2015年5月6日水曜日

川内原発再稼動差し止め却下の決定は事実誤認によるもの

 4月22日に九電川内原発1、2号機の再稼働差し止めを却下した鹿児島地裁の決定内容を東京新聞が検証したところ、主な論点とされた避難計画や巨大噴火リスクに関する事実認定に大きな問題のあることが明らかになりました。
 この事実を誤認したズサンな決定にはワケがありました。
 
 川内原発の差し止め仮処分却下の前に、それとは正反対に関電高浜原発3、4号機再稼働差し止めの決定(4月16日)を行った福井地裁樋口英明裁判長(職務代行で決定、現在は家裁判事)は、大飯原発3、4号機の運転差し止めの本訴で、2014年5月に運転差し止め画期的な判決を下しました。
 しかし最高裁事務総局(判事の人事権を握っている)は、それを意に沿わないものとして、樋口判事を翌年4月の異動で家庭裁判所判事に左遷しました。
 
 うなると良心に従って判決を下すことをせずに、事務総局の意向だけを気にしている判事の場合に原発停止の判決はあり得ないことになります。九電 川内原発1、2号機の稼働差し止め仮処分申請を却下した鹿児島地裁の前田郁勝裁判長がまさにそれでした。
 ひたすら最高裁の意に沿おうとするだけの気持ちが先立つと、いわば予定調和型の「運転の停止はしない」という結論を出すことが主眼となるので、その理論付けなどは最早どうでも良くなるのです。その結果が今回の川内原発に関する決定でした1
1 4月28日 川内原発仮処分却下 本当に「不合理な点はない」のか 
 
 5日の東京新聞はこの判決を取り上げて、事実認定に問題があることを具体的に明らかにしました。同記事では耐震強度は取り上げませんでしたが、住民の避難計画と巨大噴火のリスクに関する具体的な情報を収集して、事実認定の誤りを明らかにしています。
 
 川内原発の避難計画においては、避難弱者の避難計画が立てられていないことや、知事自身が10キロ以遠の地域では実効性のある避難計画を定めることは不可能と述べたことが知られていました。また他所でも、バスの手配と運転手の手配が至難で事実上不可能とされているという実態がありました。従って住民の命と健康を守る避難計画が立てられていないことは明白でした。
 
 また巨大噴火のリスクについては、原子力規制委が川内原発の適合性審査で合格の方向性を決めた後で、アリバイ作りのようにして火山モニタリング検討チームを設置しました。
 そこに招聘された火山学会の石原和弘委員長、火山噴火予知連絡会藤井敏嗣会長、東大地震研中田節也教授らは、原発の運用期間中に限定しても破局的噴火の可能性が十分小さいとは判断できないこと、モニタリングにより火山の噴火を予知・予測することはできないこと、マグマ供給の変化の把握には地下のモニタリングが必要であること、噴火の前兆が現れるのはせいぜい数ヶ月前であり、核燃料搬出の時間的余裕をもって予測することなど不可能であること等々の指摘を行いましたが、原子力規制委はことごとく無視しました2
    2  2014年6月1日 火山噴火リスク軽視の流れ、専門家から批判 
        2014年6月28日 川内原発:火山対策、予知頼みは無謀と専門家 
 
 鹿児島地裁川内原発1、2号機の稼働差し止め仮処分申請却下の決定は却下自体を目的としたもので、上述の事実関係を全く無視したものでした。
 文章はもっともらしく書かれていますが、その実態は真実とはほど遠く、極めていい加減なものでした。
 
 今後は司法において、こうした無責任な決定や判決が続出する惧れが十分にあります。福島原発事故前の司法に戻るということです。
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地裁差し止め却下 「川内」事実認定に問題
東京新聞 2015年5月5日
 九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県)の再稼働差し止めを却下した鹿児島地裁の決定内容を、本紙が検証したところ、主な論点とされた避難計画や巨大噴火リスクに関する事実認定に大きな問題のあることが浮かび上がった。 (小倉貞俊、荒井六貴)
 
