2016年9月27日火曜日

「もんじゅ」廃炉の裏で新たな利権を貪る「新高速炉」開発計画

 「もんじゅ」の廃炉は余りにも当然のことで、さすがに文科省の役人もその利権を手放すしかなかったと思われたのですが、実は単に経産省との利権の奪い合いに敗れたのだということです。
 昨年11月にもんじゅの運営主体の見直し勧告された文科省は、電力会社などに参加を呼び掛けたのですが電力会社側は全く応じませんでした。経験がないからというのが表向きの理由でしたが、実は経産省から各電力会社に「応じないように」という指示が出されていたためだということです。
 
 国は「もんじゅ」廃炉と並行して「高速炉開発会議」を新たに設置するのですが、その主体をなすものは経産省です。要するに、経産省を中心とする原子力ムラ=原発マフィアが勢ぞろいして、文科省に代わって新た核燃料サイクルを推進するというわけです。
 当面はフランスが取り組んできた新型高速炉「ASTRID(アストリッド)」の研究をフランスと共同して進めるということです。ASTRID2030年ごろの運転開始を目指しているのですが、基本設計完了予定の2019年までしか予算が確保されていません。それで足りない分は結局「日本金蔓」になって完成させる=後始末をするいう懸念があるということです(文科省筋)
 というわけで「もんじゅ」と似たような結果にならないという保証はないのですが、原発マフィアとしてはどういう名目であれ国の金が回ることになれば、それで目的は達成される訳です。
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高速増殖炉「もんじゅ」廃炉の裏で、経産省や電力会社ら
原発マフィアたちが新たな利権貪る新高速炉開発計画
LITERA 2016年9月24日
 1983年の原子炉設置許可から33年、94年の初臨界から22年、その間、実働わずか250日で1兆2000億円もの莫大な予算が投じられてきた高速増殖炉「もんじゅ」が廃炉に向け動き出した。
 使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し再び燃料とすることで“夢の原子炉”“核燃料サイクルの本命”といわれた高速増殖炉「もんじゅ」。だが95年8月29 日の初発電から4カ月も経たない12月8日に冷却材のナトリウム漏れ事故が発生し運転が停止され、5年後の2010年5月には再び運転が開始されたが、その45 日後には炉内中継装置の落下事故で再び運転が停止された。その後も数々の点検漏れなどの不祥事が続き、2013年には原子力規制委から事実上の運転禁止命令が出されるなど再稼働の目処がつかない状態が続いていた。
 この間、設備維持などで年間200億円もの公費が投入されていたことなどから9月21日、ついに政府も廃炉も含めた抜本的見直しを年内までに行うことを発表、これは事実上の「もんじゅ」廃炉決定と言っていいだろう。
 
 しかし間違えてはいけない。「もんじゅ」が廃炉になるからといって、核燃料サイクル構想じたいが頓挫したわけでは決してない。「もんじゅ」を廃炉にする一方で、政府は新たな高速炉開発に着手、核燃料サイクルをさらに推し進める方針を打ち出したからだ。
「政府が、高速増殖炉『もんじゅ』について廃炉を含め抜本的に見直すことを前提に、新たな高速炉開発の司令塔機能を担う『高速炉開発会議(仮称)』を設置する方針であることが21日わかった」(朝日新聞DIGITAL9月21日)
 
「もんじゅ」廃炉とともに発表された新たな司令塔組織の設立。その背景のひとつには、八方塞がりとなった「もんじゅ」を管轄する文部科学省からその利権を奪う経済産業省の権益争いがあった。というのも「高速炉開発会議」は「もんじゅ」を所轄する文部科学省ではなく、経済産業省が中心となり、ほかにも電力会社や原子炉メーカーなど民間企業も参加するものだからだ。つまり、これは経産省を筆頭とした原発マフィアが勢ぞろいして、新たに核燃料サイクルを推進するための場であり、さらにはそのため投入される莫大な予算を“利権分配”をする場なのだ。廃炉報道のあった21日、「時事ドットコムニュース」ではこんな報道がなされている。
 
