2015年1月10日土曜日

原発大国フランスも揺らぎ始めています

 8日付のハフィントンポストに「揺らぎ始めた原発大国フランス」と題する記事が載りました。
 
 稼動原発58基を有するフランスはアメリカに次ぐ原発大国ですが、フランスの「国有企業」であるアレバは、福島原発事故を契機に、世界各地の原発新設計画凍結されたり、安全対策強化に伴うコスト増、さらには日本をはじめとする原発稼働停止に伴う燃料販売の急減などで収益が悪化し、11年度以降はずっと赤字経営(合計5000億円以上)に陥っているなど、その勢いは揺らいでいます。
 
 アレバがフィンランドで建設中のオルキルオト原発号機安全性を高めた最新基準のものですが、05年の着工時点では30億ユーロ(約4380億円)だった総工費が、現在では85億ユーロ(約2410億円)に膨れ上がり、完成時には39億ユーロ(約5690億円)の損失が見込まれているという具合で、安全基準を充実させれば原発は決して「商業ベースには乗らない」ということも明らかになってきています。
 
 いまのフランソワ・オランド大統領は2012年、原発依存度を75%から50%に引き下げる公約を掲げて当選しました。
 そして昨年10には、下院で、原発設備容量の現状(6320万kW)凍結や2030年までに再生エネルギーの発電シェアを32%に引き上げることなどを盛り込んだ「エネルギー移行法案」を可決させ、「縮原発」路線を押し進めています。
 
 アレバは14年1月にスペインの風力発電大手『ガメサ』と洋上風力発電の合弁会社を設立するなど、原発ビジネスの危うさを経営陣実感しているということです。
 
 アメリカでは現に5基もの原発の廃炉が実行され、フランスでもこうした方向転換が図られている中で、日本だけがガラパゴス島に閉じこもって経産省の主導で原子力ムラの利益を固守しようとすることは到底許されません。
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揺らぎ始めた「原発大国フランス」
 ハフィントンポスト 2015年1月8日
 欧州の電力業界へ次々に変革の波が押し寄せている。3.11以降にドイツやイタリア、スイスなどが「原発ゼロ」への道を選択し、スペインも原発を新設せず、再生可能エネルギーのシェア拡大へ舵を切った。そこに拍車を掛けたのがフランス。2012年の大統領選で原発依存度を75%から50%に引き下げる公約を掲げて当選したフランソワ・オランドの政権下で「縮原発」が進んでいる。仏政府が大株主の『フランス電力公社(EDF)』では既存原発の閉鎖を迫られ、従わないトップが昨秋更迭される事態に発展。仏原発大手『アレバ』の経営危機も深刻化し、15年の年明けには大掛かりなリストラ計画が浮上する見通しだ。「原発の黄昏」は電力ビジネスの先進地である欧州で一段と色彩を強めつつある。
 
CEO"解任騒動"の背景
 EDFは、フランス国内で稼働する原発58基をすべて保有・操業しているほか、1990年代末からEU(欧州連合)が進めた電力自由化に合わせ、欧州全域に事業を拡大。英国で稼働中の16基の原発のうち、子会社の『EDFエナジー』が15基を保有し、さらにドイツ電力大手『EnBW』を傘下に収めるなど、欧州最大の電力会社に成長した。04年にパリ・ユーロネクスト市場に株式を上場したものの、いまだに仏政府が約85%の株式を持つ「国有企業」でもある。
 
 そのEDFの最高経営責任者(CEO)だったアンリ・プログリオ(65)の"解任騒動"が起きたのは14年10月15日。『ウォールストリート・ジャーナル』など米系メディアが仏政府筋からの情報として「プログリオの追放」を報じた。この時点でEDFはトップ人事について機関決定をしておらず「ノーコメント」だったが、翌11月に仏航空・鉄道システム大手『タレス』のCEOだったジャン=ベルナール・レヴィ(59)が後任に送り込まれ、プログリオは報道の通りEDFから「追放」された。
 