 先月二十二日の地裁決定は、原発の新規制基準に不合理な点はなく、避難計画の具体化や物資の備蓄も進み、多数の専門家が巨大噴火の可能性は小さいとしているなどとして、住民らの訴えを退けた。
 しかし、地裁決定には、いくつもの疑問点がある。
 三十キロ圏の住民は、地区ごとに避難先が指定されているが、風向きによっては放射能汚染で使えなくなる可能性がある。地裁は、県が調整システムを整備し、迅速な避難先の変更に備えていると認定した。
 県に取材すると、風向きの入力で避難先施設の候補がリスト化される程度のもの。必要な人数を収容できるかや、汚染状況は一件一件、現地とやりとりする必要がある。入院患者らの避難先についても、病院の空きベッド数データがないため地道な確認が必要だ。
 半年前、避難者受け入れに向けた計画ができていなかった鹿児島県霧島市など十二市町に取材すると、指定先の学校や公民館などへの説明や、避難所の運営方法などの協議はいずれもされていなかった
 
 一方、巨大噴火への備えについて地裁は、九電の火山監視の手法や能力に「専門家から異論はなかった」と問題ないと評価した。しかし、専門家とされた当の東大地震研究所の中田節也教授らからは「曲解された」「事実誤認だ」との声が上がっている
 住民側は近く福岡高裁宮崎支部に抗告する予定だ。
 
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避難システム「時間稼ぎ程度」 「川内」司法判断に専門家ら異議
東京新聞 2015年5月5日
 「決定の中で、いいように利用された」。九州電力川内(せんだい)原発の再稼働差し止め要求を却下した先月の鹿児島地裁の決定。原発の安全性や避難計画の実効性を認め、火山の巨大噴火の可能性は低いと認定しているが、本当にその通りなのか。裁判所の判断の材料となった関係者からは大きく異なる証言が得られた。 (小倉貞俊、荒井六貴)
 
 鹿児島県は原発事故時、まず原発五キロ圏の住民を避難させた後、外側の住民を段階的に避難させる方針。決定は福島原発事故のような大混乱、大渋滞を回避できると期待するが、実は県自体、四割の住民が指示を待たず逃げ始めると想定している。
 原発から約十二キロ、薩摩川内市の山之口自治会長・川畑清明さん(58)は「五キロ圏の避難を待てば、自分たちが被ばくしかねない。すぐ避難を始める人も大勢いるはず。計画は現実的ではない」とみる。
 鹿児島地裁は「避難計画に実効性あり」と判断した根拠の一つに、県が導入した避難先の調整システムを挙げた。しかし、県防災担当者にシステムの能力を問うと「コンピューターで自動的に調整できるわけではありません。多少の時間節約にはなると思いますが…」との答えが返ってきた。
 風向きを入力すれば、避難所候補リストから放射能が少なそうな方角の候補を絞り込んではくれるが、それ以上のものではないとのことだった。
 
 決定は、県が入院患者らの避難に必要な台数のバスを確保する方針であることを挙げ、避難が順調に進むかのように書いているが、バスの運転手の被ばく管理をどうするのかなど課題は山積し、バス確保のめどすら立っていない
 川畑さんも「被ばくの恐れがある中で、運転手の理解を得られるのか」と疑問を口にした。
 
 もう一つの大きな争点が火山の巨大噴火のリスク。決定は、専門家たちが九電の火山監視能力や対応策の有用性を認め、噴火のリスクも小さいと認めているかのように書いているが、複数の専門家から厳しい声が出ている。
 「南九州で巨大噴火が起こらない保証はない。決定の中で、自分もいいように利用された。ひどい決定文だ」。日本火山学会理事で東大地震研究所の中田節也教授はこう憤る。
 決定は、二〇一三年十月に開かれた旧原子力安全基盤機構(原子力規制委員会に統合)の会合で、九電の火山対応について「出席者から特に異論が出なかった」ことを根拠に、九電に十分な監視能力ありと認定している。
 この会合に出席していた中田教授は「事務方から説明を受けただけ。問題があると思っていたが、意見を求められず、指摘する機会もなかった説明だけなのに、同意があったように書かれている。曲解され腹立たしい」と話した。
 
 一四年八月から規制委の会合で、火山監視の議論が始まったが、専門家からは噴火予知は非常に難しく、特に巨大噴火は観測データそのものがないなどの指摘が相次いだ。だが、地裁はなぜかこうした指摘をくみ取らなかった。
 決定が巨大噴火の可能性を認識する火山学者は少数派としている点について、火山噴火予知連絡会長の藤井敏嗣(としつぐ)・東大名誉教授は「事実誤認で、科学的ではない」と断じこう現状を語った。
 「ほとんどの学者が大噴火はあると思っている。十年先なのか千年先なのか分からないが、危険がないように書かれているのはおかしい。噴火数日前に異変をとらえ、人を避難させられるかもしれないが、数年前から(熱い核燃料を冷まし、搬送容器に入れられるよう)前兆をとらえられるか、見通せるわけがない