2016年9月6日火曜日

絵に描いた餅の避難計画 避難訓練は無意味

 4日、四国電力伊方原発が過酷事故を起こしたと想定した避難訓練が行われました。
 伊方原発は日本一細長い佐田岬半島の付け根付近にあり、半島の住民の避難が課題とされています。訓練は半島から海路避難するケースを予定しましたが、台風12号の影響を考慮して船舶に住民が乗船する訓練は中止されました。
 
 先月27日には福井県高浜原発でも地震で原発事故が発生した想定で避難訓練が行われました。
 約140人が生活する音海地区は半島の根元に原発があるため、要支援者の避難にヘリコプターが想定されていましたが、「曇って視界が悪い(波も高かった」ために急きょ中止になりました。そのため住民たちはバスで原発の門前を通って避難しました。半島を出る道路はその1本だけでした。
 
 村野瀬玲奈氏のブログは、こんな訓練は何重もの意味で無意味だと述べました。
 台風が接近する可能性があれば船舶での避難の訓練も出来ないということであれば、実際に暴風雨時や津波のおそれがあるときに原発事故が起きた場合には、避難が出来ないということになります。
 さらに今回の訓練では、「避難経路や岸壁の崩壊、津波の危険性などは想定されなかった」ということで、「穴だらけの避難計画」だとも述べています。
 こんな無意味な避難計画を形だけつくって核発電所を再稼働させようというのは無理な話。やはりいったん事故を起こしたら人間の手に負えない原発派はやるべきではない、というのが自然な結論であるとしています。
 
 海路で避難するしかないが、荒天のため海路での避難訓練が中止になったという事例は、実際に北海道(泊原発)でも九州でも頻発しています。
 事故が起きても避難できない、そんな原発が何故作られたのか。立地時には事故は絶対に起きないという考え方で進められたからです。とはいうものの事故の可能性はゼロではないからその時のために辺鄙な海岸を選んで原発を建てておくものの、避難の手段があるかについては無視する…そうした利己的で矛盾した考え方から立地された結果です。
 対策はただ一つ、「付近住民が避難できない原発は稼働させない」、それしかありません。たとえ国内の全ての原発がそれに該当することになろうとも、そうです。まして危険で不要な原発は稼働させるべきではありません。
 アメリカでは実効性のある避難計画が立てられなければ稼働させないということが徹底されていると聞きますが、極めて当然のことです。
 
 また東京新聞は5日、「原発避難計画『絵に描いた餅』ならば」 という社説を載せました。
 当然、「・・・ならば、原発を稼働させてはならない」と続きます。 
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愛媛県・伊方原発事故を想定した避難訓練は無意味
村野瀬玲奈の秘書課広報室 2016年9月4日
愛媛県・伊方原発。事故を想定した避難訓練があったことが報じられていますが、こんな訓練は何重もの意味で無意味です。
 
核発電所事故が起きたら、2011年3月の福島第一原発の事故のように、人間の手に負えない最悪の事態が想定されます。事故直後の事態収束においても最悪の事態であるだけでなく、その後も、その地域と周辺は広域にわたって核物質によって汚染され、現実的には住むことができない状態となることを覚悟しなければならないのです。
 
地震や津波や台風のような自然災害の多い日本に住む日本人は本来そのことを学んでいなければならないはずですが、日本人はある程度の核発電反対の世論がありながらも核発電推進政権を選挙で勝たせ続けているように、核発電の危険性を本当に理解しているのか疑問です。「賢者は歴史から学び、愚者は経験から学ぶが、日本人は経験からすら学ばない」と後世の歴史書に書かれる可能性は残念ながら決して低くないと言わざるをえないというのが私の考えです。
 
そこで、伊方原発での避難訓練とはどのようなものか記憶のために記録しておきましょう。
 
伊方原発の事故想定し避難訓練 3号機の再稼働後初
朝日新聞デジタル2016年9月4日
 愛媛県は4日、四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)の事故を想定した避難訓練を実施した。8月の伊方原発3号機の再稼働後、避難訓練は初めて。伊方原発は佐田岬半島の付け根付近にあり、半島の住民の避難が課題とされる。訓練は半島から海路避難するケースを想定したが、台風12号の影響を考慮し、実際に民間船舶に乗船する訓練は中止された
 ・・・政府が了承した避難計画では、半島から東へ向かう道路が寸断された場合、最大で約4700人の住民が、海路で県内や大分県に避難する。
 ・・・ 一方、今回は港へ集まる手順や所要時間の確認が目的で、全体の避難計画の一部のみ。避難経路や岸壁の崩壊、津波の危険性などは想定されなかった
(以下省略
(転載ここまで)
伊方原発が事故を起こした場合に備えて、佐田岬半島に取り残される住民の数に対応した避難用の船を港にいつも停泊させておくのか、というのが誰でも思いつく疑問でしょう。事故が起きてからどこかの港から船を呼び寄せるとしたら時間がかかりますし、そもそも、そんな船をそんな遠くない港で準備万端な状態で待機させるとでもいうのでしょうか。
さらに、記事にあるように、「避難経路や岸壁の崩壊、津波の危険性などは想定されなかった」とのことで、穴だらけの避難計画です。
 