「存続を求める文部科学省と、もんじゅ抜きの核燃料サイクル政策を目指す経済産業省の主張が対立。最後は政権に強い影響力を持つ経産省の意向が通る形で決着した」
 「原子力規制委員会が昨年11月に(もんじゅの)運営主体の見直しを勧告したのを受け、文科省は電力会社などに参加を呼び掛ける形で新たな運営主体を模索。しかし、政府関係者によると、『経産省が邪魔をし、企業に応じないよう求めた』のが内幕という」
 そして「もんじゅ」に代わり、経済産業省が推し進めるのがフランスの高速炉計画「ASTRID(アストリッド)」プロジェクトだ。これは工業用実証のための改良型ナトリウム技術炉だが、この技術開発を日仏で進め2030年までの実用化を目指すという。しかもこの高速炉計画はすでに2年前から決まっていたものだ。
「両首脳は、経済成長においてはイノベーションが重要であることで一致し、会談直後の署名式においては、安全性の高い新型原子炉ASTRIDを含む技術開発協力に関する取決めが著名されました」(外務省が発表した日仏首脳会談概要より)
 
 これは2014年5月5日に行われた安倍首相とフランス・オランド大統領の首脳会談で高速炉技術設立に交わされた協力合意だが、「ASTRID」プロジェクトはすでに2年前から安倍政権のもとで “国策”として決定していた。そして新たな「ASTRID」計画があったからこそ、失敗作の「もんじゅ」の廃炉を決定できた。
 つまりこれ以上「もんじゅ」に固執すれば莫大な予算への批判は必至だが、しかし目先を変えて「ASTRID」という新たな事業とすれば、国民からの批判もかわせるし新たな予算もつけられる。そのため文科省の「もんじゅ」から経産省の「ASTRID」に名前を変え移行した。それだけだ。
 
 しかもこれまで投入されてきた1兆2000億円に加え、「もんじゅ」の廃炉費用は新たに3000億円もが試算されているが、「もんじゅ」失敗の原因究明はおろか責任論さえあがっていない
「ASTRID」計画にしても未だ基本的な設計段階で、すでに計画が遅れているだけでなく、予算も基本設計が終了予定の2019年までしかない。地震大国日本で建設するには耐震性に問題があるとの指摘もある。また当初フランス側は「ASTRID」の実験施設として「もんじゅ」を使うことを要望していたがそれもできなくなった。そもそも高速炉じたい冷却材であるナトリウムを取り出す技術が確立されていないため、世界でも実用化されてはいない。
 
 それでもなお、政府は“夢の原発”“第4世代の新型冷却高速炉の研究”などという美名のもと、「ASTRID」プロジェクトを進める方針だ。また核燃料サイクルの堅持だけでなく、各地の原発の再稼働、青森県・六ヶ所村の再処理工場竣工、プルサーマル推進、MOX燃料加工工場の建設、青森県むつ市の使用済み燃料中間貯蔵施設の竣工などを推し進め、そのために莫大な国費が投入されてきた。
 しかも、さっそく産経新聞が「高速増殖炉 『シンもんじゅ』を目指せ 核燃サイクルは国の生命線だ」(9月18日)と掲載すれば、読売新聞も負けじと「もんじゅ「廃炉」 核燃料サイクルを揺るがすな」(9月22日)と社説に掲載するなど、安倍政権親衛隊メディアはそれを後押しし、煽り続ける。
 実現が疑問視される高速炉だが、政府や原発ムラはそれに頓着する気配すらなく、新たな計画に莫大な金をつぎ込むだろう。福島第一原発の収束さえままならないなか、行き場のない高レベルの放射性核廃棄物の解決策は、核燃料サイクルではなく原発関連施設のすべての停止と廃炉しかないはずだ。 (伊勢崎馨)