信濃毎日新聞が29日に再稼働した高浜原発3号機を例に、原発交付金の問題を取り上げました。
高浜町の財政に関しては、2013年度決算の一般会計歳入総額は91億8800万円、このうち原発関係の交付金が22億1100万円で歳入に占める割合は24%、さらに固定資産税収入が歳入全体の27%を占め25億1千万円に上ります。
このように町の財政が交付金に高率で依存しているのに加えて、地元企業も原発関連企業との取引が多く、町全体が原発抜きでは維持できない構造になっているので、事実上「立地自治体には再稼働を拒否する選択肢はない」(成美大学三好ゆう准教授)ということです。もともと原発が立地したところは過疎で産業の乏しいところでもありました。
こうして立地町が再稼働に同意するしかない状況下で、いま再稼働が進められているわけです。
交付金の本質は、原発という危険な施設を当てがわれた町への迷惑料であり危険手当です。それ故に例えば16年度予算で言えば900億円近いものが税金から拠出されるわけです。
立地町の財政や町のあり方を長年にわたっていびつにしてきた責任は政府(と電力会社)にあります。従って政府(と電力会社)には地域が自立に向けて基幹産業を育成出来るように支援していく責任があります。
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(社説)あすへのとびら 自治奪う原発交付金 支配脱する道探るとき
信濃毎日新聞 2016年1月31日
アメとムチ―。広辞苑によると、支配者の硬軟両様の政策を意味する。政府が昨年末に打ち出した政策は、まさに「支配者」の思考を映し出している。
原発が立地する自治体には、政府から多額の交付金が出る。来年度からこの交付金の額を、原発が再稼働した自治体に手厚くする。一方で再稼働が見通せない自治体は減収になる。
原子力規制委員会の新規制基準に合格した原発が再稼働できるかどうかは、最終的には立地自治体の「同意」にかかっている。今回の政策は財政面で締め付け、同意を半ば強制する。自治体が将来を選択する権利を奪うものだ。
<政府の買収行為>
九州電力川内原発1、2号機に続き、関西電力がおととい、高浜原発3号機(福井県高浜町)を再稼働した。再稼働に同意を求められた「地元」は、原発が立地する高浜町と福井県だけだ。
人口約1万人の高浜町の財政をみると、町が原発から脱却すると決断するのは容易ではないことが浮き彫りになる。
福井県と高浜町の資料によると、町の2013年度決算の一般会計歳入総額は91億8800万円。このうち、原発関係の交付金が22億1100万円で、歳入に占める割合は24%になる。さらに固定資産税収入が歳入全体の27%を占め、25億1千万円に上る。
同じ福井県若狭地方で原発を持たない小浜市(人口約3万人)と比較すると、一般会計の財政規模はほぼ半分にもかかわらず、固定資産税収入は1・6倍ある。原発関連施設からの課税収入の大きさがうかがえる。
高浜町はこれまで、原発関係の交付金で公共施設や観光施設を造り、その維持費や人件費も交付金で賄ってきた。交付金の活用事業は多岐にわたり、住民の予防接種や介護用品支給事業、高校生の通学費助成、乳幼児医療費助成なども対象だ。
地元企業も原発関連企業との取引が多く、町全体が原発抜きでは維持できない構造になっている。
東京電力福島第1原発の事故は、暴走した原発が国土と後世にどれほど深刻な影響を与えるのかを浮き彫りにした。原発が立地する地域が将来どう生きていくのか、住民たちが真摯(しんし)に話し合う機会になったはずだ。
それなのに、原発立地自治体の財政状況を研究している成美大学(京都府福知山市)の三好ゆう准教授は「立地自治体には事実上、再稼働を拒否する選択肢はない」と指摘する。
見逃してはならないのは、原発施設の減価償却に伴い、固定資産税の収入が減りつつある立地自治体が少なくないことだ。
高浜町では01年度に30億円あった固定資産税が5億円減少している。原発関係の交付金の減少は死活問題になりかねない。
政府は16年度当初予算案に、交付金の多くを占める「電源立地地域対策交付金」を868億円盛り込んでいる。政府が地元自治体の弱みに付け込んで「原発を支えるシステム」に組み入れ、「支配」する構造はあまりにも強固だ。
高浜原発で事故が起きれば被害が及ぶ京都府や滋賀県は、地元自治体並みの再稼働への同意権を求めたが実現しなかった。交付金などで大きな恩恵がある立地自治体のみに同意権がある現状は、政府による買収行為ともいえるのではないか。
原発再稼働の是非を影響を受ける地域全体が公正に判断するため、少なくとも避難計画の策定が義務付けられる半径30キロ圏の自治体には同意権を与えるべきだ。
原発立地自治体が考えなければならないことがある。「原発は永遠ではない」ということだ。
福井県敦賀市出身の三好准教授が、原発を抱える自治体の財政状況を調べ始めたのは「故郷の若狭地方の自治体が将来、財政破綻するかもしれない」という危機感を持ったからだ。
調べれば調べるほど、将来への懸念が強まった。原発への大きすぎる財政依存。原発が姿を消した時、この地域はどう生きるのか。
<新産業の育成急げ>
原発の運転期間は、福島原発事故を受け改正された原子炉等規制法で原則40年と規定されている。延長は1回に限り、最長で20年だ。脱原発の世論が定着する中、原発の新設も難しい。若狭湾の原発は老朽化が進めば徐々に姿を消していく。廃炉ビジネスが地元に残ったとしても期間限定だ。
脱原発を見据え、長期的視野で産業構造の転換を進めていくことが必要だ。若狭湾に14基の原発が誘致されたのは、産業が乏しかったからでもある。地域の自立に向け、早急に基幹産業の育成に取り掛からなければならない。政府もそれを支援していく責任がある。