2016年2月21日日曜日

原発と司法(小出裕章ジャーナル)

 今回の小出裕章ジャーナルは「原発と司法がテーマです。
 日本の原発訴訟1973年以降20数件行われていますが、ことごとく住民側敗訴しています。例外的に85年の「もんじゅ」2審判決99年の「志賀原発」1審判決で勝訴しましたが、どちらも上級審で敗訴しました。 
 さすがに福島原発事故の翌年1月に最高裁が開いた原発訴訟をめぐる裁判官研究会では、過酷事故を踏まえて、これまでの姿勢を反省し今後は安全性をより本格的に審査しようという意見が相次いだということですが、事故から年月が経過して早くも喉元を過ぎてしまったようです。
 高浜原発再稼働禁止の樋口裁判長の決定が、最高裁が差し向けた判事によって早くも覆されました。福島事故前の司法のあり方に戻ろうとしています。
 
   (関係記事)
2012年8月31日 「原発訴訟の審理が改善される可能性が」
2013年1月19日 原発訴訟はなぜいつも国側が勝利するのか
 
追記 文中の太字箇所は原文で行わているものです。また原文では小出氏には「さん」がついていましたが、この紹介文では外しました。
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原発と司法
第163回 小出裕章ジャーナル 2016年02月20日
 
「私が少なくとも関わった裁判では、どんなに安全性論争をして原子力発電所が危険だということを立証しても、結局は裁判では勝てないということでした」
 
今西憲之:  今日は大飯高浜原発の差し止め却下、そして再稼働についていろいろ伺っていきたいと思います。福井地裁は昨年の12月24日関西電力高浜原発の3・4号機の運転を差し止めた4月の仮処分決定を取り消しました。簡単に言いますと、関西電力の異議を認めたということになります。先月1月29日、高浜原発3号機は残念ながら再稼働してしまいました。また大飯原発の3・4号機についても、運転差し止めを求めた仮処分申請を却下しています。安全性ですとか、責任の所在、ようわからんまま差し止めが却下されました。司法は福島第一原発の事故をどない思ってるのか、何を学んだのかなぁと思えてなりません。
小 出:  私自身は原子力の問題にずっと関わってきて、裁判で安全性というものを争ったこともかつてはありました。しかし私が少なくとも関わった裁判では、どんなに安全性論争をして原子力発電所が危険だということを立証しても、結局は裁判では勝てないということでした
    そのため私は、原子力というものに関する限りは、裁判いわゆる司法は独立していない、日本には三権分立というものはないんだというように思うようになって以降、原子力に関する限りは裁判に関わらないようにしてきました
    しかし、一昨年の5月に大飯原子力発電所の差し止め裁判の判決が福井地方裁判所から出されて、その判決では原子力発電所というのは巨大な危険を抱えているし、万が一でも事故を起こしたらば人々の生活が破壊されてしまうので、原子力発電所は動かしてはいけないという、実に画期的な、私から見るとまっとうな判決が出たのでした。
    続いて高浜原子力発電所に対しても、樋口裁判長というのですが、その方が再稼働させてはならないという判決を出してくださって、日本でもまだ司法が生きていたのだな、少しは希望があるのだなと私自身は思いました。
    しかし結局は、樋口裁判長は家庭裁判所に更迭されてしまうということになりましたし、最高裁が送り込んできた別の裁判官が再稼働してもいいというような判決を出してしまったわけです。「ああ、本当に日本という国では裁判というものはまだまだなんだなあ」と改めて私は思いました。
今 西: はい。安全対策上、想定すべき最大の地震の揺れの強さ、その揺れや津波に対する関西電力側の対策、そして使用済み燃料棒の保管の危険性。福井地裁はどの部分をとっても原子力規制委員会の審査に不合理な点はないとして、原発が周辺住民の人格権を侵害することはないという認定をしました。が、福島第一原発の事故を見ても、とてもそのようには思えません。本当に安全は確保されているのですか?
小 出: そのことが問題なわけですが、これまでももちろん原子力発電所に関しては、さまざまな基準があって、その基準に適合するかどうかを厳重に審査した上で原子力発電所の安全性を確認して認可してきたと、国の方は言ってきたわけです。
    しかし残念ながら、福島第一原子力発電所の事故が事実として起きてしまって、それまでの基準がだめだったということが事実としてわかったわけです。そのため「それなら新しい基準をつくらなければいけない」と言って、当初は新しい安全基準というものをつくりたかったわけですけれども、しかしどんなに厳密に審査をしたところで、その審査をすり抜けて事故が起きるということが福島第一原子力発電所の事故で示されてしまったわけですから、安全という言葉は使えない。だから規制基準というものをつくったわけです
    そして、その規制基準に合致するかどうかということを原子力規制委員会という委員会が審査してきて、川内原子力発電所、高浜原子力発電所、伊方原子力発電所という所に「新しい基準に適合したことは認める」と言ったわけですが、でもそれと同時に、原子力規制委員会の委員長の田中俊一さんは、「安全だとは申し上げない」と明言しているわけです。つまりどんなに厳しく審査したところで、大きな事故が起きる可能性はあるということを規制委員会自身が認めているわけですし、今回の福井地裁の決定も「可能性が全くないということではない」とはっきりと言っているわけです
    ただただ新しい規制基準に則ってやったんだからもういいだろうという、そういう判断で司法が結局、行政に屈服したということだと私は思います。
今 西: はい。再稼働しました高浜原発はプルトニウムとウランの混合生産化合物、いわゆるMOX燃料を使ってのプルサーマル発電となっています。
小 出: ええ、そのプルサーマルというのは、現在動いている原子力発電所、高浜原子力発電所もそうですけれども、そういう普通の原子力発電所でプルトニウムという物質を燃やしてしまおうという計画です。そんなことをすれば安全性が犠牲にされますし、経済性すらがないということを電力会社自身が認めているのです。
    なんでそんなことをやろうとしているかと言えば、そのプルトニウムという物質は長崎原爆の材料になった物質なのですが、それをすでに日本という国が大量に溜め込んでしまって、それをなんとか減らさないことには、国際的な非難をまぬがれることができない。だから仕方がなくて燃やしてしまおうというところに追いつめられているのです。
    これから事故が起きなければいいと私はもちろん願いますけれども、だんだんだんだんまた事故の可能性が増えているところに、日本というこの国が追い込まれて行ってしまっているということだと思います
    そして福井県の若狭湾というところには、高浜原発を含めて10基を超えるような原子力発電所が林立していますので、ひとつの原子力発電所の事故で、また他の原子力発電所にも影響が及んでしまうという可能性もあると思いますし、今後地元の人達、一体どうやって逃げることができるかということを福井県も含めて、きっちりと考えておかなければいけないと私は思います。
今 西: わかりました。小出さん、今日もありがとうございました。
小 出: はい。こちらこそありがとうございました。