2016年2月29日月曜日

29- 原発立地対策費 約1000億円の税収不足

 これまで国民にはほとんど知らされてきませんでしたが、電気料金から毎年およそ3200億円が電力会社を通じて政府に「電源開発促進税」として納められてきました。
 この促進税は全て原発関連に回され、原発立地自治体への交付金高速増殖炉「もんじゅ」の運営主体への交付金、原発事故に備えた安全対策費などに割り当てられました。
 
 促進税は特別会計で扱われ、毎年多額の税金が余る状況が続いたため会計検査院から問題視されるほどだったのですが、福島原発事故以降は、国の「立地対策」費用が膨らんだ結果、交付金に関しては昨年度からの3年間で1000億円近く税収不足になったということです。
 
 このため政府は今後交付金を減額することを検討していますが、交付金にはもともと使途の制約があるために、これまで自治体は交付金の大半を公共施設などのいわゆる「ハコモノ」を回すしかありませんでした。
 その結果莫大なハコモノの維持費の負担が自治体にのしかかったため、次々に原発の増設に応じるしかなかったという経緯もあります。
 長年交付金に依存した結果経済的自立性を喪失した自治体にとって、急激に交付金を減額されるのはとても耐えられません。立地自治体が経済的自立を果たすためには、自立性を喪失した以上の期間が掛かることは明らかです。
 
 原発事故が原因になっているということであれば、今期は空前の利益が予想されるという東電に応分の負担を求めるべきではないでしょうか。
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原発立地対策費 約1000億円の税収不足
NHK NEWS WEB 2016年2月28日
すべての電気利用者が納めている税金で原発などの立地自治体に交付金などを出す国の「立地対策」が原発事故の影響で費用が膨らみ、昨年度からの3年間で1000億円近く税収不足になっていることが関係省庁への取材で分かりました。国は不足分を補うため積立金などを取り崩していますが、その残高も1年分程度しかなく、専門家は立地対策の在り方を見直す時期だと指摘しています。
国は電気を利用するすべての人が納める「電源開発促進税」を財源にして、原発などを受け入れた自治体に交付金などを出す立地対策を行っています。この税金は資源エネルギー庁などの特別会計で管理され、かつては余るほど潤沢でしたが、5年前の原発事故のあと、除染で出た廃棄物の中間貯蔵施設の整備費が必要になるなどした結果、支出の規模が税収よりも多い年間1700億円以上に膨らんでいます。
こうした立地対策の財政状況について、特別会計の分析や関係省庁への取材を基にまとめたところ、昨年度の決算から来年度の予算案までの3年間に各年度433億円から263億円税収が不足し、その総額が992億円に上ることが分かりました。
国は、不足分を財源に余裕があった時代に積み立てるなどした1200億円余りの資金を取り崩すなどして補っていますが、残高は1年分程度の275億円しかないことが明らかになり、立地対策の厳しい財政事情が浮かび上がりました。
これについて、エネルギー政策に詳しい慶応大学経済学部の川本明教授は「原発事故以降、大きな問題があるのに議論が先送りされてきた。国は本当に必要な立地対策は何なのかしっかりと検証し、支出の削減など制度を一から見直す時期にきている」と指摘しています。
また資源エネルギー庁は「立地自治体との調整を行って必要な予算は要求するが、削らなければいけない予算は削り支出を見直していく」と話しています。
 
原発立地対策は税金が財源に
原発がある自治体などに交付金を出す国の立地対策は電気を使うすべての人が納めている税金を財源にしています。「電源開発促進税」というこの税金は、電気料金と一緒に払い電力会社を通じて国に納める仕組みになっていますが、料金の明細書にも内訳が記載されていないことから納税していることを認識していない人も少なくありません。この税金は、電気使用量が標準的な2人以上の世帯では月におよそ160円です。毎年およそ3200億円の税収があり、立地自治体に交付金などを出す「立地対策」のほか、高速増殖炉「もんじゅ」の運営主体への交付金などの「利用対策」、事故に備えた「安全対策」に使われます。この3つの使いみちの配分は来年度の予算案では、立地対策に最も多い1373億円、率にして43%が充てられていますが、立地対策の支出は1741億円を見込んでいて、税収だけでは368億円足りない状態になっています。
 