 実は、仏政府とEDFトップの軋轢の原因は「縮原発」政策にあった。オランド大統領は当選直後、現状75%の原発依存度を2025年までに50%に削減することを目標に、フェッセンハイム原発(1977年稼働、出力92万kWが2基)など老朽原発を中心に20基以上の閉鎖が必要と公言していたが、原発推進派のサルコジ前政権の指名で09年に就任したプログリオは、その「縮原発」に公然と反発。電力業界や労組を味方につけ、原発閉鎖に対して巨額の補償金を政府に要求する構えを見せていた
 プログリオは14年11月に5年の任期切れが迫っていたが、本人は定年の68歳まで続投を希望し、9月には「3年間の任期延長の可能性」をロイターなども報じていた。しかし、10月10日に仏国民議会(下院)が原子力設備容量の現状(6320万kW)凍結や2030年までに再生エネの発電シェアを32%に引き上げることなどを盛り込んだ「エネルギー移行法案」を可決すると、オランド大統領は「縮原発」路線が議会の信任を得たとして、直後に、政策遂行に立ちはだかっていた国有電力会社のトップ更迭を決断したのだ。
 
 実際、オランド大統領には時間がなかった。というのも、フランス北西部のフラマンビル原発では、現在アレバが開発した欧州加圧水型原子炉(EPR)を同国で初めて採用した3号機(出力163万kW)の建設が進んでいる。完成予定は16年(11月18日に1年遅延し17年になると発表)であり、新設のエネルギー移行法に添うには同程度の出力の原発を閉鎖する必要があるが、前述のように、プログリオの抵抗によって老朽原発の閉鎖は進んでいなかったからだ。
 
アレバ再建プラン
 新たにEDFのCEOの座に就いたジャン=ベルナール・レヴィは、フランスの理工系エリートが輩出する高等教育機関『エコール・ポリテクニーク』を卒業後、仏通信大手『フランス・テレコム(現オレンジ)』に入社。ミッテラン政権で産業貿易大臣官房として政府入りした後、仏投資銀行『オッド』社長、仏メディア大手『ビベンディ』CEO、続いてタレスCEOなどを歴任。華麗なるキャリアだが、エネルギー分野のビジネス経験はないとされる。
 
 そんなレヴィ起用の背景として囁かれているのが、業績不振に悩むアレバの再建問題との絡みだ。15年1月にアレバ再建役の1人として取締役会会長に就任予定の前『プジョーシトロエングループ(PSA)』会長兼CEO、フィリップ・バランはエコール・ポリテクニーク出身でレヴィと同窓であり、EDFを巻き込む形のアレバ再建プランが株式市場などでしきりにうわさになる根拠とされているからだ。
 
 仏政府が87%の株式を保有し、EDFと同様に「国有企業」であるアレバは、3.11をきっかけに世界各地の原発新設計画凍結や安全対策強化に伴うコスト増、さらに日本をはじめ取引先の原発稼働停止に伴う燃料販売の急減などで収益が悪化。純損益は11年12月期(通期)に24億2400万ユーロ(約3540億円)、12年12月期に9900万ユーロ(約140億円)、13年12月期に4億9400万ユーロ(約720億円)と3期連続の赤字。さらに14年1〜6月期も6億9400万ユーロ(約1010億円)の赤字だった
 
「商業ベースには乗らない」
 中でもアレバにとって最大の懸案は、フィンランドで建設中のオルキルオト原発3号機の問題である。安全性を高めた最新鋭のEPR第1号案件として05年に着工。アレバと独『シーメンス』の共同受注(比率はアレバ73%、シーメンス27%)で、当初は09年に稼働開始予定だったが、設計の不具合や現地下請け業者とのトラブルなどが頻発し、工期は再三の見直しの結果、現在は9年遅れの2018年とされている。
 
 おかげで、05年の着工時点では30億ユーロ(約4380億円)だった総工費も、現在では85億ユーロ(約1兆2410億円)近くに膨れ上がり、完成時には39億ユーロ(約5690億円)の損失が見込まれている電源喪失時の冷却機能維持や航空機の衝突にも耐えられる構造など、あらゆるリスクに対応できる強靱さが売り物だったが、「商業ベースには乗らない代物(しろもの)だった」と大手重電メーカー関係者は解説する。発注元である『フィンランド産業電力(TVO)』とアレバ=シーメンス連合は工費予算超過をめぐって激しい法廷闘争を繰り広げており、国際商業会議所(ICC)が仲裁手続きを進めているが、最近ではオルキルオト3号機の完成を危ぶむ声すら広がっている始末だ。
 
