2016年2月13日土曜日

【検証・中間貯蔵施設】福島県、町も「交渉関与を」地権者の会訴え

福島民友 2016年02月12日
 「評価額の算定結果が届かない」。環境省が福島市に置く現地拠点の福島環境再生事務所で電話が鳴り響く。中間貯蔵施設の整備予定地の現地調査後、地権者から問い合わせが相次いでいる。
 
 事務所はJR福島駅に近いビルの一室にある。地権者との用地交渉で現地に出ている職員が多いため、日中は空席が目立つ。「算定にはコンサルタント会社の力も借りているが、復興需要でそちらの人手も足りていない状況でして...」。担当者は、用地交渉が進んでいない現実を認めた。
 「地権者の中には、いまだ環境省から連絡がない人もいる。早く建設したいなら、もっと人員を増やして対応すべきだ」。大熊、双葉両町の地権者約100人でつくる「30年中間貯蔵施設地権者会」の会長門馬幸治(61)=大熊町からいわき市に避難=は、環境省の見通しの甘さを指摘する。
 環境省は4月にも、職員を100人規模まで増員する見通しだ。しかし、土地や建物の算定の標準的なケースでは1人当たり3カ月はかかる。算定作業の大幅な改善は期待できない。
 
 「県と町はずるい」。門馬の怒りの矛先はほかにも向かう。地権者の会は県外での最終処分を求め、環境省のほか県と大熊、双葉両町に対しても要望活動を展開している。活動する中で県や町の対応にも疑念を抱いた。門馬は「交渉は国と地権者に任せっきりだ。これでは環境省に不信感を持った地権者との交渉は進まない。県と町は黙ってないで間に入るべきだ」と訴える。
 
 「中間貯蔵施設は国の仕事」。県の担当者が漏らす言葉は、県が貫いてきた姿勢そのものだ。県庁西庁舎の8階にある「中間貯蔵施設等対策室」では、職員11人が地権者の要望集約や、施設関連の国の交付金を活用した制度づくりの支援などに当たるが、用地交渉には直接関わっていない
 県は新年度、土木部職員らを環境省に派遣し、地権者説明や土地の評価額算定作業の支援に当たる。「環境省が地権者に対し説明している内容も分からない。ただ、施設整備が滞れば県内の環境回復は進まない」。担当者の言葉に県の焦りがにじむ。
 
 地権者の不信感は最も身近な行政である町にも及ぶが、大熊町の担当者は「環境省が工程表を示さないので、建設状況が予定通りなのか遅れているのかすら評価できない」と困惑する。
 
 環境省の手際の悪さは、被災した県民同士がいがみ合うような事態にも発展しかねない。「まずは環境省の努力が必要だ」。大熊町長の渡辺利綱(68)は言い切る。(文中敬称略)