かつては多額の税金余る状況も
国の立地対策は、電気料金に上乗せされる「電源開発促進税」が昭和49年に導入されたことで始まりました。特別会計で管理されていて、立地対策の中心は、自治体が原発などを受け入れ建設が始まると多額の交付金が出される制度でした。しかし、新しい原発の建設が予定どおり進まなかったため支出は増えず、この特別会計は多額の税金が余る状況が続きました。会計検査院からは「国民が負担をした税金が使われないままたまり、もったいない」などと指摘され、たびたび改善を求められました。平成15年に当時の塩川財務大臣が一般会計の財政事情が厳しいなか、「母屋でおかゆをすすっているときに離れですき焼きを食べている」と特別会計を批判した際にも焦点の1つとなりました。
平成15年度からは余った税金の使いみちをはっきりさせて透明性を確保しようと、資源エネルギー庁が将来、原発が建設されるときに備えた「積立」として管理するようになりました。また、平成19年度からは毎年借金を重ね、やりくりが厳しい国の予算を助けようといつかは資源エネルギー庁に返すという約束のもと、財務省が余った税金の一部を一般会計で使うようになりました。
しかし、原発事故の影響で昨年度からは一転して税収が足りなくなる正反対の状況となり、平成28年度予算案では資源エネルギー庁の積立は1200億円以上あった残高が初めてなくなってゼロになる見通しで、一般会計から返してもらえるとされるお金も275億円まで減少する見通しとなっています。
 
支出減らす取り組み 行われず
国が「電源開発促進税」を財源にして原発などの立地自治体に支払う交付金や補助金は20種類以上あり、発電量や稼働年数が多いほど増えるのが特徴です。5年前に福島第一原発事故が起きてからも新たな交付金の導入や特例の適用が相次ぎ、支出を減らす取り組みはほとんど行われていないのが現状です。
現在、各地の原発は多くが運転を停止していますが、一定の割合で稼働しているとみなす特例によって立地自治体には多額の交付金が出されていて、この特例は当面、継続されます。さらに、来年度の予算案には原発が再稼働すれば地元の県や道に5年間で最大25億円の交付金を出すことが盛り込まれ、再稼働を進めやすい環境作りが行われています。
一方、廃炉が決まった自治体に対しては従来の交付金は打ち切られますが、財政運営への影響を和らげるため別の形での財政支援を新たに決めるなど、配慮されています。
立地対策を巡っては、去年11月に政府の行政改革推進会議が行った「秋のレビュー」でも議題に挙がり、制度が複雑で事後の評価も行われていないとして情報開示の必要性が指摘されました。
 
1基の廃炉が決まった敦賀市 脱交付金依存へ
国の立地対策の財政が厳しくなるなか、40年以上前から原発が立地し多額の交付金を受けてきた福井県敦賀市は本格的な支出の削減に乗り出しています。
敦賀市では昭和45年に敦賀原発1号機の営業運転が始まり、市の財政や地元の経済は40年以上にわたって原発とともに歩んできました。これまでに市が国から受けた交付金は500億円以上に上り、福祉施設や市民ホールなどが整備されたほか病院や保育園の人件費などにも充てられ、市の財政にとっては欠かせないものでした。
しかし、去年、市内にある原発1基の廃炉が決まったことで、来年度から交付金は6億円余り減ります。国はそれに代わる新たな支援策も導入しますが、金額は年々減って一定の期間がすぎれば無くなるため、市は支出の削減に乗り出しています。
市は、他の自治体と同じ水準まで福祉や医療のサービスを引き下げる計画を作るなど、予算の抜本的な見直しを進めています。また40年近く前に建設され、温泉や健康設備を備えた福祉施設についても毎年の赤字が3600万円に上り、改修にも多額の費用がかかるとして、ことしの秋にも廃止する方針です。
今月、開かれた市民説明会では参加者から「お年寄りの憩いの場を奪わないでほしい」といった戸惑いの声や、「簡素な代替施設を作ってほしい」という要望が出されていました。
敦賀市の渕上隆信市長は「今までの敦賀市は何もしなくても国の交付金をもらえる街だった。今はそんな時代ではなくなり、財政のスリム化に取り組んでいる。全国の原発の立地自治体は小さい経済が原子力に頼る歪んだ構造になっている。緩やかに変わっていくことしかできないので、国の支援を期待している」と話しています。