東電は16日、6、7号機が規制委の審査に事実上合格した柏崎刈羽原発を報道陣に公開しました。
新基準で新たに追加されたフィルター付きベント(排気)装置(格納容器の圧力を下げるために気体を大気に逃がす際のフィルター)の設置は完了しました。
耐震不足が指摘された免震重要棟の代替施設の工事はこれからです。
フィルター付きベントは格納容器内のエアーを排気する際のものですが、過酷事故時には格納容器内も最悪原子炉内の蒸気とほぼ同じ濃度の放射性物質を含むので、原子炉内の蒸気を居住空間に放出するのに支障がないレベルの除去能力を持たせる必要があります。
しかし記事によるとそのフィルターはいわゆる金属フィルターであって、その性能は粒子状の放射性物質を1/100に減じるに過ぎないということです。
原子炉内の放射性物質は大半がヴェーパー状(蒸気)の筈なので、それらは全く取れないということです。
通常原発のベントフィルターの性能は1/1000~1/10000と言われていて、ヴェーパー化した放射性物質もスクラビング(水洗い)等によって除去し、その容量は外国の例では「ビルほどの大きさ」だと言われています。現に柏崎刈羽原発に設置されるものは、当初は1/1000に減らせるとされていました。
それに対して柏崎刈羽原発に設置されたものは直径約4m、高さ約8mの円筒形のものだということで、余りにもチャチで話になりません。
除去性能が1/100で良いとされたことと言い、規制委は一体どのような基準で審査したのでしょうか。
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東電の柏崎刈羽原発、フィルター付きベント設置完了
日経新聞 2017年10月16日
東京電力ホールディングスは16日、原子力規制委員会の審査に6、7号機が事実上合格した柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)を報道陣に公開した。過酷事故時に格納容器の圧力を下げるために放射性物質を抑えながら気体を逃がすフィルター付きベント(排気)装置の設置が完了した。ただ耐震不足が指摘された免震重要棟の代替施設の工事が進むのはこれからで、再稼働にはまだ長い道のりが予想される。
6、7号機の近くに設置されたフィルター付きベント(排気)装置に「ヨウ素フィルター」を取り付ける工事が昨年に完了した。本体のベント装置設置が完了し、今は使用前検査を行うための工事を行っている。
フィルター付きベント装置は水や金属のフィルターを通すことで、緊急時の排気で出る粒子状の放射性物質を99%以上除去できるという。同装置は新たな規制基準に対応するため「沸騰水型」の原発で設置が必要になっている。
東電はテロなどの危険の少ない地下にもフィルター付きベント装置を設置するとしている。現在は設置予定の現場に穴を掘る準備工事をしている段階だ。またベント自体を回避するために、原子炉格納容器の圧力上昇を抑制する新たな水の循環系統を新設する取り組みも進めている。
ただ、建設した免震重要棟の耐震性が不足していた点の対応はこれからだ。東電は免震重要棟に代わる新たな緊急時対応拠点を5号機の建屋内に設置する。もともと建屋内に存在していた計算機室を今夏に撤去し対応拠点化の工事を開始した。完成には「まだ時間がかかる」(東電)としており、具体的な時期の見通しは立っていない。
福島第2原子力発電所の設備用に納入された神戸製鋼所子会社の配管で、寸法記録に測定せず想定値が記載されていた製品があった問題に関して、柏崎刈羽原発の設楽親所長は「神戸製鋼所の製品を取り扱っていたことはある。不正の対象になっている製品があるか資材部門やメーカーなどを通じて確認している」とした。
柏崎刈羽原発は今月4日に事故を起こした福島第1原発と同じ「沸騰水型」の原発として最初の合格内定を受けた。ただ、新潟県の米山隆一知事は福島原発事故の検証が進まない限り再稼働に同意しないと述べている。
東電は柏崎刈羽原発の安全対策工事に6800億円を投じるとしている。設楽所長は「審査や工事の進捗などで変わってくる可能性はある」と述べた。現場では進捗も見られたが、再稼働への道のりはまだ険しい状況だ。(福本裕貴)
【参考資料1】
「フィルタ付きベント設備」は、どんなもの?
ニュースがわかるトピックス 2013年3月1日
「フィルタ付きベント設備」は、燃料が損傷する過酷事故が発生した場合に格納容器内の圧力や温度を下げ、また、大気中への放射性物質の放出を抑えるための、緊急の排気設備です。原子炉格納容器が収められた原子炉建屋の外側に設置するタンクがフィルタの役割を担います。格納容器から配管で導いた気体を、タンク内の薬液や金属フィルタを通すことで放射性ヨウ素や放射性セシウムなどを1000分の1から10000分の1以下に減らして、大気中に排出します。すでに基礎工事が始まっている東京電力の柏崎刈羽原子力発電所の例では、タンクは直径約4m、高さ約8mの大きさとなっています。
原子力規制委員会は平成25年2月6日に、原子力発電所の新たな安全基準の骨子案を公表し、 シビアアクシデント(過酷事故)対策のひとつとして「フィルタ付きベント設備」の設置を義務づけるとしています。各電力会社では、「フィルタ付きベント設備」の設置に向けて計画を進めています。
また、アメリカでも福島第一原子力発電所の事故後、原子力規制委員会から福島第一と同じ沸騰水型(BWR)の発電所に「フィルタ付きベント設備」を設置する指示が出され、すでに「フィルタ付きベント設備」が設置されているフランスなどヨーロッパの国々でも、さらに性能の高いものに取り替えるようにとの指示が出されています。
参考:原子力規制委員会「発電用軽水型原子炉施設に係る新安全基準骨子案について」
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【参考資料2】
フィルター付きベント設備、既存原発に設置へ 電事連
日経新聞 2012年2月7日
電気事業連合会は7日、東京電力福島第1原子力発電所事故を踏まえて安全性を向上するため、放射性物質の放出量を1000分の1に減らせるフィルター付きベント(排気)設備を既存原発に設置すると発表した。原子力委員会の専門会合で公表した。万が一の事故が起きた際も、避難区域の縮小が見込めるとしている。
電力各社が設備を設置する時期は未定と説明している。安全対策の1つではあるが、原発再稼働の前提となるストレステスト(耐性調査)を判断する条件にはなっていない。
設備は福島第1原発と同じ沸騰水型のほか、加圧水型の原発にも設置する。原発のベント設備に放射性物質を取り除くフィルターを設けるほか、遠隔操作でベントできる装置も追加する。
福島第1原発事故では炉心溶融で格納容器の圧力が高まった際、ベントを実施して大量の放射性物質を放出した。