられるのは当然だろう。
 
 法の支援は原発事故によって「一定の基準」以上の放射線量になった地域に住む人を対象にしているが、この基準の線引きが壁になってきた。原告は一般人の年間許容線量一ミリシーベルトを基準にし、それを超える地域を対象にすべきと主張する。法律が成立した時点の線量に基づけば、原告は全員対象になる。条文に「放射線が健康に及ぼす危険は科学的に十分解明されていない」と明記している趣旨を酌めば、不安を与えないような幅広い救済を目指すべきだ。
 
 政府が被災者と法廷で争うのは間違っていないか。やるべきは基本方針を決めるために一刻も早く、被災者と協議を始めることだろう。請求額が一円なのも、政府に不作為の罪を問うためだ。
 前例のない原発事故だからこそ、被害の救済も前例のない難しさがあるだろう。しかし、救済を放置してきた政治は許せるものではない。被災者の思いに司法は寄り添ってほしい。