「子ども・被災者支援法」基本方針改定案の作成の前提条件である「支援対象地域が避難する状況ではない」ということに、規制委の田中委員長がお墨付きを与えていたことが明らかになりました。
田中委員長は記者会見で、「年間20ミリシーベルト以下になれば、国際的に見ても、そこに住みながら、線量の低減化を図るということを言われている」、「もともと自主避難というのは、97~99%以上の人が、自分は嫌だからっていうので避難したわけなのに、それを国がどういう訳か支援してきた」と、避難指示区域以外の避難に対しての支援策は必要ないとの考えを強調しました。
確かに放射線防護委員会(ICRP)は、緊急時を脱した後 年間1ミリシーベルトが達成できない場合、年間20ミリシーベルトから1ミリシーベルトのなるべく下方に「参考レベル」を設定するという考えを示していますが、それは田中氏が言うように「20ミリ以下なら国際的なお墨付きがある」という意味合いのものではありません。
現に福島事故の20数年前に起きたチェルノブイリ事故では、5年後に「参考レベル」を年間5ミリシーベルトに決めて、それ以上は強制移転をさせ、それ以下は「避難の権利ゾーン」にするという合理的な対応をとっています。
田中氏は川内原発において、少なくとも稼動期間内に火山噴火が起きることはないだろうからと、自らが定めた「火山条項」を無視して再稼動を決めたり、この度も運転期間の60年への延長に関して、電力業界の計算式で余命を計算すればいいなどという、電力側にべったりの考えを隠しませんが、被災者に対しては極めて冷酷な考え方を持っていることがわかります。
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「自主避難者の支援は不要」~規制委・田中委員長がお墨付き
Ourplanet 2015年7月22日
「原発事故子ども・被災者支援法」基本方針改定案の作成に際し、支援対象地域が「避難する状況ではない」と規制庁がお墨付きを与えていた問題で、原子力規制委員会の田中俊一委員長も内容を把握し、了承していたことがわかった。記者会見で田中委員長は「自主避難は、自分は嫌だからっていうので避難した人」とした上で、国が自主避難者を支援する必要はないとの考えを示しました。
「原子力子ども被災者・支援法」基本方針の改定に際し、復興庁の浜田副大臣は6月24日、田中俊一委員長宛にメールを送付。「線量は下がっている傾向にあり、子ども被災者支援法に基づく支援対象地域の縮小廃止を検討すべき段階にある。科学的に縮小廃止にすべき状況であることの確認をしておきたい」と質問した。これに対し、放射線対策・保障措置課の角田英之課長は、田中委員長と池田長官に相談した上で内部で回答を作成。田中委員長の了承を経て、翌日復興庁に返送した。
東京電力福島原発事故の線量基準などについて、規制庁の放射線対策・保障措置課がこのような対応をとったのははじめて。公開の会議を開催せず、「規制庁」というクレジットで回答をした理由について、規制庁は、「モニタリングの結果という事実関係と原子力対策本部が示している避難指示解除の条件である20ミリシーベルトとつきあわせて考えた時に、専門的な判断によるものではなく、事実関係として明らかに避難する必要のある状況ではないと判断ができると考えて規制庁のクレジットで回答したと説明する。
田中委員長は「年間20ミリシーベルト以下になれば、国際的に見ても、そこに住みながら、線量の低減化を図るということを言われていて、それでいいと申し上げている。」と回答。
「もともと自主避難というのは、99%、97~98%以上の人がそこに住んでいた時に、自分は嫌だからっていうので避難したわけですから、それを国がどういう訳か、支援するというふうになっちゃった」と、自主避難者の住宅支援をしてきた国を批判。避難指示区域以外の避難に対しての支援策は必要ないとの考えを強調した。
また、放射線防護委員会(ICRP)が、緊急時を脱した後の現存被ばく状況においては、年間1ミリシーベルトが達成できな場合、年間20ミリシーベルトから1ミリシーベルトのなるべく下方に、目標とする「参考レベル」と置くとする考えを示しているが、これについて田中委員長は、「福島の復興ということを考えた時に、非常に重要」とする一方、原子力規制委員会で具体的に議論する段階にはないとの考えを示した。
チェルノブイリ原発事故においては、事故後5年目に、参考レベルを年間5ミリシーベルトに設定し、5ミリシーベルト以上の地域は強制移住を決定。1ミリから5ミリシーベルトの地域は、個人が移住するかどうかを判断できる「避難の権利ゾーン」に指定された。「原発事故子ども・被災者支援法」は、こうしたチェルノブイリの取り組みを参考に2012年に議員立法として成立。年間20ミリシーベルトを下回るものの、「一定の基準以上」のある「支援対象地域」の住民を、避難をするしないに関わらず、いずれも支援することが規定されている。
福島を切り取り独自の地図作成
今回の基本方針改定に際して、「科学的に縮小廃止にすべき状況であることの確認をしておきたい」と質問した復興庁。「参考データ」として添付した地図は、規制庁の作成ではなく、復興庁独自に加工したという。
復興庁が独自に地図を作成するにあたって参考にしたのは、規制庁が昨年実施した第9次航空機モニタリングによる「福島県及びその近隣県における空間線量率の分布マップ」だ。この地図の範囲は、岩手県から埼玉県と幅広く、福島県内だけの地図は存在しない。
そこで復興庁は、この地図の福島県部分だけを利用。1時間あたりの線量率から、年間の個人の実効線量マップへの変換を試みた。計算方法は復興庁の資料にも掲載されているが、まず表示されている線量からバックグラウンドの0.04を差し引き、さらに屋内滞在時間を16時間、屋外滞在時間を8時間と設定。屋内滞在時間には0.4という低減係数をかけた。
さらに、個人線量計とファントム(人形)を用いた実験で導きだした0才〜3才の平均的な「実効線量率」0.85を乗じて、「個人が浴びる実効線量」を導きだしたという。その結果、地図は、規制庁が公開している航空機モニタリングマップとは大きく異なる地図が完成した。法制班の佐藤参事官は、独自の地図の作成には時間がかかったと話す。
福島県で開催された説明会では、栃木県北の住民から、放射能は県境で止まらないと批判を浴びていた。