経営陣の迷走
 EPRの工事の遅れは、前述したフランスのフラマンビル原発3号機も同様。07年の着工当初は12年の運転開始を予定していたが、現在は17年の完成を目指している。発注者であるEDFは14年11月18日、それまで16年としていた運転開始が1年遅れると発表したが、その際、原子炉の上蓋や圧力容器の内部構造に必要な部品供給の遅れなど、スケジュール遅延の原因はすべてアレバにあると強い調子で非難している。
 
 アレバの経営陣も迷走している。同社のCEOでは東京電力福島第1原発事故発生直後の11年3月末に来日して技術協力を申し出たアンヌ・ロベルジョンが有名だったが、元々不仲とうわさされていたサルコジ大統領(当時)にEPRの失敗の責任を問われて同年6月に更迭。後任に同社ナンバー2だったリュック・ウルセルが昇格したものの、EPR建設は相変わらず難航し、業績のテコ入れにも失敗。12年に発足したオランド政権は、巨額赤字の連続で資本劣化が進むアレバに対して資本注入策を提案したが、ウルセルはコスト削減や資産売却で対応できるとしてこれを拒否し続けた。
 
 だが、事態は改善せず、格付会社『スタンダード&プアーズ(S&P)』が14年9月に投資不適格寸前となっていたアレバの長期格付けを「ネガティブ」と位置づけ、引き下げの検討を始めたのをきっかけに、仏政府からウルセルの経営責任追及の声が高まった。結局、10月20日にウルセルが健康上の理由で12月までにCEOを退任することをアレバが発表。投資抑制などの財務改善策や、仏政府が同社のガバナンス体制を抜本的に見直す方針であることも事前に公表され、ようやくS&Pも格付けの据え置きを決定。アレバの債券は危うく「ジャンク債」扱いになるのを回避できた。
 ウルセルはその後病状が悪化して死去したことが12月3日にアレバから公表され、後任のCEOにはナンバー2で最高執行責任者(COO)のフィリップ・ノシュが15年1月の臨時株主総会で昇格する予定だ。
 
 これまでアレバの経営体制は監査役会と執行役会の2層構造になっており、監査役会議長とCEOの足並みの乱れがしばしば問題視されてきた。このため、1月の臨時株主総会では、意思決定機関を取締役会に一本化する経営改革案が議題になる予定で、先に触れた取締役会会長に就任予定のバランが、アレバ再建のキーパーソンになる。
 
仏「電力ビジネス」に大変革か
 アレバの経営危機は、世界の電力市場に大きなインパクトを及ぼしている。英国では、南西部のヒンクリーポイントで20年ぶりの原発新設計画が進められており、EDFが中国企業2社と組んでアレバ製EPR2基を建設する予定だが、先述したフィンランドやフランスでのEPR建設の難航で、この計画を危ぶむ声が広がっている。日本勢では、三菱重工業がアレバと共同開発した中型の新型加圧水型軽水炉(PWR)「アトメア1」の売り込みに力を入れ、トルコの黒海沿岸都市シノップに4基を建設する計画だが、パートナーであるアレバの動向次第では、プロジェクトが大幅に見直される可能性も否定できない。
 
 アレバは14年1月にスペインの風力発電大手『ガメサ』と洋上風力発電の合弁会社を設立したのに続き、米『ゼネラル・エレクトリック(GE)』と独シーメンスが4〜6月に争奪戦を繰り広げた仏重電大手『アルストム』の買収騒動では、実現はしなかったものの、アルストムの風力発電部門を買収する意向を明らかにしていた。つまり、原発ビジネスの先行きの危うさを、アレバ経営陣も実感しているわけだ。オランド政権に近いEDFのCEOレヴィとアレバ取締役会会長のバランが、今後、フランスの電力ビジネスの流れに大きな変革をもたらすかもしれない。(敬称略)