核発電所事故が起きたら、想定外の被害が出ることこそを想定していなければならないというのが福島第一原発事故の教訓であったはずですが、経験からすら学ばない日本人、という言い方が日本人全体にきびしすぎるとお思いなら、経験からすら学ばない核発電推進原理主義者の日本人たちは、こんな無意味な避難計画を形だけつくって核発電所を再稼働させようというのです
 
それに加えて、ちょうど接近している台風の影響を考慮して「実際に民間船舶に乗船する訓練は中止された」とのことなのですが、台風のさなかに核発電所事故が起こる可能性だってあるのですから、ちょうど来た台風のさなかに乗船する訓練もした方がよかったのではないか、と皮肉を込めて言っておきたいです。
そのように穴だらけの無意味な避難訓練ですが、仮にこの避難訓練が完璧なものだったとしても、事故が2016/09/05  
起きたら付近の住民がこれだけ大規模に避難訓練をしなければならないというのがおかしいのです。たとえば、食品工場、製紙工場、自動車工場のような工場周辺の住民が事故に備えて避難訓練をしているでしょうか。していません。そんな負担と手間を、電力会社の社員でもない住民が自分の時間と費用を使って負わなければならないというのがそもそもおかしいのです。
 
そして、ひとたび大事故が起こったら住民の生活は破壊され、人生設計はめちゃくちゃになります。その責任を電力会社、日本政府、自民党といった核発電推進原理主義組織はろくにとりません。そのことは福島第一原発事故後の日本政府、自民党政権、電力会社、核発電推進原理主義組織の対応を見れば明らかです。
やはりそもそも、いったん事故を起こしたら人間の手に負えない核発電はやるべきではない、というのが自然な結論でしょう。
後 略
 
(社説)原発避難計画「絵に描いた餅」ならば 
東京新聞 2016年9月5日
 「絵に描いた餅」。原発事故の広域防災訓練の参加者が、漏らした言葉。でも皆さん、そもそも疑問に思いませんか。こんな訓練が必要な原発と、私たちは、ともに暮らしていけるでしょうか。
 原発から半径三十キロ圏内の広域避難計画の策定は、3・11の教訓を踏まえ、原子力規制委員会から自治体に義務付けられた。
 避難の実効性には、かねて疑問があった。全国に先駆けて再稼働した九州電力川内原発では、三十キロ圏内の住民全員が避難を終えるまで、最長で四十三時間かかると警鐘を鳴らしていた。
 
 先月再稼働したばかりの四国電力伊方原発では、陸路で避難する場合、事故を起こした原発の直前を通る以外に、文字通り道がない人たちが大勢いる。
 
 先月末、関西電力高浜原発の事故を想定し、福井、京都、滋賀三府県の広域防災訓練が展開された。福井から兵庫まで最大百三十キロの避難行。浮かび上がった懸念材料は数え上げたらきりがない
 本番さながらとは言いながら、原発に近い高齢者施設でも、手順を確認しただけだ。訓練への参加も困難な認知症のお年寄りたちを、事故の混乱の中でどうやって、無事に、遠方まで避難させることができるのか。
 
 訓練の結果から、修正可能なことはもちろんある。
 しかしたとえば、主要な避難路が津波で水没したり、地震で崩落したらどうなるか。3・11や熊本地震で実際起きた複合災害対策は、そう簡単にはなし得ない。
 事実、船による“避難”は「悪天候」で中止になった。
 そもそも原発は、人口密集地から隔てられ、交通の便が良くないところに建てられてきた。避難を考慮に入れた立地には、なっていないということだ。
 
 国策と言いながら、国は避難計画の策定を“支援”するだけだ。規制委は、計画を作れと言いながら、なぜか、その内容や効果を審査する立場にはないと言う。
 住民の安全を物差しにして、避難計画の実効性をきちんと審査したならば、恐らくどの原発も、おいそれとは動かせまい。
 天災は避けられない。だから備えを怠れない。だが、原発事故は避けられる。
 訓練を重ねて身に染みるのは、原発のリスクの大きさだ。そして「原発に頼らない社会」づくりを進めていけば、「絵に描いた餅」と言われる机上の避難計画も、確実にいらなくなるということだ。