経産省が3年ごとに見直しをする「エネルギー基本計画」についての議論を始めましたが、改定案をまとめる有識者会合の冒頭で、世耕弘成経産相は「骨格を変える段階にはない」と2014年策定の現計画を踏襲する考えを表明したということです。
もともとの計画は、再稼働に前向きな人たちが大半を占める委員会で「30年度の電源構成比率」を決め、原発は20~22%とされましたが、この数字は原則40年の運転期間を延長するか、数基を新増設しなければ達成できない目標でした(現時点の原発比率は2%で電力はそれで十分に間に合っています)。それを維持することが原則であれば、今後もひたすら再稼働及び原発の新・増設を促進させるということに他なりません。
福島原発事故を境に原発を取り巻く世界の環境は激変し、台湾、韓国、ドイツ、スイスなどが相次いで脱原発を表明し、米国では安全対策費が膨張し新設計画が中止に追い込まれています。日本政府が言う「原発コストは安い」は勿論通用しません。
そうした要素を何も盛り込めない見直しであれば意味はなく、原発を巡る政府の対応は理不尽極まるものであることを再確認させるに過ぎません。
愛媛新聞が「エネルギー基本計画 現実直視し脱原発へ転換せよ」とする社説を掲げました。
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社説 エネルギー基本計画 現実直視し「脱原発」へ転換せよ
愛媛新聞 2017年8月16日
経済産業省が中長期的なエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」の改定に向けて議論を始めた。
計画は3年ごとに見直している。改定案をまとめる有識者会合の冒頭で、世耕弘成経産相は「骨格を変える段階にはない」と2014年策定の現計画を踏襲する考えを表明した。現計画は原発を「依存度を可能な限り低減する」としながら、「重要なベースロード電源」と位置付けて再稼働を進める方針を明記しており、矛盾に満ちている。再生可能エネルギーの普及など国際情勢や技術の進展を直視した抜本的な見直しを求めたい。
そもそも現計画は、再稼働に前向きな経済界などから大半の委員を選んで策定した経緯がある。この計画を基に「30年度の電源構成比率」が決まり、原発は20~22%となった。原則40年の運転期間を延長するか、新増設しなければ達成できない目標である。世耕氏は「目標をどう達成するかを議論する」と強調したが、脱原発を求める民意に背を向けた目標を新計画に反映することは到底容認できない。
今回の有識者会合でも委員のほとんどは政権の方針を支持している。それでも原発容認の立場の委員から原発依存度目標の引き下げを求める意見が出たのは、目標設定が現実離れしている証左であろう。原子力規制委員会の審査を経て5基が再稼働したが、16年度推計の原発比率は約2%にとどまる。電力会社は原発なしでは電力が不足すると主張するが、需給が逼迫(ひっぱく)する事態は起きなかった。「再稼働ありき」ではなく、まずは国民の声に真摯(しんし)に耳を傾け、議論を進めなければならない。
東京電力福島第1原発事故を境に原発を取り巻く世界の環境は激変している。台湾、韓国、ドイツ、スイスなどが相次いで脱原発を表明。米国では安全対策費が膨張し、新設計画が中止に追い込まれている。一方で風力や太陽光など再生可能エネルギーの発電コストは大幅に低下し、火力をも上回る投資先になっている。世界の潮流を見誤ってはなるまい。
日本政府が言う「原発コストは安い」は通用しない。福島の事故対策費は当初想定した2倍の22兆円に上り、一部は国民にツケを回す。廃炉作業が長引けば、際限なく国民の負担は増える。ひとたび事故が起きれば、途方もない費用がかかる。それが福島の教訓だ。原発が決して安価でも、安定的でもないことを、政府は認める必要がある。
原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の処分も解決のめどが立たない。「負の課題」を先送りにし、原発回帰を進める政府の姿勢は無責任にすぎる。国民の多くは原発への不安を拭えずにいる。新計画では原発をベースロード電源にすることをやめ、脱原発にかじを切るべきだ。再生可能エネルギーや省エネを推進するための方策を打ち出し、エネルギー政策の転換を図らなければならない。