原発事故が起きた際の損害賠償手続きの体制や手順を定めたマニュアルを、電力12社中6社がいまだに作成していません。また作成済みであっても、「福島第1原発事故を踏まえて作成や改定をした」のは6社中1社のみでした。
毎日新聞の調査で分かりました。
このマニュアルは文部科学省が5年以上前に原子力事業者に作成を促したものです。東電の場合は未作成のまま、2011年の福島原発の大事故を起しました。
電力各社はマニュアルの作成乃至はその見直しもしないままで再稼動申請を優先させているわけです。
専門家は再稼働の条件としてマニュアル整備が必要だと指摘しています。
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原発事故:賠償手引6社未整備 再稼働申請が先行
毎日新聞 2015年05月11日
原発事故が起きた際の損害賠償手続きの体制や手順を定めたマニュアルについて、文部科学省が5年以上前に原子力事業者に作成を促したにもかかわらず、12社中6社がいまだに作成していないことが毎日新聞の取材で分かった。作成済みであっても、「福島第1原発事故を踏まえて作成や改定をした」と答えたのは6社中1社のみで、福島の事故後の国による賠償制度の見直し作業が進まない中、作成や改定が滞っている。専門家は再稼働の条件としてマニュアル整備が必要だと指摘する。
文科省は1999年に茨城県東海村で起きたJCO臨界事故を受け、原発事故発生から賠償合意までの流れや平常時からの関係者間の連携など、原子力事業者らに求められる対応を示した「原子力損害賠償制度の運用マニュアル」を2009年12月に制定。事業者に配布し、翌年3月には説明会も開いた。
文科省マニュアルは各事業者に対し、事業者ごとの「損害賠償に関する業務マニュアルなど」の作成を求めている。具体的には「的確に賠償手続きを実施できるよう賠償対応の体制・手順・書類様式等の委細をあらかじめ整理し、業務マニュアルなどの形式で組織的に共有しておく」こととし、「2~3年程度の一定期間ごとに更新していくことが望ましい」とした。文科省の役割についても「作成に必要な支援を適切に行う」と記載している。
これについて毎日新聞は原発を保有する大手9電力を含む12事業者(うちJパワー=電源開発=は建設中)に尋ね、4月までに全事業者から回答が得られた。「マニュアルを作成した」と答えたのは東北、関西、四国、九州の4電力と、日本原子力発電、日本原子力研究開発機構の計6社。東京電力は「整理を進めていたところ大震災が発生した」とし、未作成のまま事故対応をしていた。
原子力損害賠償制度を巡っては、福島の事故に対応する原子力損害賠償支援機構法(11年8月成立)の国会の付帯決議で1年をめどに抜本的に見直すとしながら、今年1月、ようやく検討の場が原子力委員会と決まっただけで、本格的な議論には至っていない。事故後もマニュアルを作成・改定していない事業者は、事故やその後の賠償制度見直しの遅れを踏まえ、「国の動向などを踏まえつつ検討していく」(未作成の中部電力)「事故の内容を反映させる必要性は認識しているが、国の総括がなされていない」(作成済みの九電)などと説明した。
一方、国による賠償制度の見直しを待たずに今年作成した四電は「福島の事故を踏まえ、損害の規模や発生状況を踏まえて対応することや被災者の利便性を十分考慮することを定めた」と答えた。関電は改定したかどうか回答しなかった。
文科省原子力損害賠償対策室はマニュアルの作成状況について「統一的に把握していない」としてコメントを避け、「(マニュアル整備を含めた賠償制度の見直しと)再稼働とは関係すると考えていない」とした。【関谷俊介】
原子力損害賠償マニュアルの整備状況