2015年7月26日日曜日

川内原発再稼働に当たって あらためての疑問

 東洋経済(電子版)はこれまでも原発再稼動問題については、折に触れて適切な解説記事を発表してきました。
 この度は福島原発事故後、国内で初となる川内原発の再稼動が近づく中で、まだ残ったままになっている問題点をピックアップしています。
 
 まず肝心の安全性について規制委は「事故の発生頻度を、1原子炉当たり100万年に1回以下にできた」と説明しているということですが、一体何を根拠にした数字なのでしょうか。福島原発事故が起きる前には、政府が重用していた東大教授は1億年に1回としていました。
 しかし現実問題として、福島原発は稼動後僅か40年未満の内に3基が重大事故を起しました。
 この埋めようもない落差は、今度は100万年に1回だといわれてみたところで、そんな空虚な数字の羅列を確認してみようという気にもさせません。
 
 原発が安全でないからこそ、田中委員長は合格させる度に「新規制基準に適合したものであって安全と認めたわけではない」と言していますが、それは我が身への「保険」なのでしょう。その一方で新基準は「世界で最も厳しいレベル」だと明らかな虚言も発しています。
 
 「安全ではないが合格させる。ただし責任は持たない」という論理の持ち主がせっせと合格の判を押し、それによって各原発は自動的に再稼動に向かうというのがいまの日本の姿です。
 
 火山条項もそうです。
 条文によれば、火砕流が到達する危険性を否定できなければ立地(=この場合は再稼動)出来ない筈でしたが、実際には火山学者の一致した反対と警告を無視して規制委は再稼動を決めました。この喉に刺さった棘の痛みは、川内原発の稼動が続く限り続きます。
 電力業界の計算式を用いて原発の耐用年数を60年に延長するという新方針もしかりです。
 
 原子力ムラの人びとの脳裏からは既に福島原発事故はなくなっている、そう考えるしかない再稼動への動きです。
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新基準で初めて再稼働の川内原発に残る疑問
   「合格=安全ではない」と規制委員長も明言
中村 稔 東洋経済 2015年07月25日
 ※ 編集局記者)   
東日本大震災後、順次稼働を停止、現在は一基たりとも動いていない原子力発電所が、ついに稼働する。
7月10日、鹿児島県にある川内(せんだい)原発1号機の原子炉に、九州電力が核燃料を搬入し終えた。使用前検査が順調に進めば、8月中旬に制御棒を引き抜いて原子炉を起動する。2013年7月に策定された新規制基準の下では、「全国初の再稼働」となる。九電は同2号機も9月下旬の起動を目指す。両基で月間150億円程度の収益改善効果を見込み、5期ぶりの黒字化にも期待を寄せている。
 
現在、合格は5基
2012年9月に発足した原子力規制委員会にとっても、川内原発は、新基準で最初に審査を終了した原発だ。田中俊一委員長は、「新基準は以前より要求レベルが高いので、事業者も四苦八苦しており、ずいぶん時間がかかった」としつつ、今後は経験の蓄積により短縮できると語る。
 
規制委の新規制基準適合性審査は三つの段階に分かれている。原子炉の基本設計を審査する「原子炉設置変更許可」と、詳細設計を審査する「工事計画認可」、運転管理について審査する「保安規定変更認可」である。最も重視されるのが原子炉設置変更許可で、これを得れば“実質合格”と見なされる。
現状、実質合格となったのは川内原発と関西電力の高浜原発3、4号機、そして7月15日に許可された四国電力の伊方原発3号機だ。伊方は残りの認可手続きなどを経て、早ければ今年度中に再稼働する可能性がある。
一方、高浜3、4号機は福井地方裁判所で運転差し止めの仮処分を受け、関電が想定していた今年11月の再稼働は困難になった。ほかの審査中原発の再稼働は、あっても2016年度以降の見込みだ。
 
ただ、審査過程では、多くの疑問点も浮かび上がった。
肝心の安全性について規制委は「セシウム137の放出量が(福島事故の100分の1に当たる)100兆ベクレルを超えるような事故の発生頻度を、1原子炉当たり100万年に1回以下にするという安全目標を、川内原発は十分満たしている」と強調する。
しかし、この安全目標は、テロ攻撃などのケースを除いている。そもそも、新規制基準として、定められたものでもない。これを安全性判断の根拠といえるのか
田中委員長は「川内原発は新規制基準に適合したもので、安全と認めたわけではない」と断言する。これは「原発にリスクゼロはない。安全と言えば、新たな安全神話につながる」という限界を示すと同時に、福島事故を踏まえた自戒でもある。
 
新基準そのものも疑問あり
「世界で最も厳しいレベル」(規制委)という新規制基準に関しても疑問が残る。
たとえば、火山に囲まれている川内原発の審査で、焦点とされた火山影響評価。規制委は原発に影響を及ぼす巨大噴火の可能性は十分に小さく、監視によって噴火の前兆も把握できると結論づけた。
だが、たとえ前兆をつかめたとしても、噴火時期も規模もわからないというのが学界の専門家の見方だ。審査では火山の専門家は一人も意見を聞かれていない。規制委審査は科学的といえず、審査基準の火山影響評価ガイドの見直しを求める声も強い
また、自治体が策定する防災避難計画は、審査の対象になっていない。米国では、連邦緊急事態管理庁(FEMA)という専門機関が避難計画の実効性を審査し、同国の原子力規制委員会もプロセスに深く関与している。
 
2014年に規制委委員を退任した大島賢三氏は、「日本版FEMA(緊急事態管理庁のような組織を作り、プロが関与することが必要。今やっても遅くない」と提言した。が、いまだ実現の動きはない。
田中委員長自身、かねて「規制基準と防災は車の両輪」と強調してきた。ただ、現在の法体系上、避難計画の実効性を評価する立場にない、と繰り返している。それでも新規制基準は世界最高レベルと訴えるのは妥当なのか。
 
いまだ再稼働反対が過半数
地元合意の対象を都道府県と立地市町村に限定している現状など、再稼働に至る過程についてはほかにも問題点が指摘されている。だが、今の自民党政権に、見直しに取り組む姿勢は見受けられない。
それどころか今春の電源構成の議論のように、原発依存度を高めに維持するため、規制委自身がまだ一基も許可していない老朽原発の運転延長を、長期目標に織り込む始末だ。これでは世論で再稼働反対が過半を占める現状も仕方ない。原発は安全性の追求が大前提ということを、あらためて問う必要がある。
(「週刊東洋経済」2015年7月25日号<21日発売>)