自民、公明両党の第5次提言に、福島の居住制限区域と避難指示解除準備区域を17年3月までに解除する方針が盛り込まれたことに、関係の自治体から、「町の意見を聞き、実態に即して時期を判断すべきだ」と戸惑いの声が上がっています。
そのときまでに除染が完了するのかや、除染によって年間被曝量1ミリシーベルトになることやインフラの復旧が見通せない状況下では当然のことです。
年間被曝量20ミリシーベルト以下が人間の住める環境でないことはあまりにも明らかです。
昨年末に「特定避難勧奨地点」の指定が解除された南相馬市ではまだ局所的に線量が高く、世帯の六割は避難先から今も戻っていません。
なぜ帰還できる条件が整っていないことを無視して、居住制限の解除や賠償金の打ち切りだけを急ぐのでしょうか。
冷酷・無情な政治を地で行くものです。
冷酷・無情な政治を地で行くものです。
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<5次提言> 避難自治体「判断、実態に即して」
河北新報 2015年5月30日
自民、公明両党の第5次提言に、福島第1原発事故の居住制限区域と避難指示解除準備区域を2017年3月までに解除する方針が盛り込まれたことに、除染完了やインフラ復旧が見通せない避難自治体からは「町の意見を聞き、実態に即して時期を判断すべきだ」と戸惑いの声が上がる。
「町内の除染は進まず、インフラ整備も遅れている。現時点で解除の見通しは立たない」。全町避難する浪江町の幹部は17年3月の解除に疑問を呈する。環境省は当初、同町の除染を14年3月に終える予定だったが、仮置き場の同意取得遅れなどで17年3月に延期。宅地除染の進行率は13%にとどまる。下水道の完全復旧も18年3月にずれ込む見通しだ。
早ければ17年4月の帰還開始を目標に掲げる富岡町も懸念を抱く。同町の除染完了時期は17年3月。宮本皓一町長は「解除目標を掲げたことに意気込みを感じるが、除染を終えて解除条件がきちんと整うかが不透明だ」と不安視する。除染作業は進んでも、中間貯蔵施設の稼働は未定で、廃棄物の搬入時期は見通せない。
国の原子力災害対策本部は避難指示解除準備区域の解除の考え方として「県、市町村、住民との十分な協議を踏まえ解除する」と示している。今回の一方的な解除期限の提示に、富岡町の幹部は「避難自治体と国が積み上げてきた議論が崩れかねない」と困惑する。 浪江町の馬場有町長も「町民の意見を聞かなければならない。帰還するか否かは第三者委員会で検証してからだ。課題が解決できる状況でないと判断できない」と話している。
「帰還 押しつけ」 憤る被災者 除染途上…高線量も
東京新聞 2015年5月30日
福島第一原発事故による福島県の「避難指示解除準備区域」と「居住制限区域」を解除するよう求める与党の提言に、避難者らは「帰還の押しつけになる」と不安を隠さない。専門家は「避難継続と帰還のどちらの選択も支援する政策が必要だ」と訴える。 (辻渕智之、鷲野史彦)
■福島・南相馬
「避難勧奨は解除された。でも子連れで帰ってきたのは一軒しかねえんだ」
福島県南相馬市原町区高倉地区の菅野(かんの)秀一区長(74)はため息をつく。農道わきの溝は除染がまだ。除染した家の玄関先や庭でも、雨どいの近くなどで線量が再び上がっている。未除染の近くの山や原野から、木の葉や土ぼこりが風で飛んでくる。それが雨で流れて集まる場所だという。「そんな場所が生活圏のあちこちにある。これから避難指示が解除される区域でも同じことは必ず起きる」
南相馬市では、市北西部で局所的に線量が高くなった「特定避難勧奨地点」の指定が昨年末に解除された。百四十二地点で百五十二世帯が対象だった。東電からの一人月十万円の慰謝料も三月に打ち切られた。「解除の先例モデル」だが、世帯の六割は避難先から今も戻らないという。
国が解除に踏み切った根拠は、昨夏の調査結果だ。「指定基準の年間被ばく線量二〇ミリシーベルト(空間線量毎時三・八マイクロシーベルト相当)を下回った」と説明するが、測ったのは各世帯で玄関先と庭の二カ所だけだった。ところが菅野さんによると、国が判断対象としなかった雨どいの出口や排水溝の周りは今でも毎時五マイクロシーベルトを超える。配水池の周辺でも一〇マイクロシーベルトを上回るという。
「そもそも解除基準の年間被ばく二〇ミリシーベルトは、原発作業員の上限(五年間で一〇〇ミリシーベルト)に匹敵し高すぎる。国は先に結論ありきで帰還を押しつけている」
■首都圏
与党の提言は、東電による一人十万円の慰謝料も一八年三月に打ち切る内容だ。浪江町の居住制限区域から、東京都江東区の国家公務員宿舎「東雲(しののめ)住宅」に夫(86)と避難する女性(80)は「帰りたくても帰れない。ここに住めず、慰謝料もなくなったら困る」と心配する。
収入は年金だけで、二人で月二十万円の慰謝料を生活費に充てる。四月に自宅に一時帰宅すると、柱はネズミにかじられ、雨漏りしていた。玄関前の空間線量も毎時四・一マイクロシーベルトで、避難指示基準を超えていた。再び暮らすのが難しいと覚悟し、国の事業で自宅を解体することに決めている。
だが避難指示が解除されれば自主避難の扱いとなるので、今は無償で暮らす東雲住宅からも出て行かなければならない可能性もある。「日々の生活ができなくなるかも」と漏らした。
「この道は除染されたが溝や周囲の原野は除染されず放射線量は
高い」と農道わきの溝を指さす菅野秀一さん(手前)=福島県南相馬市で