原発の新しい規制基準で必要になった追加の安全対策費が大手電力9社で少なくとも総額2兆3千7百億円を上回る見通しであることが、東京新聞の調べで分かりました。経済産業省が2013年秋に公表した調査結果約1兆6千5百億円の7千億円増しで、まだ試算すらできていない原発もあるので総額はさらに膨らみます。
それにしても欧州が、他所で事故が起きるたびにその対策を講じてきたのに対して、日本はチェルノブイリ原発事故やスリーマイル島原発事故など、他所で何が起きてもそれによって安全対策を見直すことはしませんでした。
これらの安全対策費の一部は既に電気料金に上乗せされていますが、全てを盛り込めば原発の発電コストはさらに押し上げられ、無理に見かけのコストを下げて経済性を再稼働の理由にしようとしている政府や電力業界の目論みに支障が生じます。
問題はこの安全対策費が継ぎはぎだらけの不十分な対策をベースにしたものであることで、欧州では1979年のスリーマイル島原発事故を機に、「フィルター付ベント」や溶融した炉心が地中に潜り込むのを防ぐ「コアキャッチャー」を装備したり、2001年の9・11事件以降は大型旅客機が突っ込んでも原子炉が損傷しないように防護設備の二重化を図るなど、大幅なコストアップを伴う安全対策に進んでいるのとは大違いです。欧州では外部電源を喪失した時でも全自動で原子炉を停止できるなど、電気計装設備の対応も完璧です。
いまや欧州の安全対策と日本のそれとは月とスッポンの違いですが、それは原子力ムラが作った安全神話に自らが溺れて思考停止に陥っていた結果です。再稼動を目指すというのであれば、政府と電力会社は先ず本当に現行の安全対策で十分なのかを見直すことから始めるべきです。
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原発安全費2.3兆円増 13年新基準後、揺らぐ経済性
東京新聞 2015年5月17日
福島第一原発事故後に施行された原発の新しい規制基準で必要になった追加の安全対策費が大手電力九社で少なくとも総額二兆三千七百億円を上回る見通しであることが本紙の調べで分かった。経済産業省が二〇一三年秋に公表した調査結果は約一兆六千五百億円で、一年半の間に四割、金額にして七千億円増加していた。各社によると、まだ試算すらできていない原発もあり、費用はさらに膨らみそうだ。
安全対策費の一部は既に原発維持に必要な経費として電気料金に上乗せされ、企業や家庭が負担。対策費の増加は原発の発電コストを押し上げる要因になり、経済性を理由に再稼働を目指す政府や電力業界の主張が揺らぐことにもなる。
本紙はことし四月、原発を保有していない沖縄電力を除く九社を対象にアンケートを実施。東京電力福島第一原発事故後、追加の安全対策として行っている工事や計画している工事などについて尋ねた。
それによると、関西電力を除く、八社が経産省の調査時点から軒並み増額。関電は「最新の数値は公表できない」として経産省の調査以前の一二年十一月時点の金額を回答した。
このうち北海道電力は、九百億円から二千億円台前半と二倍以上に膨らんだ。同社は泊原発1~3号機(北海道泊村)の再稼働に向け原子力規制委員会で審査中だが、規制委から火災の防護対策が不十分との指摘を受け「必要な工事が大幅に追加となった」(広報部)としている。
同じく島根原発2号機(松江市)が審査中の中国電力も二千億円超と、ほぼ倍。浜岡原発(静岡県御前崎市)敷地内に海抜二十二メートルの防潮堤などを建設している中部電力は三千億円台後半で、当初から五百億円以上の上積みになる見通し。
アンケートでは九社のうち北海道電、中部電、関電、中国電、四国電力の五社が「審査の進展に伴い工事内容の見直しや追加を行う可能性もある」(中部電)などと回答、今後さらに増額する可能性があると答えた。関電は運転開始四十年前後の老朽化した高浜原発1、2号機(福井県高浜町)の再稼働も目指している。
電力九社以外では、敦賀原発(福井県敦賀市)など三基を保有する日本原子力発電は九百三十億円超と回答。建設中の大間原発(青森県大間町)を持つ電源開発(Jパワー)は千三百億円を安全対策費として投じるという。
<原発の新規制基準> 福島第一原発の事故を受けて2013年7月8日に施行。津波対策としての防潮堤建設や全電源喪失事故に備えた非常用発電設備の設置、重大事故の影響を緩和するフィルター付きベントなども義務づけた。一方、航空機衝突などのテロ対策拠点となるバックアップ施設は5年間猶予。地元自治体の避難計画については定めていない。電力各社が15原発の24基の適合審査を原子力規制委員会に申請している。