東京新聞は20日付の「原子力機構、除染排水に二重基準 異なる管理基準を設定」と題する短い記事で、福島県の除染モデル実証事業を発注した原子力機構(日本原子力研究開発機構)が、2011年11月に受注した3つのゼネコン共同企業体(JV)に、2つの異なる除染排水の管理基準=放射性セシウム濃度:1リットル当たり90ベクレル以下と200ベクレル以下=を設定していたことを報じました。
同紙は21日、再び同じタイトルで、200ベクレル以下の排水を農業用水に流しては農業復興ができなくなるという新潟大学教授の重要な指摘と併せて、原子力機構と鹿島、大林組、大成建設の3つの共同企業体の間に人事交流があることなどが背景にあるとするフォローアップ記事を載せました。
それまで除染とはまったく縁のなかった原子力機構が国の除染事業の中心組織となり、鹿島、大林組、大成建設などのゼネコン共同企業体を使って除染に取り組むことになったことに対して、「これまで原発の建設などで稼いできた原子力村のメンバーが、そっくりそのまま除染事業でも稼ごうとしている」のだとする批判は最初からありました。
以下に東京新聞の記事を紹介します。
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原子力機構 除染排水に二重基準
東京新聞 2013年7月21日
福島県の除染モデル実証事業を発注した日本原子力研究開発機構が、二〇一一年十一月に受注した三つのゼネコン共同企業体(JV)に、二つの異なる除染排水の管理基準を設定していたことが二十日、共同通信の調べで分かった。
鹿島と大林組の二つのJVには、政府が除染排水の目安としている原発の排水基準「放射性セシウム濃度は一リットル当たり九〇ベクレル以下」を適用。一方、大成建設JVには、当時「原発排水より甘い」と問題視され、政府が見直しを検討していた暫定的な飲料水基準「二〇〇ベクレル以下」を大成の要望通り認めた。
飲料水基準は直後の同年十二月、厚生労働省が二十分の一の一〇ベクレル以下まで大幅に引き下げている。
放射線の環境影響に詳しい岡野真治・元理化学研究所研究員は「住民の意向で国(の目安)より厳しくすることはあっても、緩めることはあり得ない」と指摘。企業の要望通りに緩い基準を容認した原子力機構の姿勢が問われそうだ。
原子力機構と各JVによると、排水基準について個別に交渉。鹿島と大林組は「(政府の目安の)ほかに適用すべき基準はない」として九〇ベクレル以下で原子力機構と合意した。一方の大成は「緊急的な線量低減が求められている」とし、原発事故直後に暫定的に設定された飲料水基準二〇〇ベクレル以下にならうことを提案。同機構は「(九〇ベクレル以下は)法令基準ではないので二〇〇ベクレル以下でも問題ない上、(実証事業は)委託研究なので受託元の考えを尊重した」として、異なる排水基準の並立を容認した。
実証事業での排水基準は、設定を変えることによるデータ収集が目的ではなく、あくまで環境保全のためだった。
二〇〇ベクレル以下を認められた大成JVには日本国土開発などが参加。原子力機構の事業報告書などによると福島県南相馬市、飯舘村、浪江町で最大一五三ベクレルの排水をした。南相馬市では一部を農業用水に通じる側溝に流していた。
同機構は事業終了時の昨年六月にまとめた「質問・回答集」で、九〇ベクレル以下を管理基準とし、排水の目安にしたとの見解を公表した。
◆農業復興への妨げ
新潟大学大学院の野中昌法教授(土壌環境学)の話 除染モデル実証事業の地域は農業地帯だ。排水が農業用水に入り、放射性セシウムが底に沈殿し再汚染するため、一リットル当たり二〇〇ベクレルを基準に排水したら農業復興はできない。現地を調査しているが、大水が出ると、普段〇・一ベクレルの水に沈殿したセシウムが混濁し、約二〇ベクレルまで上昇したことがあった。稲作の実験では、〇・一ベクレルの水で育てた稲から、一キロ当たり約八〇ベクレルを検出し八百倍の濃縮度を確認したケースもある。排水は慎重にすべきだ。
<原子力機構とゼネコン> 日本原子力研究開発機構は、高速増殖原型炉「もんじゅ」や核燃料再処理技術の研究開発などを理由に、産業界との人事交流を進めてきた。日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構が合流して原子力機構が発足した2005年10月以降、除染モデル実証事業がスタートした11年末までの約6年間で、大成建設、鹿島、大林組などゼネコン14社から計84人の出向を受け入れた。原子炉メーカーや電力会社も多数の出向者を出している。