2016年9月14日水曜日

新電力も廃炉費用負担 原発優遇策は納得できない(愛媛新聞)

 政府は、廃炉費用などを原発を保有する大手電力だけでなく、新規参入した新電力にも負担を求める方向で検討していて、その徴収方法は、新電力が大手電力に支払う送電網利用料に上乗せする案が有力だということです。政府はすでに、通常の原発の廃炉費用も同様の方法で全ての利用者に転嫁する方針を固めています。
 
 これはまず、電力の小売り自由化、発送電分離などの電力システム改革、全ての事業者が公平な環境で競争することが前提であることに反します。大手電力の不利な面をすべて新規参入した新電力にも負担させるというのでは、電力自由化の理念に合致しません。
 
 もともと廃炉費用はコストの一部として大手電力の電気料金に組み込まれていてこれまでも利用者が負担してきましたそれがここにきて全く足りなかったということであれば、原発の発電コストの安さを強調してきた政府や大手電力の説明は何だったのかということになります。
 政府がどうしても大手電力会社の窮状?を救いたいというのであれば、これまでに積んだ引当金の額や見込まれる不足額、その理由などの詳細を原発ごとに開示した上で、原発の電気は決して安くないことを認める必要があります
 
 福島原発の事故から5年半がたっても国や東電などの責任が曖昧なままです。国民に痛みを強いるのではなく、株主や社債を保有する投資家、取引金融機関など利害関係者を含め、責任の所在明確化することこそが必要です。 
 
 愛媛新聞の社説を紹介します。
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(社説)新電力も廃炉費用負担 原発事業者優遇は納得できない
愛媛新聞 2016年09月13日
 国民が電力会社を選ぶことができる小売り自由化の理念に反すると言わざるを得ない。東京電力福島第1原発の廃炉費用などを巡り、政府が原発を保有する大手電力だけでなく、新規参入した新電力にも負担を求める方向で検討しているという。 
 徴収方法は、新電力が大手電力に支払う送電網利用料に上乗せする案が有力だ。政府はすでに、通常の原発の廃炉費用も同様の方法で全ての利用者に転嫁する方針を固めており、再生可能エネルギーに特化した新電力と契約しても原発関連の負担を強いられる。東電をはじめ大手電力の事実上の救済にほかならず、再考を強く求めたい。 
 
 事故を起こした福島第1原発と他の原発を同列に扱うことに違和感が募る。収束や賠償の重要性は言うまでもないが、電気料金とは切り離して論じるべきだ。さらに、事故から5年半がたっても国や東電などの責任が曖昧なままであることを忘れてはならない。国民に痛みを強いるより、株主や社債を保有する投資家、取引金融機関など利害関係者を含め、責任の所在の明確化を急いでもらいたい。 
 
 新たな制度構築を模索するのは、新電力への切り替えが多くなれば廃炉に支障が生じる恐れがあるためだ。これまでも廃炉費用は大手電力の電気料金に組み込まれ、利用者が負担してきた。自由化に伴う価格競争に直面した大手に配慮し、確実に徴収する仕組みの温存を目指したのは想像に難くない。 
 政府は新電力と利用者に負担を求める代わりに、原発で発電した電気の一定量を新電力が安価に利用できるよう、大手電力に要請する構え。原発を推進するための枠組みに新電力を巻き込もうとする、なりふり構わぬ姿勢を危惧する。
 
 そもそも、自前で賄いきれないほど廃炉費用がかさむ可能性を議論すること自体、原発の発電コストの安さを強調してきた政府や大手電力の説明と矛盾しよう。通常、廃炉費用はコストの一部として想定済みのはず。足りなくなるというのなら、これまでに積んだ引当金の額や見込まれる不足額、その理由などの詳細を原発ごとに開示した上で、原発の電気は決して安くないのだと認める必要がある。
 
 政府は新電力に切り替えた利用者も、これまで原発のメリットを享受してきたはずだと主張する。否定はしないが、結果的に原発に頼った国民の多くが原発に依存しない社会の実現を願う現状をこそ、直視しなければなるまい。国や大手電力は廃炉を先延ばしして原発活用を図るのでなく、廃炉のスケジュールと脱原発への道筋を速やかに明示するよう肝に銘じてほしい。 
 
 小売り自由化、発送電分離などの電力システム改革は、全ての事業者が公平な環境で競争することが前提だ。大手電力の苦境ばかりを強調すると、競争環境をゆがめることにもなる。大手の優遇と原発維持に偏った政府の対応は納得できない。